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第一章・リーファ視点

1-69・僕の望むこと①

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 ずっと近くにいた兵士の一人が、再度、公女様のお口を拘束する。
 大公閣下のお顔は真っ青なまま。今度は抵抗せず項垂れたような公女様と合わさって、なんだか二人とも、とてもかわいそうな雰囲気となっていた。

「申し訳、申し訳ございません……重ね重ね、本当に申し訳も……」

 今にも平伏しそうな大公閣下が、僕は憐れでならなくて。

義兄上あにうえ

 困ったように義兄上を呼ぶと、義兄上は小さく頷いて。

「わかってるよ、リーファ。心配しないで」

 そう、僕に微笑みかけて下さった。

「あ、あの、もう、娘は……」

 そんな僕達におそるおそる大公閣下がお声をかけてくる。今度こそ公女様を下がらせていいかと伺ってきているのだろう。
 義兄上は溜め息を吐いた。

「そうだね。またもう少し詳しく聞くこともあるかとは思うけど……それは他の者にお願いすることにしよう。彼女の方も、もう話すことはないようだし」
「あ、ありがとうございますっ……!」

 義兄上がちらと公女様へと視線を流しながらそう言ったけれど、公女様は少し前までと違って、義兄上からの視線にも反応せず、ただ力なく項垂れるばかりで。
 公女様は、ほんのついさっきまでとても怖かった。とても嫌な眼差しばかり僕に投げかけてきて、お話しする言葉は意味が解らないことばかり。
 どうして僕はこの公女様に、こんなことを言われているのだろうと、僕はずっと戸惑い続けてきたのだけれど。でも。
 今はそんな時の強烈なまでの雰囲気はすっかり鳴りを潜めていて、むしろしおしおと萎れた様子はかわいそうだ。
 公女様はそのまま、兵士に促されるまま、抗わず部屋を出ていった。
 残ったのは僕と義兄上と大公閣下。
 義兄上は改めて僕を見た。続けて大公閣下を見る。その次に、とても嫌そうにしぶしぶと言った雰囲気で口を開いた。

「度重なるリーファへの暴言に暴行未遂、誘拐への加担まで。私はあの公女の行動の何もかもを許す気にならないのだけれどね。ただ、どうやらリーファは、あんなことをされてなお、あの公女のことをかわいそうだと思っているようだ」

 何も言わなくても僕の気持ちを汲んで下さった義兄上は、ため息交じりにそう告げた。

「彼女自身、あの様子ではまだ更に何かをしてくるようなことはないだろう。それに関しては今度こそ、君にしっかりと管理して頂きたいものだね」

 つまり、義兄上、あるいはナウラティス側から彼女に対して、何らかの罰や、それに類した指示などは何も行わないということだ。
 僕は嬉しくなって義兄上にぎゅっと抱き着いた。

「ありがとうございます、義兄上!」

 だって、最後に見た公女様は、なんだとかとってもかわいそうだったんだもの。
 正直に言うと僕は、あの公女様のことが全くちっとも好きではないし、何なら苦手だと思っている。でも、だからと言ってあの公女様に、何かかわいそうなことになって欲しいだなんて思ってはいなかった。ただ、今後もう二度と僕や義兄上に対して、嫌なことを言ったりしたりして来なければそれでいい。そうしたらきっと、これからは関わることもないはずなのだから。
 にこにこと笑う僕を、義兄上は仕方がないとばかりにぎゅっと抱きしめる。
 いつも通り、とっても気持ちいい義兄上の腕の中、僕はあたたかな幸せに浸っていた。
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