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第一章・リーファ視点

1-65・本当のお話③

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「君は再三リーファの出自を気にしているようだけれど、血筋だけで言うなら、私よりもリーファの方が王族としての血は濃いんだよ? 確かに、私の弟ではない。だが、王弟である事実に違いはないし、もしくは王子と言ってもいい。なにせ、私の曽祖父である先代皇帝の実弟だ。先々代皇帝と皇后が、生前最後におつくりになられた実子になる。お二方とも、王族としての血が濃い方々だ。代を重ねた私の方が、ずっと血は薄まっている。この子が下賤だというのなら、この近辺の国には下賤じゃない者なんて、誰もいないだろうね」

 初めからわけがわからなかった公女様のお話の中で、明確に間違っていたのはそこだ。
 僕と義兄上あにうえは本当の兄弟ではないけれど、間違いなく血は繋がっているのだから。

「そもそも、先代の皇帝陛下が引き取るというのを、是非にと願って私の方が望んでリーファを求めたんだ。それなのにこの子が私を騙す余地など、何処にあるというのか」

 理解しがたい。そんな義兄上のお言葉に、公女様は勢い良く首を横に振っていらした。

「嘘よ! そんなはずないわ! その子供は陛下を騙しているのよ! だって私はそう聞いているわ!」
「いい加減にしてくれないか。君の聞いていたことが全て間違っているという話なんだよ。だいたい、リーファのこの姿を見て、どうして存在を疑うことが出来るんだ! こんなにもの皇后陛下にそっくりだというのに!」

 そうなのだ。僕はこれまで、出自を問われたことなんて一度もなかった。だって見ればわかるのだ。兄様が、同じ顔をしているというぐらいに、僕は母様そっくりなのだから。
 母様をおそらくご存じでいらしたのだろう、大公閣下は項垂れておられた。自分の娘の発言に、大公閣下こそが、信じられない気持ちでいらっしゃるのかもしれない。
 でも、母様はこの公女様がお生まれになる前に亡くなっている。公女様が僕の母様のお顔を知らないのは、あり得なくはない話ではあった。
 とは言え、魔法や魔術関連のお勉強をしていたら、ほとんど必ずと言っていいほど、母様の絵姿なんて、一度や二度は目にしているはずなのだけれども。
 色々となさっていらした方だったようだから。例えばポータルにだって、母様の成した痕跡はあると聞いている。少なくとも、以前よりずっと少ない魔力で転移が可能なように改良を加えたのは母様だったはずだ。

「嘘よ、嘘! そんなはずない、そんなはずないわ! そんなはず……」

 公女様は首を横に振りながら、改めて僕の方へと視線を向けた。
 その視線は、いつもみたいに睨み付けてくるような嫌な感じのものじゃない。むしろ弱々しいぐらいだった。

「どうして嘘だと思うのか……君の発言の方が根拠がない。それに君は随分と、身持ちがゆるいだとか言ってリーファを貶めているけれど、それこそ、あり得ない話なんだ。確かに、リーファは自分の子供の父親のことを知らないままだ。だが、それで問題などどこにもない。何故なら、子供は私の子供・・・・なんだから」

 頑是ない子供に言い聞かせるかのような義兄上のお話に、だけど首を傾げたのは、今度は僕の方だった。
 うん? あれ? それは、僕の子供の父親になってくれるというお話なのだろうか。でも、今のお話の仕方だと、そうではないように聞こえて。
 そう思ったのは、僕だけじゃなかったみたいで。

「それは、慈悲深い陛下が父親代わりを買って出られたというお話しで、」
「違う」

 公女様が、確かめる為なのか、もしくは更に何かを言い募る為なのか、そう、何かを言いかけたのを、義兄上は遮ってきっぱりと否定した。

「リーファは私しか知らない・・・・・・・んだ。リーファに魔力を注いだ者など、私しかいない・・・・・・んだから、子供の父親も私以外にはありえない・・・・・・・・・・んだよ」
「で、でも、その子は父親がわからないと、」
「当たり前だろう? リーファは知らないのだから。私がリーファに魔力を注ぐのは、リーファが眠っている時ばかり・・・・・・・・・だったからね」

 義兄上がそう言い切った瞬間、一瞬、意味がよく呑み込めなかったらしい公女様は、だけど、それを理解した途端、愕然とした表情で義兄上を見た。
 信じられない、あるいはとんでもないとその眼差しが言っている。
 実際、義兄上がおっしゃったことは、とても衝撃的なことだったのだと思う。だけど義兄上は、当たり前のことを応えただけで、どうしてそんなにも驚くのかの方こそ、わからないというようなお顔をしていらしたのだった。
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