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86・提案、そして。⑦
しおりを挟む知らない。とは、いったい何なのだろう。
自分はいったい、何を知らないというのか。
「蒼貴妃様」
自分がまるで本当に、小さな子供でしかないかのような気持ちになる小美の前で、涼が咎めるような声で呼びかけた。
けれど蒼貴妃はそんなことをまったく気にした様子もなく、それどころかころころとおかしそうに笑いさえする。
理解できない。
小美は言いようのない不安感に苛まれ、そこから逃れる術を持たなかった。
「あら、いいじゃない。いずれ、わかることよ。いいえ、わからなければいけないこと。何より、小美にだって知る権利があるわ。ねぇ?」
同意を求められても何の判断も出来ず、けれど、誘われるようにして、知らず、小さく頷いてしまう。
その途端、涼の気配が尖ったのがわかった。
次いで諦めたように息を吐いたのも。
「……仕方が、ありませんね。そうでなければ貴方はきっと、おとなしく色々なことをお教え下さらないのでしょう」
苦い声。
涼のこんな声など、初めて聞く。
それどころか、涼よりずっと付き合いの長い翔兄からさえ、聞いたことのないような声だった。
「うふふ。よくわかっているのね。流石だわ。それでこそ次代を任せられるというものよ」
もっとも、それぐらいの強かさがなければ、後宮の閉鎖など唱えられなかったかしら。
続けられた言葉に、小美は驚いて目を見張った。
「後宮の、閉鎖?」
解散ではなく? それに、次代、とは。
蒼貴妃がまた、笑みを深める。
柔らかく、穏やかに、おっとりと。小美に向けられる眼差しは、どこか慈しむようなもののまま。
「ええ、そうよ。この後宮はね、もうじき……次代の皇帝が即位されるのと同時に、閉鎖されることが決まっているの。もっとも、そうは言ってもおそらくは一代限りのことになるのでしょうけど」
けれどもそれが許された。
そこで一度言葉を切って、蒼貴妃の視線が小美から僅かに離れる。
代わりに見つめられているのは涼で。
小美もまた、涼へと意識を向けた。
蒼貴妃がやはり笑んだまま、再び口を開く。
「承認されたのよねぇ? そう言った状況に持って行ったのでしょう?」
次代天子様。玉翔殿下。
穏やかな声音で、そうして告げられたのは、これまで疑問に思っていたことの答え。
けれど同時に、もしかしたら、疾うにわかっていたことでしかなかったのだった。
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