62 / 96
*60・重なる夜
しおりを挟む「明妃様」
夜も更け、疾うに寝台で眠りについていた小美は、耳慣れた声に揺り起こされた。
否、実際に揺れている。
「ぁっ?! ぁあんっ!」
ずんっと、突き上げられながら胎の奥、灯った熱があつい。
「ぁあっ!」
その瞬間、どばっと、小美に襲いかかってきたのは、頭を白く染め上げる快感だった。
ああ。
視界が揺れている。
目の前にいるのは涼だ。
否、これは本当に涼なのだろうか。
何とか、髪色に注視する。
薄暗い閨の灯りの中で、更に揺さぶられるままの視界ではなかなか判別が難しかったけれど、仄かに浮かび上がるような、鮮やかな紫であることがわかって、やはり涼に間違いはないと、どこかでがっかりしている自分を自覚した。
……――翔兄ではない。
だって翔兄は、もっと濃く青い色の髪をしているから。
だけど翔兄と同じよう、近頃は昼にちっとも姿を見せなくなった涼だった。
それでいて翔兄と同じよう、やはり夜にはこうして小美の元へと訪れるのだ。
「明妃様、明、妃様っ、うっ……ぁあ、なんて、お可愛らしい……」
息を詰めながら腰を振り、ぽたと滲む汗を小美の上へと滴らせる涼は髪色以外、今夜は余計に翔兄と、何処にも違いを見つけられないばかりだった。
だからだろうか、それとも他に理由があるのか。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、ぁあっ、ぁあんっ、ぁっ!」
突き上げられる動きに合わせて漏れる、意味など持たぬ声を堪えることなく上げながら、だけど小美が求めるのはただ一人。
それは決して涼ではなく。
「ぁっ、ぁっ、ぁあっ! 翔、兄……っ! ぁあっ!」
翔兄。
小美が求める只一人。
ずっとずっと傍にいて欲しい唯一の人。
こんな風に夜に、小美に触れるのは翔兄だけだったはずなのに、どうして今、小美は涼に揺さぶられているのだろうか。
「ぅっ、くっ……明妃、様っ……!」
「ぁあぁあぁあああっ!」
ひと際激しさを増した動きの果て、涼が苦し気に息を詰め、途端、胎の奥に広がった熱は、それすなわち涼が小美へと、魔力を注ぎ込んだ証。
その刺激に導かれるよう、小美の頭も白く惚け、直に何も考えられなくなっていく。
だって、だって。
ただ、熱いから。
胎の奥が熱くて熱くて。
そのうちに燃えてしまうのではないかと思った。
注ぎ込まれた魔力が、ぐるぐると小美の胎で渦巻いているのがわかる。
だけどそのまま、胎の中で、何かに集約されていくのがなぜなのかはわからない。
そもそも、この行為はいったい何なのか。
翔兄と。こうして夜に触れ合うのは、灯った熱を治める為なのだと聞いていた。
ならば涼も同じよう、小美で熱を治めようとしているのだろうと思う。あるいは小美が知らず熱を灯してしまっていて、それを悟った涼が治めようとしてくれているだけなのか。だけど。
どうして涼がそれをするのか。小美にはまったくわからなかった。
翔兄が秘密だと言った行為だ。
だから小美は注がれた翔兄の魔力を隠しまでしていた。
それを今、小美は涼と交わしている。
翔兄ではない涼と。
それなのに翔兄と、少しも違わないようにしか思えない涼と。
どうして。
わからない。
小美にはわからない。ただ、
「明妃様……ああ、なんてお可愛らしい……私の明妃様」
呟く涼の姿がいつかの夜の翔兄に重なっていく。
可愛い、可愛いと囁いて、溢れんばかりの慈しみを、小美へと注いでくれた翔兄と。
翔兄。
小美はここ半年と少し、翔兄とは一度も会えていなかった、否、そのはずだ。
翔兄はすっかり夜にさえ、小美の元へと訪れなくなってしまって。
その代わりのように現れた涼。
それらがいったい何を意味しているのか。
小美には何もわからなかった。
わかることなんて、たった一つ。
翔兄に会いたい。
こんな風に熱を治め合うのは翔兄とだけがいい。
ただ、それだけなのだった。
12
お気に入りに追加
197
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~
sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。
ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。
そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。
「悪役令嬢は溺愛されて幸せになる」というテーマで描かれるラブロマンスです。
主人公は平民出身で、貴族社会に疎いヒロインが、皇帝陛下との恋愛を通じて成長していく姿を描きます。
また、悪役令嬢として成長した彼女が、婚約破棄された後にどのような運命を辿るのかも見どころのひとつです。
なお、後宮で繰り広げられる様々な事件や駆け引きが描かれていますので、シリアスな展開も楽しめます。
以上のようなストーリーになっていますので、興味のある方はぜひ一度ご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる