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24・わからないまま
しおりを挟むそれからである。
小美がひどく軽んじられるようになったのは。誰かの作意があったのか、無かったのか、それさえ小美にはわからない。
ただ、そんなもの、無いはずがないことだけは確か。
宮が離れて、正后の目が届かなくなったというのもあるだろう。
それとも食事だけはと毎食を棗央宮で正后と共にし続けているが故、食事の手配をする宮人さえ必要としなかった所為か。
とにかく今になっても小美専属の宮人は誰もいないまま、涼だけが何くれとなく世話を焼きに訪れるようになっていた。
元々はそのような役目を請け負ってはいなかったはずであるにもかかわらず、である。
そもそも涼だって、別に小美専属というわけではないのである。涼は言うならば後宮全体に所属しているにすぎず、ただ、自主的に彼は小美の元を訪れていた。
勿論、そんな涼の真意など小美にはわからない。
小美に分かっていることはごく僅か。
ほとんど毎日涼が小美の元を訪れるということと、彼が見分けがつかなくなりそうなほど、翔兄によく似ていると小美には感じられる、そのたった二つだけなのである。
涼が翔兄に似ているのは、何も見た目や声だけではない。細かい仕草や、何気ない癖、それに何よりも。
「明妃様」
「ぁっ……」
そう、他でもない、小美に触れる手こそが、翔兄とそっくりなのだった。
「明妃様。お可愛らしい明妃様。お慕い致しております。明妃様」
甘く囁きながら涼は小美に触れた。
翔兄とそっくり同じ手、同じ温度、同じ触れ方で。翔兄にしか触れられたことのない小美に触れてくる。
着替えさせる傍ら、衣服を乱し、隙間から素肌へと。あるいは布の上からじんわりと。
育ち始めた瑞々しい小美の肢体へと、余すことなく指を這わせた。
突っ立ったままの小美は、そうして触れられると次第に力が抜けていって、そのうちに立っていられなくなる。
「ぁあっ……」
崩れ落ちる手前、小美の嫋やかな体を涼は掬い上げ、横抱きにして寝台へと運んだ。
特に華美でも粗末でもない、装飾の少ない小美の寝台に、小美はそっと身を横たえさせられて。
小美は熱くなり始めた体ゆえ、潤んだ瞳で涼を見た。
やはり見れば見るほど翔兄そのもの。他の者には誰にも、そうは見えていないらしいことがいまだに小美には不思議でならない。
どうして、これが他の者だと思えるだろうか。
これほどにそっくりな者など、いるはずがない。なのに。
髪の色が違う。目の色は同じなのに、髪の色だけ。
翔兄の青い髪とは違う紫色を帯びたそれ。それが今も、小美の上へとさらと落ちて。
小美にはわからない。
こうして触れられる、この行為の意味さえも。小美には何も、わからなかったのである。
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