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2・学園でのこと
2-9・僕のしたことと、②
しおりを挟むティアリィはルーファ嬢に、アルフェスを避ける理由を説明しきれないようだった。
ある意味では当たり前と言えば当たり前。アルフェスの行動自体に問題は多いが、ティアリィが彼を避ける最大の理由は、アルフェスが求めるようにはティアリィが返せないからだ。
アルフェスはあくまでもティアリィから求められることを熱望している。
それは言ってしまえば閨にも通じる話で、何年も前に実際口にしたように、ティアリィの子供を産みたいと夢見ているのだ。そこに至る行為でももちろん、ティアリィから自身へと魔力を注いでほしいと思っている。
少なくとも見ている限りでも、そうなのだろうと察せられた。あんな年齢とあんな迫り方でもそうとわかる程度には露骨だったからだ。雄の気配がないと言えばいいのか。実際にベッドに入ると豹変する、なんてこともないわけではないだろうけど……アルフェスに限っては、其処を偽れるとも思えない。もとよりそんな狡猾さや歪みは持ち合わせていないだろう。
ティアリィはどうしてもそれが受け入れられないらしい。
曰く、自分がアルフェスをどうこうだとか想像できない、考えられない、出来ると思えないとのことで。
そんな話を聞いてから数年経つが、何も変わっていないようだ。
このまま変わらないままであればいいと僕は思う。
多分逆なら、ティアリィは拒絶しない。
ティアリィの貞操観念が薄いというわけでもないのだろうけれど、そういった行為にそこまでの夢は見ていないようで、例えば今の年齢であってもアルフェスが求めるなら、ティアリィは受け入れるのだろう。
僕としてはそうでなくてよかったと胸を撫で下ろした事実だった。
しかしそんな話は、ティアリィはルーファ嬢に出来ないだろう。
ティアリィはとにかくルーファ嬢を大切にしている。それこそ、真綿にくるむように、幼い子供を庇護するように。実際にルーファ嬢は入学から一年半経ったところでまだ中等部の2年、14歳だ。僕達でも今年高等部に進学して16歳。いまだ成人には満たない、言うならば子供だ。
それでも、14歳ともなれば、そこまで幼いというわけでもないとは思うのだけど。
……――否、ルーファ嬢は幼いかな。何より情緒が幼いまま。ティアリィが囲い込んで守ってきたせいで、感性がいまだ、幼児のよう。かわいらしいという見方も出来なくはないが、あれは……。
アルフェスはアルフェスで、その辺りは年相応のようなのに、変な拗らせ方をしているし、それだけで何とも言えない気分になった。
僕的には願ったり叶ったりで何の不満もないことではあるのだけれど。単純に幼なじみとして見るなら、なんだかな、と思わなくもないのだ。
気の毒だな、と思う。アルフェスもティアリィも。せっかく好きだったり、悪くはなかったりする婚約者同士なのに、上手くいかないものだな、と。
僕だって、そんな幼なじみ二人に同情できる程度の善良な部分なら持ち合わせているので。たまにアツコは僕を人非人のように詰るけれども。
僕から見るとそんな風に、ティアリィのこともアルフェスのことも両方とも時に可哀そうにも思えてくるのだが、ルーファ嬢は違うようだった。
アルフェスの行動そのものの良くない部分は、わかる。だが、それに対するティアリィの、必要以上に厳しくなってしまう態度が、理解できないのだ。
ティアリィ自身がルーファ嬢に、自身とアルフェスの性的な嗜好の機微のようなものを説明できないせいで。ティアリィがルーファ嬢にはそういった物に触れずにいてほしいといまだに思い続けているせいで。
ルーファ嬢も、もう14歳。全くわからない幼児ではない、はずなのだけど。
「うーん、でも実際説明しても解らない可能性はある、かな?」
今日もまたティアリィを詰りに来たルーファ嬢を見て呟く。
婚約者のはずなのに、アルフェスを蔑ろにしすぎだというルーファ嬢の言い分も、間違っているわけでは決してないのだ。ただ、二人の微妙な機微が理解できないせいで、少々ズレてしまっているだけで。
僕の呟きを聞いたアツコが、こちらをちらと見て怪訝な顔をした。
「何の話?」
「うーん、ルーファ嬢の話、かな?」
応えながら笑って僕は、また近々ルーファ嬢と話す機会を探さなければなと思った。
勿論それは、ティアリィのフォローの為なんかではない。
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