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2・学園でのこと

2-8・僕のしたことと、①

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 そうは言っても、結局僕のすることなんて、大したことではないのだ。
 ただ少しだけ、ルーファ嬢と話す頻度を増やした。
 アルフェスの方はおそらく、ティアリィも避けているし、あの性格だ、放っておいてもいい。否、放っておくしかない。だから、もし何かするとしたらルーファ嬢の方。
 元々、彼女をこそどうにかしなければいけないというのは、僕自身の以前からの見解なのだ。ティアリィには少しも聞いてもらえてないのだけれど。
 今だってティアリィには何度も苦言を呈している。

「ねぇ、ティアリィ。いい加減ルーファ嬢を甘やかしすぎだよ。いつまでそうやって彼女のフォローをし続けるつもりなんだい」

 いつまでもこのままでなんかいられないのだから、と、そんな意味も込めて、告げてみても、ティアリィは気分を害したのを隠さずに、

「いつまでってそんなの……俺が出来る間は、ずっと・・・だけど」

 そんなことを、何を当たり前のことを聞いているのかと言わんばかりの顔で言い放ったりした。
 僕は溜め息を吐いて首を横に振り、アツコは目を逸らす。私に振らないで、と態度で示してくるので、僕は本当にどうにかしようと危機感を募らせた。
 だってこんなの処置なし、だ。
 いつまで、と訊かれて、いつまでも、と応えるなんて。ルーファ嬢から離れるつもりが、ティアリィには微塵もない。むしろ生涯に渡って、彼女と共にいる気でいる。
 ただの・・・兄妹なのに。兄妹を超えた何らかの感情なんて、二人の間には微塵も存在しないのに。
 まるで分かたれた半身のように、自分から離れることはないと信じる。
 そんなもの、冗談ではなかった。許容できるはずなどなかった。
 だから、僕は彼女の方と、少し話す頻度を増やすことにしたのだ。
 徐々に。本当に、少しずつ。じりじりと、ティアリィに気付かれないように距離を縮めて。
 焦らないように自分に言い聞かせ、気長に彼女と接し続けた結果、ティアリィの元に彼女の変化が届くようになったのは、彼女の入学から1年半ほども過ぎた頃のことだった。否、本当は変化はもう少し前から。ただ、明確に表面化したのが、その頃だったのは間違いない。何故ならルーファ嬢は。

「お兄様! 先程のアルフェス様への態度はひどすぎます!」

 そう、ティアリィを、糾弾するまでになっていたのだから。
 僕は愉快で仕方なかった。
 ルーファ嬢が入学してきてからこちら、ティアリィとの時間を減らしに減らされていたのは、不快で仕方なかったけれど。その一方でさりげなく、ルーファ嬢と距離を詰めた甲斐があったというものだ。
 ちなみに先のセリフは、ルーファ嬢が周囲など気にせず、僕もアツコも一緒にいる時に言ったものなので、僕はそう糾弾されたティアリィの変化も、つぶさに観察することが出来た。
 おそらく、此処まで明確なルーファ嬢からの拒絶など初めてだったのだろう、ティアリィはびしりと固まって動けずにいる。
 だが、ルーファ嬢は構わない。

「ル、ルーファ?」

 ややあってひとまずとぎこちなく、彼女の名を呼んだティアリィの声は、初めて見ると言っても過言ではないぐらいに狼狽えきっていた。
 さっき……さっき。さっき、ねぇ?
 ルーファ嬢の言ったさっき・・・を思い出す。
 ある意味ではいつも通り、だろうか。この1年半程で、僕は何もしていないのに、アルフェスの様子は以前にも増しておかしくなってきていた。
 なんと言えばいいのか……元から、ティアリィに付き纏ってはいたのだけれど、それが段々とエスカレートしてきて、今ではティアリィを追いかける為に、自身の授業までサボることがある有様らしい。
 元からルーファ嬢にかかわる話は、ほぼすべてティアリィに集まるようにはなっているのだけれど、そこに時折、アルフェスの話題も加わるようになっていた。
 勿論、その話題とは間違いなく苦情・・である。
 ルーファ嬢曰くのさっき・・・を思い返しても、そのことを絡めてティアリィが、今日も今日とてティアリィの周囲をうろつくアルフェスを捉まえて、諭していただけだ。
 少々口調はきつくなっていたかもしれないが、ティアリィもアルフェスには苛立ってきているようなので仕方がないと僕は思う。
 学生の本文は勉強だ。本当に、授業をサボるなんてティアリィの感覚から行くと、許せるはずのないことだったろう。
 その辺りもまた、アルフェスのまだまだ甘いところだ。
 否、ルーファ嬢と同じく彼もまた、想像力が欠如しているせいだろうか。
 そんな理由も実際含まれていそうだった。
 彼はなんだかんだ言っても、ルーファ嬢と違って自分の家族がある。つまりティアリィ以外からの影響も多大に受けていた。ルーファ嬢がほとんどティアリィからの影響しか受けていないのとは違って、だからより、ティアリィにとって許容できない行動を取った。
 ぐるりと思考を巡らせながら、戸惑うティアリィを眺める。
 ルーファ嬢はひとしきり、ティアリィに向かって彼女なりの正義を振りかざし、つまりはアルフェスが可愛そうだとティアリィに訴えかけていた。
 どう返すのかと見ていると、ティアリィはとにかくルーファ嬢を丸め込む方向に舵を切ったらしく、柔い声で彼女に色々なことを話しかけている。
 例えば、ルーファ嬢の気にかかったアルフェスへの態度の理由だとか、ティアリィ自身の感情だとか。そんな話の合間合間に、ルーファ嬢への誉め言葉というか、彼女をどこまでも肯定する意思も差し挟んでいて、ティアリィらしいなぁと僕は思う。
 だが、そんなティアリィの説得・・も空しく、その日は最後まで終始、ルーファ嬢は機嫌を損ねたままだった。
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