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2・学園でのこと
2-9・突撃してくる妹
しおりを挟むはじめは、不満そうにするだとか、それぐらいと言えばそれぐらいだった。
元々ルーファは、俺がアルフェスを避けていることそのものを、快く思っていない。否、理解できないのだと思う。俺もまた、ルーファに伝えるつもりはなかったし。
なぜ、俺がそんな態度を取り始めたのかという、肝心要の理由。そんなもの、デリケートな問題、と言って、おそらく差し支えないもので、勝手にべらべらと言いふらすようなことでもない。うちの家族や、それとなくほのめかした彼の両親にも、理由を詳細には伝えず、ただ、どうしても兄弟のようにしか思えないので、そういった対象として見ることが出来ないとだけ伝えている。
それも確かに本当の話なのだ。ただ、そうであっても、出来ることと出来ないことがあるだけで。逆なら多分、受け入れられる。だけど。
そもそもアルフェスじゃ反応しそうにないだなんて、ルーファに言えるわけがない。他の理由とか刺激とかで無理やり反応させてアルフェスに跨らせる? どう考えても地獄だろ。無理だ……。
そんな風に躊躇して、理由を明確に出来なかったせいで、ルーファは不審だけを募らせてきたのだろう。他の親たちなどは、なんとなく察している風でもあるのだが、ルーファにそれを求めるのは、年も年だし何より酷だ。
ルーファの目から見た俺は、理由もなく、自分を慕ってくる相手を無下にし続ける非道な兄でしかないのだろう。それ以外の、伝えてしまっても構わない理由は可能な限り、都度都度、諭してきたのだけれど、不十分だったのは俺だって自覚している。
そうしているうちに、ついにはルーファは俺を、声高に非難するようになったのである。
おそらくは。アルフェスの行動が目に余るようになってきて、俺の対応が比例するように厳しくなっていった所為で。
そのうちにアルフェスの方にも少し、変化が出始めていた。
「お兄様! アルフェス様にお聞きしましたわ!」
そう、ルーファに、告げ口をするようになっていったのだ。
そして、それを聞いたルーファがこのように俺に突撃してくる。
うん、今から寝る所だったんだけどね、ルーファ。兄妹とはいえ女の子が、他の人の部屋に尋ねていくような時間じゃないよ。
多分、昼に聞いた話を就寝直前に思い出して、勢い、忘れないうちにと、ここまで急いで来たのだろう、その証拠にルーファの寝支度も、見る限りすっかり整っている。
おそらくは、愚痴、だとか、思わず口からこぼれてしまった呟きを、一方的にルーファに拾われて、だとかいうのが、始まりだとは思うのだが、ルーファは多分、その時も、このように、俺に突撃してきたんだろう。どれが初めだったのかまでは、流石にしっかり覚えていないが、気付いた時には、ルーファからの糾弾の理由に、『アルフェスに聞いた』というものが含まれるようになっていたのだ。
つまり、その言葉の数だけ、アルフェスが、俺の態度に不満があることを、ルーファに漏らしていることになる。あるいは彼なりに、ルーファを頼りにしているのだろうか。1つ年下の、ルーファを? わからない。
ルーファからの呼びかけに、俺はまたか、とは言わずに対峙した。出来るだけ、努めて、穏やかさを保ちつつ。
「……何を聞いたんだい?」
水を向けると、ルーファは我が意を得たりとばかり、姦しく時間も気にせず、キレイな声でさえずった。うん、ルーファは声まで可愛い。内容はともかく。
同時にせめてと、部屋に入れて、ソファに腰掛けるように促す。続けて、お茶でもと、部屋の隅に設置されている棚から茶器を取り出して、お茶の準備をしだす俺の元へ、降り注ぐように言葉が届く。
「次のお休みに、アルフェス様に誘われたお出かけを、お断りしたのですってね! なぜですの!」
逆に問いたい。なぜ、俺はアルフェスからの誘いを断ってはいけないのかと。しかも、俺だって何も理由もなく断っているわけでもない。
「次の休みはもともと、王宮に上がる予定だからだよ。アルフェスに誘われるより前に、決まっていたことだ」
「それは日付の変更ができないような用事なんですの?! お誘いをお断りする言い訳ではなく?!」
「ルーファ」
とんど言いがかりに、流石の俺も、窘めるように名前を呼んだ。
「言い訳だなんてとんでもない。王宮での用事だよ? 俺に日程の変更なんて出来るわけないじゃないか」
「お兄様なら何とでもできますわ!」
「できません」
用意できた茶を差し出しながら、嬉しくない買い被りを、流石にすっぱり否定した。どうぞという小さな促しには、ありがとうございますと落ち着いた返事。
ああ、こういう些細な所は、以前と何も変わらないのに。
それでいて俺の否定には、あからさまな不満顔だ。
俺は深く溜め息を吐いて、ルーファの向かい側のソファへと腰かけた。妙に懐疑的なようだが、おそらく、ルーファ一人の考えではあるまい。
「誰かにそう言われたのかい? 言い訳だとか」
「アルフェス様ですわ。いっつも、用事があるだとか言って。ちっとも自分には付き合ってくれない、きっとそんなの言い訳で、自分の誘いを断るために、わざと用事を作っているのだと悲しんでおられましたの」
うん、だってそれってデートのお誘いだよね、しかも俺に主体性を押し付ける形での。例え用事がなくっても、頷くわけ、ないよね?
などとは勿論、ルーファには言えず、その時のアルフェスの言動が、どうにも自分をエスコートしてほしいと言わんばかりだったこともやはり伝えられず。
俺はあくまでも、用事があるため仕方のなかったことで、悲しませるつもりはなく、アルフェスには誤解があるようだと説きながら、実際の所、確かに、もっと以前からの話とは言え、用事は作ったものであったので、案外アルフェスも鋭い所があるのだな、と思い、どうしたものかと途方にくれたのだった。
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