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16・空へ

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 迎えに来た、それは文字通りであったようで、僕は戸惑っている間に気が付けば初めに見た赤竜の背に乗せられ、空高く舞い上がっていた。

「うわぁ!」

 勿論、これまでそんな経験などなく、大きな声を上げてしまう。
 竜の背ここにいるのは僕一人で、ネアやシズ、どころかホセさえも遠く。
 地上で唖然とこちらを見上げているのが見えた。

「え?」

 え?
 そもそも僕はいつの間に竜の背ここに上ったのだろう。
 それさえまったくわからなかった。
 まず、間違いなく、フォルと名乗った少年がこうしたのだろうことはわかるけれど、わかることはそれだけで。
 ひどく視界が高く恐ろしい。
 もし落ちたら、という恐怖に体がカチコチに固まる。

「心配しなくともいい。落としたりしない。貴方はただそこで寛いでいてくれ」

 少年の声が聴覚を震わせることなく、直接頭に響き渡った。
 びっくりする。
 でも、不快だとは思わない。
 それは今も漂う使いの匂いの所為だろうか。
 ただ、

『落としたりしない』

 その言葉を、何故だか無条件にすんなり信じている自分がいた。
 ばさ、ばさ、赤竜は大きく音を立てて羽ばたいている。
 だけど不思議と、風圧、のようなものは全く僕に届かなかった。
 まるで分厚い、安全な何かに覆われてでもいるかのような。

「神人殿は先に連れていく。君たちはゆっくり向かうがいい」

 少年、否、おそらくは赤竜が下に向かってだろうそういったかと思うと、ますます視界が高く上がって。
 瞬く間に地面が遠ざかる。途端、まるで霧が晴れたかのように、否、晴れたのは砂なのだろう、太陽の光が眩しいぐらいに僕へと降り注いだ。
 地面を見ると渦巻くような砂。
 つまりあれが砂嵐なのだろうか。それさえもが遠いほどに高く。
 何処までも続く青い空。白い雲の欠片がすぐ近く。
 衝撃だとか、空気の流れだとか風だとか。何なら太陽の暑さでさえ、僕には何一つ届かずに、ただ、見渡す限り砂地と地平線、微か、小さく見えるのは集落だろうか。
 先程までいた岩場は、砂に紛れてもうすっかりわからない。
 他には青い空が視界いっぱいに広がるばかり。
 眩しい。でも、暑くはない。
 不思議な感覚だった。
 と、下に見える景色が何だか僅か変わっているように見えて、どうやら移動しているらしいと気付く。

「珍しいかい? 今のうちに堪能しておくといい。すぐに着く。ああ、何なら寝ていてもいいぞ」

 どこかからかうような少年の声がやはり耳を震わせるではなく届いて。
 僕は戸惑いながら言われるがままに、なんだか果てしなく続くようにも思える景色に、ただただ目を奪われ続けたのだった。
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