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15・大領主
しおりを挟む誰だろうか。
迎えに来たと言っていた。なら、今から向かう大領主の関係の人なのかもしれない。
辺りに立ち込める、ひときわ濃い番のいい匂いも相俟って、何故だかひどくぼんやりと、赤い髪の少年を見つめてしまっていた僕は、くんと、ごく軽くではあったけれど、急に腕を引かれて我に返った。
「デュニナ」
大丈夫かと言いたげに呼びかけられる。
勿論、相手は傍らで僕を支えてくれたままだったホセだ。
「え? あ、すみません、僕……」
ぼうっとしてしまっていたみたいで。
ぼうっと。ただ、目の前にいる赤い髪と瞳をした、びっくりするぐらい見目の良い少年を見つめてしまっていた。
少年もまた先程僕を『かむびと』と言った。
また、『かむびと』だ。
それはいったい何なのか。僕にはわからないまま。
「大丈夫か?」
ついには声に出してまで、そう訊ねられ、僕は小さく頷いた。
大丈夫。特に何も問題なんてない。
ただ、全く何もかもがわからないだけだ。
「ならばいい。――……それにしても、わざわざこんなところまでおいでになるとはな。今しばらくを、おとなしくお待ちにはなれなかったのか」
どこか嫌味のようなホセの言葉に、少年が笑う。
知り合いなのだろうか。僕は小さく首を傾げた。
と、ほとんど同時に。
「主様! まさかこのような場までおいでになられるとは……」
ホセとほとんど同時に外へと出てきていたのだろうネアが、言葉だけならやはりホセとあまり変わらないようなことを口にして少年の側近くまで駆け寄ったかと思うと、さっとその場で膝を着いた。
そしてそのまま首を垂れる。
主。と、言っているところからも見て、どうやらこの少年は、ネアの主人であるのだろう。
つまり大領主本人か、そうではなくともそれに連なる者。
僕を保護したい、そう申し出ているらしい相手ということか。
だが、少年である所を見るに、大領主本人ということはきっとないだろう。
僕はなんとなくまたしてもまじまじと少年を見てしまう。
年の頃は十を少しばかり過ぎた頃と言った所だろうか。
十二か、十三か。それぐらいの年に見えた。
真っ赤な長い髪をしている。
先程の赤竜と同じ色。
実際に先程は赤竜が、この少年に変化したようにしか見えなかった。
そしてそれはきっと間違ってはいないのだろう、なんとなく確信する。
「申し訳ございません、予定よりも遅れてしまっておりまして」
ネアがいっそ這いつくばらんかのような勢いで自省を口にしている。
少年は鷹揚に頷いた。
「いい。どうやら砂嵐に見舞われていたようだな。ならば仕方あるまい。これほどまでに遅れたということはどうせ行きも同じだったのだろう。お前の所為ではない」
「はっ」
命令することに慣れた様子で言葉を下す少年に対して、ネアが短く了承の意を示す。
しかしそうしてネアに対しての話している間も、少年の視線は僕に注がれたまま。
次いでやんわりと微笑んだ。
まるで花が開くような笑みだ。
漂い続ける濃い番の匂いも相俟って、なんだかドキッとしてしまう。
「遅れた理由は察している、神人殿。お初にお目にかかる。私の名はスフォウル。どうぞフォルとお呼び頂きたい。そこのティリチュアの主人で、大領主を務めさせて頂いている。どうぞ以後お見知りおきを」
すんなりと口を開き、告げられた言葉がそれ。
どうやら大領主本人であったらしいと知って、僕は何を返せばいいのか全く分からなくなってしまったのだった。
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