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203・戸惑いと答え②
しおりを挟むそんな風に戸惑ったまま、授業の後は少しの休憩を挟んで、夕食の時間となる。
勿論、いつも通りリシェと二人、共に摂った。
向かい合わせのそれほど離れすぎているわけでもない場所に座って、会話が弾むでもなく、かと言って気づまりなわけでもなく食事を進めていく。
それは何処までもいつも通りの夕食風景だった。
否、リシェは何処か少しだけそわそわしているだろうか。
時折ちらとサフィルを見てはさっと頬を赤く染めていて、だけど実の所それはサフィルも同じこと。
なにせ昨日の……――今朝の今日なのだ。意識せずにいられるはずがない。
しかし同時に、サフィルの腹にリシェの魔力が満ちていて、なのにただ満ちているだけで、子供になど成っていないことを、気にしている風には見えなかった。
むしろ、子供云々以前に、サフィルがリシェの魔力を抱えている、ただその事実だけでもリシェには嬉しいらしいようにさえ感じられる。
それがなんだか少しだけ、サフィルにとって、後ろめたくも思うほどだった。
(どうしてだろう……)
どうしてもどこかで考えてしまう。
何故、自分はまだ子供が望めていないのか。
答えなど出ないまま食事が終わり、そうしたらお互い少し別れて、入浴などの寝支度を整えたら、また寝室でこれもまたいつも通り、二人きりの時間を持った。
そうしたらそこにいたのは、流石に、いつも通りではない様子のリシェ。
昨夜から今朝にかけてのことを、意識せずにはいられないのだろう。
もしかしたらあわよくば、だとか考えているのかもしれない。
釣られるようにどうしても、サフィルまで緊張してしまう。
だけど。否、否、むしろ。
あわよくば、だとか。期待しているのはサフィルの方だった。
正確には期待、とまで行かずとも、昨夜から今朝にかけてのあれで、ならばもうしばらくはああいった触れ合いは充分だ、などと、全く思ってはいなかった。
それどころか昨夜はサフィルもいろいろと恥ずかしかったり戸惑ったりがひどくて、ちゃんと色々と伝えきれていないところがある。
何せ昨夜サフィルが口に出来たのは、慣らさなければならない、ということと口付けのこと、たったその二つだけで。
サフィルが知る限り、昨夜のような、つまり性行為というものは、それだけではないものであるはずだった。
例えば、互いの性感を高める為であったりもする、愛撫だとかいう、局部以外に触れることであったり、体内にあるひときわ刺激に敏感な部分についてだとか。
サフィルだって本当に全く詳しくはない、詳しくはないけれども、まだ少しだけ知っていることがあって、それらを間違いなくリシェは知らないことがわかっている以上、やはり出来るだけ全てを、伝えなければならないとも思うのである。だから。
「えぇと、あの……リシェ、様……」
ひとまず、今だ子供を成せていないことについては置いておく。
なにせまた、夜になったのだ。
寝室で二人きり。
それよりも先に、しなければならないことがあるだろう。
「あ、ああ、な、なんだろう?」
躊躇いがちに口火を切ったサフィルの呼びかけに対して、緊張し切ったリシェが、どぎまぎと、それでもおそらくは可能な限り、穏やかさを意識している様子で返事を返す。
サフィルはそんなリシェの様子に後押しされるようにして、小さく、ようやったまた、口を開いていった。
「その、昨夜は……僕も、ちゃんと、お伝えしきれていなかった部分があって、だから、その……」
「あ、ああ」
わけがわからないだろうにぎこちなくリシェが頷く。
サフィルは何処までも微かな声で、なんとか、
「今夜も、その…………昨日の、続きを……」
そう告げて、ちらと視線を寝台へと投げた。
「! あ、ああ、ああ、もちろん! もちろん!」
勢い込んで頷いたリシェが、ぎこちなく、戸惑った様子も隠せず、サフィルを寝台へと促してくる。
それに当然ながら従いつつ、サフィルは。やはりどうしても、昨夜からの今朝にかけての一度きりでなど、到底慣れることなど出来ず、居た堪れなくて恥ずかしい、そう思うばかりなのだった。
そしてまた夜も更けていく。
あつく、熱を灯して。お互いの気持ちを溶け合わせながら、激しく。
その夜も行為もはやり、サフィルに嫌悪など欠片だって、感じさせたりなどしなかった。
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