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151・俺と両親とのやり取り④(リシェ視点)
しおりを挟むそんな父の表情にも俺はまた目を見開いて驚く。
と、父はまた溜め息。
「まったく。なんだその顔は。お前こそ何故そんな顔をする。私が顔を綻ばせるのがそれほどに意外か。私だって、微笑むことぐらいある」
その上、父から飛び出した呟きはまるで戯れのよう。俺はますます驚く外にない。
なにせ父が顔を崩すのなんて、母に対してだけだろう、そう思っていたのだから余計にだ。
俺はもしかしたら父を誤解していた所があるのかもしれない。だが、それは今更なことだった。
「すみま、せん……ですが、俺が父上の笑顔など、ほとんど目にしたことがないのは間違いないことですよ」
小さく苦く笑う。
父はまた溜め息を吐いた。
「まぁいい。そんなことよりあの子のことだが。……イーニアが随分、気に入ったらしい。昨日なんて私の方こそ構ってもらえなかったぐらいだ。治癒魔術も得意なようだな。イーニアが、これほど体が軽いのは久しぶりだと喜んでいた」
言っている口調に反して、声は少しばかり苦々しげで、せっかくここまで母を自分の魔力で染め上げたのに、とでも恨み言を吐きたげにも感じるほどだった。
だが反面、喜ぶ母に水をさせなかったのかもしれない。
父はとにかく母に執着を見せているのだから。
これもまた驚くことに、サフィルは昨日どうやら母と過ごしたらしい。
そういえばサフィルもそのようなことをちらと言っていたかもしれないが、俺はよく把握していなかった。
なにせ4日ぶりのサフィルがただひたすらに可愛くて、そんなサフィルの可愛さを堪能するのに忙しかったのだ。
「あの子は……どうも、ナウラティスの者特有の善良さを持っているようだ。昨日は少し悪いことをしてしまった」
曰く父は昨日、食卓をサフィルとも囲んだのだそうだが、その際、少しばかり心情が顔に出てしまったのだそうだ。
つまり母と近しく接するサフィルに嫉妬したということなのだろう。
これもまた意外だった。
父がそんなことを気にするとは全く思ってもいなかった所為である。
たまには顔を合わせるものだとでも思えばいいのか。初めて目にする父の姿ばかりだった。
「……明日、夕飯には、揃って起き出せるように調整しよう。だから、」
続けられた言いづらそうな父の言葉を、俺はにっこりと引き受ける。
「サフィルには俺から伝えておきますよ。昨日の態度を父上が気にしていたことも含めてね」
頷いた父に今一度微笑み返して。そんな風にして結局、俺の両親への挨拶は、サフィルの話題に終始して終わったのだった。
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