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111・二人になった食後
しおりを挟むセディは結局最後まで、ほとんど何も話さなかった。
そして、それぞれがしっかり食事を終えて、食後のお茶も楽しんだ後、諦めたように一人、席を立つ。
「すまないが私は少し休むよ」
「ええ。どうぞゆっくりなさってらしてください」
誰にともなく一言断ったセディに、にこやかに返したのはイーニアで、早くいけ、と言わんばかりの雰囲気と言うわけではなかったけれど、セディに続いて席を立つつもりはないらしい様子だった。
サフィルはどうしたらいいのかわからず、二人の様子をうかがうばかり。
決して剣呑と言うわけでもないのだけれど、セディを送り出すつもりであるのは伝わったのだろう、セディは一瞬ショックを受けたかのように瞳を揺らしてイーニアを見て、だけど次いで僅か、とても残念そうに息を吐いていた。
「サフィルくん。すまないがイーニアの相手を頼むよ」
「え、あ、はい! お任せください」
予想外にも声を掛けられ頷くと、セディは今度は不機嫌と言うよりは気落ちしたように、あるいは自分で自分を納得させるかのように首を何度か縦に振って、静かに食堂を後にする。
その背に哀愁が見えたのは、果たして錯覚だったのだろうか。
反面、残ったイーニアはやはり、どこか浮かれた様子のままで。
「うふふ。なんだかごめんなさいね。あの人ったら大人げないんだから」
セディがすっかりいなくなったのを確認してから、取り成すようにそんなことを口にした。
セディのあの態度が大人げないものだったのかどうかさえ判断できないサフィルは曖昧に頷くのみ。
「少しこのままゆっくりしてから裏庭のガボゼに移動しましょう。お話しするにはきっとそこがいいわ」
柔らかな誘いは今朝告げていた予定の通りで、否やなど特にないサフィルはおとなしく頷いた。
正直な話、セディとイーニアではセディの方が苦手だと思う。
それは壮年とは言え、リシェと似た大人の男性だからなのかもしれなかったし、イーニアがセディよりももっとずっと物凄く好意的だからなのかもしれなかった。
とは言え、サフィルにはイーニアのような妙齢の女性と接したことなど、侍女や女官、教師などを除いてはほとんどなく、距離感も掴めなければ、どう対応すればいいのかも皆目見当がつかない。
緊張するのは同じだし、当然、気を許せているというわけでもなかった。
だが、リシェの母親で、自分にとっても義理の母となったのだ。
少しずつでも慣れていきたいし、話だってたくさんしたい。そう思って、この後も共に過ごすと決めていた。
同時に、
(お話って、どんなお話なんだろ……)
と、全く何も心当たりがないが故、内心、首を傾げてもいたのだった。
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