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101・前聖王妃陛下⑤

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「まぁ、そうなのね。凄いわ。流石、と言った所かしら……私は魔法や魔術そのものがあまり得意ではなくて……嬉しいわ。なら、お願いできるかしら?」
「もちろん」

 頷いて手を伸ばす。だけど、今にも触れるというその直前に、他でもないイーニア自身によって遮られた。

「待って。ごめんなさい、でもそうね、今日はもう遅いから……良ければ明日、お願いできるかしら? 何時になるかだとかはちょっと、今からではわからないのだけれど……それでも今よりは早い時間にはなるはずよ。そうしたら明日は改めて一緒にお茶でもしましょう。貴方に頼ってしまって、申し訳ないのだけれど」

 今でなくてもよいという。
 サフィルも別にその申し出に否やなどなかったので大人しく手を引っ込める。
 お茶も勿論、嫌だとか言うわけではなかった。改めて場を設けてくれるというのならば乗るまでだ。

「わかりました、では明日」

 頷くとイーニアはほっと息を吐いて。

「よかった。セディ様には私からお話しておくわね。もしかしたらあまりいい顔はなさらないかもしれないけれど……そもそもセディ様がお悪いのですもの、構やしないわ。明日起き上がれるようになったらすぐにお呼びするわ。そうしたらいらして頂けるかしら?」

 そんなことをほわほわと告げてくる。
 どうやらイーニア自体は全く気にしないようだけれども、セディの方が嫌がるかもしれないらしい。
 これほどまでにイーニアを自分の魔力で染め上げるような人である。当然考えられる話だった。
 だが、セディから直接禁じられでもしない限り、イーニアが良いというのだから、サフィルは呼ばれたらここへきて、イーニアの状態を改善したい、そう思う。
 何せ体が辛いと言っているのはセディではなくイーニアなのだから、単純に気の毒でならなかったからだった。

「ええ、セディ様から禁じられないようでしたら、赴かせて頂きます。それで、あの、出来るだけ……気を付けるようにも致しますので……効果は少し薄くなってしまうかもしれませんが……」

 サフィルの魔力が可能な限りイーニアに移らないようにすることは、出来なくはなかった。
 ただ、今告げたようにどうしても効果が薄くなってしまう。

「構わないわ。お願いね」

 何度目だろう、柔く微笑まれ頷いた。
 そうしてそれ以上はそう多く話すこともなく、程なくしてサフィルは部屋を辞す。
 セディの時と同じ、引き留めるのも気が引けたし、サフィル自身が上手く話せないからでもあった。
 だが、二人とも歓待はしてくれている。
 それだけが伝わってきた、二人との時間だった。
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