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60・青年の事情①

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「なぁ、あんた。僕のことをどれだけ知ってるの?」

 セーミュから、まず尋ねられたのはそれだった。

「え? どれだけ、ですか……?」

 サフィルは戸惑う。どれだけ、と言われても。そう大したことは知っていない。

「そう。何も知らないってわけじゃないんだろ?」

 おずおずと頷いた。
 確かに、何も聞いていないというわけではない。だけど。

「えぇっと……その、市井のお生まれで、だけど王家の血を引いて、いて、この王宮でお過ごし、だとは……」

 逆に言うと、サフィルが知っていることなんてそれが全てだった。

「ふぅん? 通り一遍の事情だけってことか……じゃあ、僕がリシェの伴侶候補だっていうのは?」
「そういったお話があった・・・というのはお伺いしています」

 だからこそ余計に、どう対応すればいいのかわからないのだけれど。
 頷くサフィルにセーミュははは、と自嘲めいた笑みを見せた。次いでひょいと肩を竦める。

「正確にはあった・・・じゃなくてある・・、だけどな。僕がリシェの伴侶候補なのは今も変わらない」
「え、ですが……」

 今もそのままなのだと言われ、サフィルは怪訝に思って眉根を寄せた。
 宗教的理由により、側室も愛妾も愛人も他に用意できない。そう聞いていた。
 なのに、今も伴侶候補のままだなんて。
 一体どういうことなのだろう。偽りを伝えられていたということなのか。
 余程、難しい顔をしてしまっていたのだろう、セーミュが慌てたように首を横に振った。

「あ、ああ、違う、違うぞ! 聖王は聖王妃以外を相手に出来ない。それに間違いはない。ただし、例外があるんだ」

 サフィルが聞いていることは偽りではないし、サフィルは騙されてなどいない。
 慌てて言い募る様子は嘘を吐いていたり、ましてやサフィルによくない事を伝えようとしているようには見えず、余計にサフィルは混乱する。
 しかも、

「ああ、くそっ、慰み者・・・を混乱させたなんて知られたら僕が怒られる……」

 などと、頭を抱え、意味の分からない呟きまでこぼしていた。
 慰み者、はつまりサフィルを指しているのだと思うが、少しニュアンスが違うようも感じる

「えぇと、でしたら、なぜ……」

 わからない呟きには触れず、疑問をひとまずもう一度口に乗せた。
 セーミュがちらとサフィルを窺う。
 そしてまた溜め息。

「ああ、いや、すまない、僕も混乱していて……ええっと……まず前提として、あんたが知っている通り、聖王には側室も愛人も愛妾も認められていない。閨は聖王妃とだけ。それは間違いないから安心して欲しい」

 繰り返され、頷いた。
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