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32・新たなる現状③

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 子供を宿したお腹が膨らんでくるのは、産み月が近づいてきた証拠だ。
 生れ落ちるまで肉体を持たないこの世界での胎児は、だから前世とは違って実際にこの大きくなったお腹の中に、手足を丸めて納まっているわけではなく、このお腹の中にはそういう意味では何も入ってはいないらしい。
 なるほど、前世で聞いたことのある赤ん坊にお腹の中から蹴られるだとか言うような感覚は感じたことがなかった。
 蹴る足を持たないのだから当たり前なのだろう。代わりに常に感じているのはぬくもりである。
 そこに凝った魔力が熱として私には感じられた。
 これもまた、一般的であるのだそうだ。
 後は鼓動だろうか。実際に心臓の脈打つ音というよりは、魔力そのものが息づいているように感じられるのである。
 愛しかった。
 お腹が大きくなるにつれて、愛しさが増していった。

「ああ、フィア、もう産み月も近いんだ、歩いてはいけないよ」

 それはそれとして、陛下からの溺愛は加速度を増していた。
 否、ここまでくれば過保護とでも言えばいいのだろうか。どうやら陛下は私を一歩も動かすつもりがないのである。
 なにせ移動の多くは陛下に抱きかかえられてのものとなっているのだ。
 居た堪れないどころの話ではない。

「陛下……そうはおっしゃいましても、子供を身ごもっていたからと言って、動けなくなるようなものではございませんわ。このようなことを続けていると、そのうち私は歩くことも出来なくなってしまいそうです」

 こんな陛下と数ヶ月を過ごすうちに、私は何とか少なくとも初めの頃よりは、自分の気持ちをちゃんと陛下に言葉にして伝えることが出来るようになっていた。とはいえ、

「いいじゃないか。歩く必要なんてないよ。私がいつでも抱えて移動してあげよう。フィアが行きたいという場所になら、何処へだって連れて行くよ」

 陛下自身がこの調子である。私はへちょりと眉尻を下げ、首を力なく横に振った。

「陛下……陛下にはお仕事もおありになりますのに、そのようなことお願いできませんわ」
「仕事なんてそんなもの。優秀な部下がいくらでもこなしてくれるとも。特にアリムエが中心となってね。フィアは何も気にしなくていいんだ。ただ私の腕の中にいてさえくれればいい」

 やんわりとした拒絶は当たり前に通じず、陛下は何も変わっていないのだと痛感する。
 アリムエ執政官の名前を出したのは、私が彼を頼ったことを、面白くないと思っている所為なのだろうか。
 あり得そうなことだった。
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