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30・新たなる現状①
しおりを挟む私がアリムエ執政官にお願いしたのは、今後は昼食や休憩時間に陛下の執務室を訪れないようにすることの了承を、陛下に取り付けてもらうことのみである。
つまり朝、見送ってから、夜に戻ってくるまでは、私からは陛下を訪れないという宣言に過ぎない。
たったそれだけと思われるかもしれないが、そのたったそれだけが、今の私には出来なかった。
陛下が慕わしく恋しく、出来るだけ長く陛下のお顔を眺めていたいという恋心と、他でもない陛下自身が私にそうして欲しいと願った事実ゆえに。
陛下のお願いを無下にするようで、自分勝手に陛下の元を訪れなくなることそのものが、どうも私には難しかったのだった。
自分でも情けなくて仕方なかった。たったこれだけのことに、他の人の助力が必要だなんて。
でも、出来ないのだから仕方がない。
幸い、アリムエ執政官は快く力強く請け負って下さった。
「お任せください。必ずや陛下を納得させて御覧に入れましょう」
にっこりと微笑んだアリムエ執政官は頼もしくてとても心強く私には見えた。
実際に頼りになる方なのだ。
私はすでにそれを知っている。
なのに、自分から頼んでおいて、アリムエ執政官の陛下への影響力が垣間見えるようで、ほんの少しだけ面白くないと思ってしまった、自分の狭量さが嫌になった。
実際、そう頼んで以降、その日から、昼食や休憩時間に陛下の元を訪れなくなった私に陛下は何も言わず、少し寂しそうにはなさっても、再度お願いされるというようなことはなかった。
だけど、私の足は、少し前まで、陛下の元へ向かっていた時間になるとそわそわと落ち着かなく、部屋を出ようとしてしまい、一緒にいられる時間が減ったことに、堪えられないのは自分の方なのではないかと実感する。
数日を過ごしたことで、思い出した前世の感覚が今世と馴染んで、今世の記憶がより鮮明になったから余計にである。
だって私はこれまで、過剰の程の陛下の寵愛を、当たり前のこととして受け入れてきていたのだ。
それを今更自ら進んで減らすだなんて、そんなこと寂しいに決まっていた。
だけど。
「フィア」
それ以外の時、朝と夜と。
後は、執務をお休みする休日とも呼べる日。私に触れることが出来る時間中、常に陛下は私を放さず、溺れそうなほどの溺愛っぷりに私を浸して。
「ジェラ」
ようやくそう呼ぶことに慣れてきた私は私で、また、それを甘受した。
陛下と離れた途端、羞恥に身悶え、耐えられないと顔を横に振りながら、しかしすでに諦めている。
ただ、一つだけ決めていることがあった。それは誰にも明かせない決意だった。
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