15 / 49
14・お話
しおりを挟むって、違う!
だから、違うってばぁ、私!
陛下の良すぎる顔に見惚れて、いつも通り流されてしまった。
先程あれほど決意したのに。これではダメだと思ったばかりだったのに。
それもこれも皆、陛下がかっこよすぎてかつ私に甘すぎるせいだ!
否、私が陛下のことを好きすぎるからだろうか?
我に返ると、今のこの体勢こそ、本当に居た堪れないものでしかなかった。
陛下の体温は気持ちいいし、抱きしめられているのも嬉しい。だけど。
今は真昼間で、執務室には他にも侍従や文官が幾人かおり、アリムエ執政官も、私達を呆れた顔で見て、溜め息を吐いていた。
ああ、だからこれ! この状況! これがよくないと!
情けなさと居た堪れなさで、涙が滲む。
こんなことで泣くなんて。
私は何処まで情けない人間なのか。もうじき王妃になる人間の様子だとは到底思えない。
「……? フィア? どうかしたの?」
流石にいつもと様子が違っているだろう私に陛下はすぐに気付いて、少しだけ体を離して、身を屈め、私の顔をのぞき込んできた。
触れそうなほど至近距離に迫る陛下の麗しい顔に、私はまた、ドキドキしてしまう。
本当にほんの少しだけなのに、先程よりも離れた体温が寂しい。
でも、しっかりしなくては、こんなのやっぱりいいと思えない、せめて時と場合を選んでくれてと、当たり前のことぐらいは陛下に言いたい。
否、違う、伝えたいのはそんなことではなくて。
ぎゅっと、陛下の服を縋るように握りしめてしまう。
すぐに気付いたのだろう陛下の視線が、私の指先にちらと落ちて、だけどすぐに私の顔へと戻ってくる。
交わる視線から伝わってきた。陛下がどれだけ私を心配してくれているのが。
私はきゅっと唇を引き結んで、出来るだけ気持ちを落ち着けた。
だって陛下からの愛情に溺れるばかりだと、何も変わらないままなのが明らかだからだ。
今だってきっとこのまま、いつも通りの私なら、程なくして肌に触れられていただろう。流石にその前に人払いぐらいはしてくれるとは思うけれど。……――主にアリムエ様が。
アリムエ様に人払いされている状況というのも、本当に重ね重ね居た堪れないばかりなのである。
陛下はきっと気にもなさってらっしゃらないけれど。
「あの……陛下、お話が、あります」
真っ赤な顔で途切れがちに、ようやくそれだけを口に乗せる。
陛下は一度、目を見開いて驚いて、ぱちぱちと数度瞬きしてから、ふわと柔らかな笑みを浮かべて頷いて下さった。
「うん、わかったよ。じゃあ、とりあえずそこに掛けようか」
そう言って陛下は私を離しきらず、エスコートする以上の密着具合で支えながら数歩移動し、ソファに先に腰掛け、膝の上に私を乗せた。
いや、だから、何故、膝の上?!
距離が近さが変わらない。結局陛下が私のことを、片時も離すつもりがないのだろうことがよくわかる行動だとしか、言えないような有り様だった。
0
お気に入りに追加
437
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【R18】国王陛下に婚活を命じられたら、宰相閣下の様子がおかしくなった
ほづみ
恋愛
国王から「平和になったので婚活しておいで」と言われた月の女神シアに仕える女神官ロイシュネリア。彼女の持つ未来を視る力は、処女喪失とともに失われる。先視の力をほかの人間に利用されることを恐れた国王からの命令だった。好きな人がいるけどその人には好かれていないし、命令だからしかたがないね、と婚活を始めるロイシュネリアと、彼女のことをひそかに想っていた宰相リフェウスとのあれこれ。両片思いがこじらせています。
あいかわらずゆるふわです。雰囲気重視。
細かいことは気にしないでください!
他サイトにも掲載しています。
注意 ヒロインが腕を切る描写が出てきます。苦手な方はご自衛をお願いします。
【R-18】逃げた転生ヒロインは辺境伯に溺愛される
吉川一巳
恋愛
気が付いたら男性向けエロゲ『王宮淫虐物語~鬼畜王子の後宮ハーレム~』のヒロインに転生していた。このままでは山賊に輪姦された後に、主人公のハーレム皇太子の寵姫にされてしまう。自分に散々な未来が待っていることを知った男爵令嬢レスリーは、どうにかシナリオから逃げ出すことに成功する。しかし、逃げ出した先で次期辺境伯のお兄さんに捕まってしまい……、というお話。ヒーローは白い結婚ですがお話の中で一度別の女性と結婚しますのでご注意下さい。
初恋をこじらせた騎士軍師は、愛妻を偏愛する ~有能な頭脳が愛妻には働きません!~
如月あこ
恋愛
宮廷使用人のメリアは男好きのする体型のせいで、日頃から貴族男性に絡まれることが多く、自分の身体を嫌っていた。
ある夜、悪辣で有名な貴族の男に王城の庭園へ追い込まれて、絶体絶命のピンチに陥る。
懸命に守ってきた純潔がついに散らされてしまう! と、恐怖に駆られるメリアを助けたのは『騎士軍師』という特別な階級を与えられている、策士として有名な男ゲオルグだった。
メリアはゲオルグの提案で、大切な人たちを守るために、彼と契約結婚をすることになるが――。
騎士軍師(40歳)×宮廷使用人(22歳)
ひたすら不器用で素直な二人の、両片想いむずむずストーリー。
※ヒロインは、むちっとした体型(太っているわけではないが、本人は太っていると思い込んでいる)
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
転生したら冷徹公爵様と子作りの真っ最中だった。
シェルビビ
恋愛
明晰夢が趣味の普通の会社員だったのに目を覚ましたらセックスの真っ最中だった。好みのイケメンが目の前にいて、男は自分の事を妻だと言っている。夢だと思い男女の触れ合いを楽しんだ。
いつまで経っても現実に戻る事が出来ず、アルフレッド・ウィンリスタ公爵の妻の妻エルヴィラに転生していたのだ。
監視するための首輪が着けられ、まるでペットのような扱いをされるエルヴィラ。転生前はお金持ちの奥さんになって悠々自適なニートライフを過ごしてたいと思っていたので、理想の生活を手に入れる事に成功する。
元のエルヴィラも喋らない事から黙っていても問題がなく、セックスと贅沢三昧な日々を過ごす。
しかし、エルヴィラの両親と再会し正直に話したところアルフレッドは激高してしまう。
「お前なんか好きにならない」と言われたが、前世から不憫な男キャラが大好きだったため絶対に惚れさせることを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる