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12・決意
しおりを挟む一度部屋に戻ってきたのは良かったと思う。
少なくともリダとの会話は、私の気持ちを落ち着けるのに役立った。
王宮での私の仕事は、正直いってほとんどない。
否、ある、本来ならあった。が、状況が状況ゆえ、今はほとんど免除されていた。
それもこれも全てが陛下の所為とでも言えばいいのか。つまりは、私のお腹に陛下の子供が宿っているからだった。
私は幼少期から受けてきた王妃教育のことごとくを披露する間もなく今の状況へと置かれてしまったのである。
今の私がしなければならないのは、自分を大切にすること。心安らかに過ごすこと。出来るだけ多く陛下との時間を摂ること。それだけ。
居た堪れなかった。
まるで子供を産むためだけに存在しているとでも言われているかのようで、自分の存在意義さえ揺らいでしまいそうだと感じていた。
私はそんなにも自立心が旺盛だっただろうか。
少なくともこの妙な罪悪感のようなものが、前世の感覚であることはわかる。
なにせ私は本当に、少し前に前世を思い出すまで、自分の今の状況に何ら不満も違和感も覚えていなかったのだから。むしろ当然だとさえ思って甘受するばかり。
私はこの国の王妃になるのだ。愛人や妾、側妃でなどない。否、そういう立場にいる方たちを馬鹿にしているわけでも下に見ているわけでもないけれど、どうしてもそういう方たちの主な仕事は陛下をお慰めすることであるのは確かで、もっと言えば、子供を産み育てること。それが一番重要な仕事となった。少なくともこの国ではそう。
反対に正妃、つまり王妃ともなると、それだけに腐心しているわけにはいかず、権限が彼女たちとは比べ物にならないのに比例して、熟さなければならない執務というものも多岐に渡った。
王を具体的に補佐できる執政官のような役割、または秘書官のような仕事も請け負わねばならない。
だというのに。
今の私はどうだ。
ただ日々を陛下のお傍に侍ることだけで過ごしている。
誰も私を責めたりしない。時期が時期ゆえにそれも当然のことだとさえ言われている。
だからこそ、それが今の私には居た堪れなくてならなかった。
前世から私はそういった立場の人たちに偏見なんて持っていないつもりだったけれど、それはあくまでもつもりであったらしい。
そうでもなければ、こんな拒否感なんて抱かない。
ちっぽけな自尊心だと言われれば否定できない。子供を産み、育てることだって大切だ。それが悪いわけではないのだけれど、どうしてか、今の私は思ってしまう。私の価値は、それだけでなどない、なんて。どんな思い上がりだというのだろう。それでも。
そもそも、陛下のことは好きなのだ。お慕いする気持ちがなくなったわけではない。ただ、陛下の寵愛を甘受しているだけである事実に耐えきれなくなっただけ。
だから私は部屋でリダと話し、少し休み、再度、陛下の執務室へと向かう時、一つのことを決意していた。
とは言え、簡単な話、前世を思い出したことを陛下にお伝えし、現状を少しばかり変えて欲しいとお願いする。それだけのことだ。
ただ。今世の記憶を紐解く程、それが一筋縄ではいかないだろうことが分かり、どうしても気が重くなるのが止められなかった。
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