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第2話・過去と今
2-13・意味なんてない
しおりを挟むヨウコはそんな猫又を見もせずに思い出に浸っていく。
それほど昔ではない。
ほんのたった数十年ほど前のこと。
今、ここにいる猫又の年齢よりもずっと少ない年数分だけ前の過去。
その時ヨウコは、今のように書店など営んでいなかった。
玄夜の状態だって、今ほど良くない状況ではなかったように思う。
それでも不安定であることに変わりなく、それまで通りに過ごすことに限界を感じていた時期だった。
『助けて下さいっ!』
そんな風に伏して縋る少年の願いを叶えたのは、言ってしまえばただの気まぐれだ。
ただ、目の前で困っている存在があって、自分がそれを叶えられるのがわかっていて、そしてそう動いたからと言って、誰かにとって不都合が起こるわけでもない。
助けるも助けないも自分次第な中、何もせずに見なかったふりをするのも目覚めが悪いなと思ったのは本当だ。
だってヨウコに縋ってきたのは子供だったのだ。それも、見るからに置かれている環境の良くなさそうな子供だった。
実際にあの子供がどのような状況にあったのか、ヨウコはそんなことには興味もなかったし、知ろうとも思わなかった。
流石にそこまでは手を出すつもりもない以上、知る必要もないとも考えたし、むしろ知らないままの方がいいのではないかとさえ感じていた。
ただ、近くにいた玄夜が、どうも気になっているらしいことはわかっていて、だからそれも踏まえ仕方なく、最低限、手助けすることにしたのである。
少年に詳しく聞いてみたところで、何のことはない、よくある神隠し。
人非ざるモノに連れ去られた姉を助けて欲しいとただそれだけの願い。
幸いと言えばいいのか、子供の姉を連れ去ったという存在は、方々への影響がほとんどないような取るに足らない小者だった。
ヨウコは面倒くさい、思いながら、その人非ざるモノを諭し、子供の姉を解放させたのである。
その間、子供に寄り添っていたのは玄夜だ。
玄夜は子供に随分傾倒していたように思うが、だけどそれでもそれだけ。
その時の出来事に、玄夜の状態はほとんど関係がなかったし、だからこそ余計に、数十年経ってから、まさかあの時の子供の姉の孫に当たる少女を、偶然見かけた玄夜が声をかけるとは思ってもみなかった。
そのまま時折、交流を持つようになるだなんてことも。
ヨウコは全く考えもしていないことだったのだ。
今からたったの六年前。
玄夜はそれすら曖昧になっているが、ヨウコは流石にそういった時間の経過を誤認識していたりなどしない。
あの少女を見た時ヨウコは驚いた。
おまけに玄夜が、数十年前の出来事と混合しているのにも気づき、悪化している状況に眉をひそめたがそれだけ。
少女に玄夜に合わせるよう告げたのは、その方が玄夜を混乱させないだろうと判断したに過ぎず、それは今、思い返しても間違ってはいなかっただろうと思っている。
だからそんな諸々を今更猫又に指摘されたところで、だから何なのかとしかヨウコは思えなかったのだった。
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