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第2話・過去と今

2-08・少女と猫又

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 どれぐらいそうして玄夜の後姿を見つめてしまっていたのか。
 多分それほど長い時間ではない。
 少し、ぼうっとしてしまっていたという程度。
 エツコは……――少女・・は、玄夜が先程入っていった住居部との境、引き戸の辺りからひょこっと、小さな頭がこちらを覗いているのに気が付いた。
 じっと、こちらへと視線を注ぐのは、幼い子供特有のくりっとした丸い瞳。

「……えっと……みぃちゃん、だっけ?」

 確か、正体は猫又だという幼い女の子。
 とは言え、それはおそらく見た目だけで、話し口調からしても、彼女は少女より年上なのだろうと思われた。
 玄夜のことも、『小童こわっぱ』だとか称していたのだから間違いない。
 そんな彼女が、いったいなぜこうして少女を見つめているのだろう。
 返事もしない彼女に、少女は困りながら、だけどまさか無視するわけにもいかず、更にもう少し声をかけることにした。

「あの……どうかした?」

 自分は何かしてしまっただろうか。それとも、今さっき、彼女が関係したという依頼に関しての本に目を通したのだが、それを快く思っていなかっただとか?
 戸惑う少女に彼女はにしゃと、やはりどうにも幼い子供らしくない笑みを浮かべて見せた。
 どこか、人をからかうような笑みだ。
 そしてそろりと住居部から、小さな足をスタと下ろし、揃えて置かれていた小さな靴に足を入れる。

(何か……私に、用事があるのかな……?)

 そう思いながらも見当もつかず、少々臆した少女に構わず、猫又はどこか人を喰ったような顔のままとてとてと少女へと近づいてくるのだった。
 近づいてきた猫又が、少女を興味深そうに見上げてくる。
 その視線の理由が、少女にはわからない。
 ただ何かを面白がっているのだろうという風には感じられた。

「あのっ……何? なん、です、か……」

 もしや口調が良くなかったのかと、少し丁寧目に問いかけ直してみる。
 だけど猫又の表情は変わらない。
 本当にいったいどうしたというのだろうか。
 どれぐらいそうして少女を見上げていたのか、しばらくして猫又がおもむろに口を開いた。

「のぉ、おぬし
「は、はい!」

 ただの呼びかけに、なんとなく背筋が伸びた。
 そんな少女の様子がおかしかったのか、猫又が笑う。

「なんじゃなんじゃ。それほどかしこまらずともよいというに。しかしお主もただの人間とは少し違うようじゃな?」

 幼い声に似合わない、どこか老成した響きを持つその言葉に、少女は虚を突かれたようにパチと一つ瞬きをしていた。
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