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第1話・みぃちゃん
1-03・やること②
しおりを挟むそのまま、敢えて何かから逃げるように、ごち、小さな音と共にテーブルの上に頭を放り出して、次いでに視線ごと玄夜から逸らしてしまう。
「やだぁ、やることなんていらなぁーい」
ため息交じりに小さな子供のようなだだをこねると、それよりもよっぽど大きなため息が玄夜からこぼれた。
「そんなこと言ったって、これ、やるって決めたのヨーコさんでしょ? 誰に強制されたわけでもないのに。俺は別に構いませんよ。無視するってんなら無視するでも」
どっちでもいい。
肩を竦めながらの言葉に、ヨウコは、はぁっと諦めたように息を吐いた。
のろのろとテーブルに懐いたまま視線だけ上げる。
その目の前で、玄夜はひらひらと指に挟んだ紙を示した。
ヨウコはむっと唇を尖らせて、嫌そうに体を起こし、ひどく無造作に手を差し出す。
玄夜は促されるまま逆らわず、その手に自らが持っていた紙を渡し、ヨウコはそうやってようやく自分の元へと届いたそれに視線をやった。
所々よれて歪ながら、一応は四つ折りにされていたのをもぞもぞと億劫そうに開いていく。
そこに書かれていたのはお世辞にもキレイとは言えない文字。
ようやくひらがなを書けるようになって来たばかりの子供が書いたと思わしき、辛うじて判別できる程度の文章だった。
" みぃ ち やん を さ が して ”
「なにこれぇ……」
どう聞いても嫌そうなヨウコの声に、玄夜は今だけで何度目になるのか、呆れかえった溜め息を吐いた。
「知りませんよ、そんなの。依頼です、依頼。だって店の前の棚に置いてある雑誌に挟まってたんですから」
そこに届いたということはそういうことだ。
自分はただ、通りすがりに気付いて抜き取ってきただけなのだからと玄夜は呟く。
実際の所、ヨウコにだってそんなことわかっている。
わかっていて、これでもかと眉根を寄せているのである。
「いや、だってさぁ……えぇっと、これは……みぃちゃん、かな? 誰それ?」
何かの名前だとは思う。
しかし、それが実際人を指しているのか、それとも動物か何かなのか、書いた人物が子供だと仮定すると、もしかしたらぬいぐるみなどの無機物をそう称している可能性もあった。
そしてもし人だとして、年齢や性別、他のあらゆることが、この文字からは全く読み取れないのである。
それで探せと言われても。
「だから、知りませんってば。そもそも、それがそういうものだってことぐらい、他でもないあんたが一番わかってることでしょうが」
別に自分に聞いたわけでもないだろうとは理解していつつも、玄夜はげんなりと返事を返した。
なにせ目の前でそんな風に疑問を口にされたのだ、まさか無視など出来なかったからだった。
そんな玄夜に、今度はヨウコが肩を竦める。
「確かにねぇ。そりゃそうだ。ま、いっかぁ、とりあえず明日で」
今日はもう何もしなぁい。
言いながらバタン、後ろに倒れ込んだヨウコに、玄夜はひときわ大きなため息を吐いた。
「好きにしてください」
てゆっか、あんたいっつも何もしてないだろうが。
なんて、小言のように呟きながら。
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