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終焉を告げる華色の太陽

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最後にベンチに腰掛けてからかなりの時間が経つ。

空は日の入り直前の時特有の眩いオレンジが太陽の存在感を放つ。

太陽が消える直前までこんなにも自分を知らしめる様子に少しクラクラしてくる。

いよいよ始まる。

国の大事な結婚式。

お国の王子様とこの国1番のお嬢様の結婚。

誰もが待ち望んだ晴れ舞台。

私は覚悟十分だった。

その晴れ舞台の最後の大事な大事な味付け担当は正真正銘私だ。

身体中から震えが止まらない。

私の身体はその行為をしないでくれと必死に止めている。しかし、脳が言うことを聞かない。

私は立ち上がりサルバドールさんを呼びかける。

「行きましょう。式が始まりますよ」

そう言い放ったその顔はとても結婚式に行くには相応しくない顔だ。

その強ばった表情には緊張や興奮、様々な感情が読み取れる。

「よし。行きましょうか」

私の呼びかけに応じてサルバドールさんも立ち上がる。

その顔はまさしく結婚式に行くに相応しい顔だ。

凛とした表情は、国の記念日を讃える真っ白な心を持っていた。

そのすぐ隣には、視覚では判断できないほどに真っ黒な心を少しだけ持った者がいる。

そんな2人がゆっくりと歩みを始め、会場であるお城へ向かう。

近くまで来てみると、もう入り口には結婚式を待ち侘びていた顔の上級国民たちがいた。

本来ならば、私みたいな一般人は入れてくれないだろう。

これもあのお爺さんのおかげだ。

私は人だかりを避け、堂々と城の中へ入った。

人の進む方向に促されるまま、会場まで辿りついた。

「おお、広いな」

サルバドールさんがそっと呟く。

思わず声が出てしまうほどにそこは広く、美しいデザインが施された場所だった。

壁は透き通るほどに白く、真ん中に敷かれたレッドカーペットはこれでもかというほどに新郎新婦を讃えている。

丸く、十分な幅をとったテーブルには、すでに前菜的なものが置かれていた

一つ一つ綺麗に設置された椅子にチラホラと人が座りだす。

もちろんその中に私の席はない。

それはサルバドールさんも同じだ。

しかし、そこは広く、たくさんの人々でごった返していたので、気づかれないだろう。

「サルバドールさん、ここで待っててください。私、ちょっとトイレに行って来ます」

「はい。わかりました」

私はトイレに行くと言い、お爺さんがいる準備室に向かった。

一度行ったが、お城は広く、つい迷いそうになった。

廊下を右往左往してやっと準備室をみつけた。

扉を開けると、お爺さんが椅子にポツンと座っていた。

「はあ、はあ、お爺さん、来ましたよ」

「おお、来たか。さあ見届けてようか、王子様とお嬢様の華やかな姿をな」

お爺さんは皮肉たっぷりに言いながらニヤリと笑った。
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