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本編

5.ヨハンの企み①

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婚約してから3年が経った
相変わらずヨハンは姉を側に置く
他人がいる前では私に愛をささやく器用さには驚くほどだ

「丁度いいからレオンも同席させよう」
ヨハンがそう言いだしたのはヨハンの学園入学を1週間後に控えた時だった
「そう言えばレオン様はあれ以来お会いしてませんわ」
「そう?」
ヨハンは思い返しながら使用人にレオンを呼びに行かせ、何故か立ち上がる

「兄さん突然呼んで何…」
入ってくるなりそう尋ねかけたレオンは固まった

「…どういう取り合わせ?」
「もうすぐ学園の寮に入るから、その前にと婚約者とその姉をご招待しただけだ」
「…そう」

「お前も久しぶりだろう?女性らしくなってきたマリエルに会わせてやろうと思ってな」
そう言いながら何故かヨハンは私の隣に座り髪をすくって口づけた
背筋が寒くなり顔がひきつりそうになるのを何とか耐えた

「兄さんの惚気は聞き飽きたよ」
ヨハンの行動とレオンのその言葉に姉の視線が突き刺さる
私は何もしてないんだからヨハンを恨めばいいのに…

「まぁそう言うなよ。お前もマリエルのこれからが楽しみだと思わないか?」
「さぁね」
興味なさげに言うレオンの手が強く握りしめられていた
この時私は気付いてしまった
ヨハンがレオンに向けて蔑むような目を向けていることに
でもその理由が全く分からない

「あ…」
動揺して思わずカップを滑らせてしまった

「大丈夫か?手にかかったのか?」
「え…えぇ。でも大丈夫です」
取り出したハンカチで濡れた手を拭きながら答える

「大丈夫なわけないだろう。レオン、冷やすのに付き合ってやってくれ」
「…あぁ」
レオンに目で促され私はレオンについていく
何で婚約者である自分が付き添わないのかと言いたくなった
いうだけ無駄だから言わないけど

「本当に大丈夫か?」
さっきのヨハンとは違い本当に心配そうに尋ねてくる

「ちょっと熱かっただけだから」
「…ちょっとって感じじゃないだろ」
真っ赤になった私の手を見てレオンはため息交じりにそう言った

「ごめんな」
バスルームで水で手を冷やしているとレオンが突然謝ってきた

「え?」
「兄さんの態度が建前だってことくらいは分かる。どうせさっきまではシャロンを抱き寄せてたんじゃないのか?」
「…」
「父さんに似て女好きなのは知ってる。12の時に筆おろししたって言いふらしてたし…父さんに強く釘を刺されてるからマリエルにはそういうことはしないだろうけど」
それは私以外にはするともとれる言葉
既に知ってるから驚きはしないけど

「多分俺が口を出したり守ったりすれば酷くなる。俺に力があれば奪えるのにな…」
「レオン…その気持ちだけで充分だよ」
そう答えながらも涙が溢れてきた

元々望まない婚約だった
あの日から私の中ではレオンに対する気持ちが大きくなるばかりだった
同時にレオンが私を思ってくれてることも理解していた
でもそれを口にすることは叶わない
出会ってから3年、まだ11歳と12歳になろうとしているにすぎない私達にはどうすることもできない
そのことが酷く悲しかった

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