[完結]心の支え

真那月 凜

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5.複雑な想い

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事故から1ヶ月が経ち紗帆はリハビリを始めた
毎日病院に通ってくれる一哉の負担を少しでも減らしたい一心で大の大人が根をあげる様なリハビリにも耐えていた

「一哉来てくれてたんだ?」
「あぁ。どうだ調子は?」
「何とも…でも一哉試合あるでしょ?毎日来てくれなくても…」
紗帆は毎晩練習していたことを知っているだけに素直に喜べなかった

「大丈夫だよ。ココまで走ってくるのもトレーニングのうちだから」
「でも…」
「俺が紗帆に会いたいだけだから気にすんな。お前が嫌だってんなら別だけどさ」
「そんなことは…ただ最後の大会だから打ち込んで欲しいなって」
「…サンキュ」
一哉はそう言って静かに笑った

「明後日から東京行く」
「…そっか。頑張ってね」
紗帆はそう言って笑顔を作る

大晦日からはじめる全国大会に向けて一哉は出発する
それ自体は喜ばしいことだった
足を痛めてさえいなければ応援にも行っただろう
でも今は何かが胸を締め付けて素直に喜べなかった

「無理しなくていい。お前の気持はわかってるから」
「一哉…ごめんなさい…」
「謝んな。お前は何も悪くないんだからさ」
「…」
「絶対」
「え?」
「絶対優勝するから9日の決勝戦だけは見ろよな」
一哉はそう言ってニッと笑った

「じゃぁそろそろ行くよ。また明日な」
一哉は何も聞かないまま病室を出て行った



「あら紗帆ちゃん何してるの?」
リハビリが終わってから必死で何かを作っている紗帆に看護婦が声をかける

「水野さんか…びっくりした」
「そんなにビックリしなくてもいいじゃない?」
水野さんはクスクス笑いながらいう

「うわぁ…紗帆ちゃん上手ねぇ?」
おどろきの声にたまたま通りかかった他の看護婦まで病室に入ってくる

「どうしたの?」
「紗帆ちゃんがね、絵を描いてるんだけど…」
その言葉にみんなが覗き込む

「サッカー?これっていつもお見舞いに来てる…」
「一哉君よねぇ?」
「わかります?」
「わかるも何もそっくりよ」
「そっか。よかった」
紗帆はそういってほったしたように笑う

「でもそれ優勝シーンでしょ?」
「信じてるから。一哉が優勝すること」
きっぱり言う紗帆に看護婦たちは微笑んだ

「いい顔するようになったわね」
「え?」
「病院に来たときとは別人みたいだもの」
「水野さん…」
「さて、邪魔者は去りますか。それ今日渡すんでしょ?」
「水野さん鋭いし…」
紗帆が苦笑するのを見て看護婦たちは出ていった

紗帆は絵を仕上げるとそれを背景に手紙を書き出した
出来上がったものを封筒に入れて棚の上に置く
それから10分ほどしたとき一哉がやってきた

「どうだ調子は?」
その言葉に笑い出す

「何だよ?」
「それ、口癖になったなぁって」
笑い続ける紗帆に一哉も苦笑する

「いいだろ。別に」
「悪いなんて言ってないもん」
「そんだけ屁理屈いえりゃ十分だな。そだこれ」
「え?」
一哉に渡された小さな包みに戸惑う

「正月そばにいてやれないからさ」
紗帆は一哉の言葉を聞きながら包みを開ける

「これ…」
驚き戸惑う紗帆をよそに一哉はその包みの中から指輪を取り出すと紗帆の右手を取り薬指にはめた

「男よけ。俺と離れたいと思うなら捨ててくれていい」
「一哉…」
「今日はそれ渡しに来ただけなんだ」
「…」
「10日くらい会えないけどリハビリさぼるなよ」
茶化すように言う一哉に思わず涙を流す

「紗帆?」
「…なんでもない。私も一哉に渡すものがあるの」
紗帆はそう言って棚の上の封筒を一哉に差し出す

「9日の…試合が終わってからあけてね」
「何だよそれ今じゃだめなのかよ?」
「だめ」
即答する紗帆に一哉は苦笑する

「…わかった。それまでお守り代わりに持っとくよ」
そう言って静かに笑った一哉に紗帆は始めて自分からキスをした

「紗…」
「後悔しないように楽しんできてね」
笑顔でそう言った紗帆を一哉は抱きしめた

「サンキュ。これ以上いたら襲いそうだから行くよ」
「何言っ…」
「冗談だよ。10日こっち戻って来たらすぐここに来るから待ってろよ。じゃぁな」
一哉の最高の笑顔を見送って紗帆は大きくため息をつく

「ごめんね一哉…」
閉まりきった扉に向かってそういうと夕食もとらずにただ寝た振りを続けた
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