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27.マリクの弟

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マリクのおかげかリアムはこの家での暮らしにすぐになじんだ
1週間たったころには私やレイにも普通に甘えるようになり1人は嫌だと愚図ることもなくなった

マリクも自分を慕ってくれるリアムの存在にいい意味で影響を受けているように見えた
そんな穏やかな日が続いている中でそれは突然の事だった

「リアム!!」
マリクの叫ぶような声にみんなで2階に駆け上がる
ベランダで固まっているマリクのそばに、いつもついて回っているはずのリアムがいない

「どうしたのマリク?」
「リアムはどこに行ったんだ?」
ナターシャさんとカルムさんはマリクに駆け寄った

「リアム落ちた…!」
マリクは泣きながらナターシャさんにしがみ付く

落ちた?
この柵を乗り越えて?
私たちは咄嗟にベランダの下を覗き込んだ
確かに真下にリアムの姿が見えた

「リアム大丈夫か?」
カルムさんとレイがそのままベランダから飛び降りる
建物の2階から飛び降りるくらい冒険者では珍しくはない
とは言っても見慣れるまでかなりの期間を要したけど…

「怪我は…なさそうだが…?」
見る限りベランダから落ちたとは思えないほどリアムには擦り傷一つない
リアムもびっくりはしたようだが泣くこともなくカルムさんに向かって笑っていた

「一体何が…?」
「あのね、柵に登って遊んでたらふわーってなったの」
カルムさんの呟きにリアムが嬉しそうに言う
その顔はとても楽しいことがあったのだとでも言うように輝いている

「カルムとりあえず中に…」
「ああ」
私たちはリビングに戻りカルムさんとレイはリアムと一緒に表に周り家に入ってきた

「マリク、リアムも何があったのかもう一度話してくれる?」
ナターシャさんはマリクを抱きしめたままゆっくりした口調で訪ねた

「…リアムがベランダから落ちたの」
「落ちた後は何があったの?」
「リアムケガしちゃだめ…でも僕リアムの手届かなかった」
マリクの目から再び涙が溢れ出す
自分を慕ってくれる大切な弟が目の前で落ちていったのだからそのショックは計り知れない

「大丈夫よマリク。あなたは何も悪くない」
ナターシャさんはマリクをしっかりと抱きしめる

「落ちたのに無傷…なんだよな?」
「ああ。土さえついてなかった。ただリアムがふわっとしたって…」
カルムさんも混乱している

ふわっとして無傷?
何となくひっかかりを覚えマリクを鑑定してみると…
「風魔法!」
「「「え?」」」
「マリクが風魔法覚えてる」
私の言葉にレイも鑑定しているようだ
マリクのステータスには間違いなく『風魔法』と表示されていた

「こないだまでは何もなかったよな?」
子供がスキルを覚えるのは突然だということもあり私たちは時々子供たちのステータスを確認していた
でも数日前は間違いなく何も表示されていなかったのだ

「リアムを助けたい一心で…とか?」
「でもそれくらいしか考えられないよね?」
皆の目がマリクに集中する

「マリク」
「…?」
「あなた魔法使った?」
「まほう?」
ナターシャさんの言葉にマリクは首をかしげる

「分からないか…でもマリク、お前がリアムを助けたみたいだぞ」
カルムさんがそう言いながらマリクの頭をなでる

「僕が?」
「ああ。お前のリアムを助けたいって思いの強さがリアムを助けたんだ」
「えらいわマリク。リアムを守ってくれてありがとう」
マリクは何が起こったかわからないながらも、リアムが無事だったことにほっとした表情を見せた
安心すると余計に涙が溢れてきたようでしばらく泣いた後、泣きつかれて眠ってしまった

「にいちゃ、ねんね?」
「眠っちゃったな。リアムはどうする?」
リアムはキョロキョロと辺りを見渡してから、カーペットの上でゴロゴロ転がって楽しんでいるシアを見つける

「シアといる」
「仲良くするんだぞ」
「うん」
カルムさんにおろされるとリアムはシアの側で一緒にゴロゴロ転がり出した
落ちた時の恐怖などみじんも感じていないのが見て取れる

「たくましいというかなんというか…」
「落ちた恐怖心でトラウマになるよりはよっぽどいいけどな」
レイは笑いながらそう言った

実際どんなことが起きたのかはわからない
でも大事に至らなくてよかったとみんなが安堵していた


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