上 下
311 / 349
123.杖

4

しおりを挟む
「シア、これ一回しまって」
もうすぐコーラルさんの屋敷と言うところまできてケインが杖を差し出して
レティも不思議そうな顔をする

「コーラルさんを驚かそうと思って」
「驚かす?」
「うん。ほら、僕はいつも足を引きずって歩いてるのを知ってるでしょう?」
「まぁ…うちにもしょっちゅう来てるから当然だな」
「その僕が杖を持って足を引きずらずに歩いたら驚くかなって」
いたずらっ子のような顔をしてケインは言った
「それは絶対驚くわね」
「驚くな」
あのコーラルさんが驚かないはずがない

「わかった。杖は一旦預かるけど、今日は既に結構歩いてるから無理はするなよ?」
「うん」
強がっているという感じはないから多分大丈夫なんだろう
俺は杖をしまってケインを気にかけながら歩くことにした

「シアにレティシアナじゃないか。それにケインも久しぶりだな」
門の前に居たのはジーンさんだった
「久しぶり。セシリオは元気にやってる?」
「ああ。嫁も娘たちも構い倒してるよ。俺が休みの日は譲ってもらってるがな」
家族間で引き取った息子の譲り合いって…
まぁ愛されてるって意味ではいいのか?
「今日はどうした?予定は入ってなかったよな?」
「ああ、突然なんだけどコーラルさん空いてるか?母さんが作ったものでちょっと報告したいことがあって」
「サラサの?ちょっと待ってろ、確認してくる」
ジーンさんはもう一人の騎士に声をかけてから中に走って行った

「噂のシアにようやく会えたよ。俺はテオドール。よろしくな」
人懐っこそうな笑みを浮かべて騎士、テオドールさんは言った
「噂のって…あ、俺の紹介はいらないか。こっちはレティシアナで、こいつは弟のケイン」
「よろしくお願いします」
「お願いします」
レティが頭を下げるとケインも真似をする
「そんなにかしこまらなくていいよ。俺はまだ下っ端だから」
そう言ったテオドールさんは確かにジーンさん達と比べると若そうだった

「シア、入ってくれ」
こっちに向かいながらそう声をかけてきたのは確認しに行ったジーンさんだ
その声にテオドールさんは門を開けてくれた
玄関先まで出迎えてくれた従者と共に俺達は中に入った

「やあシア、サラサの作品の事で報告があるそうだね?」
「ああ。多分実際に見てもらった方が早いと思う」
俺は一旦預かっていた杖をケインに渡す
「木の棒?だが変わった形だね?」
色々考えてはみるものの用途は分からないと首をかしげる
「コーラルさん、僕足を引きずらずに歩けるようになったんだ」
「何?でもここに入ってくるときは…」
「うん。治ったわけじゃないんだ。でもこれのおかげで歩くのが凄く楽になったんだよ」
ケインはそう言って実際に歩いて見せる

「なんと…シア、これはもう登録されているのか?是非とも騎士達に支給したい」
コーラルさんは俺の肩を掴んで尋ねて来る
流石にここまで食いつくとは思わなかった
「ああ。ここに来る前に登録してきた。元々は商業ギルドに登録するだけのつもりだったんだけど、憲兵が負傷した騎士の希望になるって言うから」
「そうだとも。本当に感謝する。彼らは動くことさえできれば働く場所もあるんだ。これまでどれほどもどかしかったか…あとは足を失った者の対応が出来ればなお…」
「あ、その杖2本使えば片足が無くなった人もそれなりに動けるから。流石に両足になると義足が必要だろうけど…」
「義足?」
おっと…当然それもないか

「人口的な足っていうのかな?実際どんなものかは母さんと話してもらった方がいいかも」
「なるほど…それにしてもシアとサラサのいた世界は素晴らしいな」
「へ?」
「我々では諦めるしかないと思われていた状態の者ににまで希望を与えてくれる。サラサがこの世界にきたこと、そしてサラサと同じ世界の記憶を持つシアが生まれたことを神に感謝する」
「そんな大げさな…俺も母さんもどっちかと言えばやらかしてることの方が多いくらいだし…」
「ふむ…そこは否定できんな」
コーラルさんがしみじみ言ったせいで俺達は吹き出してしまった
コーラルさんはこの日すぐに杖の手配をして翌月にはこの町の負傷した騎士全員に杖が支給されることになる
そのうち国中の負傷した騎士に行き渡るのも遠い話ではないだろう
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...