上 下
157 / 357
55.吉報

1

しおりを挟む
夕食後、いつものように俺の部屋で思い思いにくつろいでいた
「ねぇ、明日は休みにするんでしょう?」
「ああ、明日で1年も終わることだしな」
「家にいたら大掃除に追われてる時期だっけ?」
「そうそう。お母さんが毎年煩いんだよね」
「うるさいのはお前の部屋が汚すぎるからだろ?俺もルークもたいして言われてないぞ」
「え~」
シャノンは拗ねたようにソファにもたれ込んだ
12月の28日と29日は毎年大掃除の日
30日はみんなで1年の間にあった思い出話で盛り上がる
翌1日は新しい年の目標をみんなの前で発表するというのが恒例になっていた

「そう言う意味では今年はちょっと寂しいかな?」
「そうだな」
兄妹が多いだけでなく複数世帯の家にはたくさんの人がいる
その中に居るのが当たり前だっただけに、3人で過ごすというのはちょっと物足りない気もする

「カードくらい送るか」
「あ、賛成!」
「僕も書く」
『ぼくも』
「ん?」
リトスの言葉に思わず凝視してしまった

「リトスは文字書けないだろ?」
『うぅ…』
明らかにしょぼくれた感じで俺の指にしがみ付く
ついでに魔力を吸うあたり何とも言えないが…

「何?どうしたの?」
「リトスも書きたいんだと。でも字は書けないからな」
「なら足形とかは?」
少し考えていたルークが思いついたように言う

「お、それはいいかも」
『あしがた?』
「リトスの足の裏にインクを付けて紙にペタって押すんだ」
「きっと可愛い足形が取れるね」
『あしがた!おす!』
飛び跳ねながら言う姿は癒される

「せっかくだから皆で寄せ書きにしようよ」
「それいいな。こないだ貰ったの嬉しかったし」
誕生日に届いた皆からの寄せ書きのことだろう

「なら、リトスの両足にインクを付けて…」
『しあくすぐったい』
「ちょっと我慢な」
もがくリトスの足に何とかインクを付ける
「よし、リトス紙の上を好きに歩いてみ」
『わかった―』
リトスは紙の上をトテトテと歩く
自由に動き回ったおかげで模様の様に足形が付いていた

『できた?』
「ああ。いい感じだな」
「すっごい可愛い」
シャノンの喜びようにリトスも大はしゃぎだ
その紙に俺達は順にメッセージを書いていく

「完成!早く送ろ」
シャノンに急かされるように転移の魔道具を取り出した

「あれ?」
「どうかした?」
2人が覗き込んでくる

「何か来て…!」
俺は届いたカードを開いて固まった

「シア?」
「誰から?」
「父さんだ…妹が生まれたらしい」
「「ええ~?!」」
「29日の昼前…つまり今日の昼前に生まれて、名前はシエラだってさ」
「シエラ?」
「妹?」
「ただ」
「「ただ?」」
「左目が見えないっぽい」
俺がそう告げると2人は顔を見合わせて固まった

「左目に光が無いから多分見えないだろうって書いてある。それ以外は問題なさそうだけど」
「…そっか。でもお父さん達の事だから何とか方法見つけるよね?」
「それにたとえ片目が見えなくても大事な妹だし」
「そうだな。ちゃんと生まれてきてくれたこと自体喜ばしいことだ」
その気持ちは本当だ
そりゃぁ五体満足で生まれてくれた方がいいに決まってるけどな
でもそうじゃないからって何かが変わるわけじゃない
俺達はさっきの寄せ書きにシエラへのお祝いを付け足して母さんたちに送った

「帰る楽しみができちゃったね」
「何に興味持つか今から楽しみだよな。スカイは手芸、ケインは薬草だし…」
「冒険者だったら付きっきりで面倒見てあげるんだけどな」
「女はまだまだ少ないからな。シャノンの場合はルークがいたからマシだけどシエラが冒険者になったとしてもどうなるかは分からないな」
「そうだよねぇ…それは確かに一番困る問題」
「案外大丈夫かも?」
「え?」
「だって僕たちの時みたいにアランさんとトータさんのところにも子供ができる気がするし」
「そういや出る前にそんな話をした気がする。ミリアのとこもそのうち出来るだろうし、カルムさん達はまた養子取りそうだから下手したら近い年齢で5人か?」
「あはは!充分あり得る」
「スカイたちが寂しがってたから余計だよね?」
バルドさんとミリアが結婚して、その後に俺達が旅に出たから、短い期間にあの家から5人が出てしまった
そのせいで、スカイもケインもかなり寂しそうにしているのは手紙からひしひしと感じていた
俺達が帰る頃にどうなってるのか色んな意味で楽しみになってきた
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり
恋愛
異世界転生した記憶をもつリアリム伯爵令嬢は、自他ともに認めるイザベラ公爵令嬢の腰ぎんちゃく。  今日もイザベラ嬢をよいしょするつもりが、うっかりして「王子様は理想的な結婚相手だ」と言ってしまった。それを偶然に聞いた王子は、早速リアリムを婚約者候補に入れてしまう。  王子様狙いのイザベラ嬢に睨まれたらたまらない。何とかして婚約者になることから逃れたいリアリムと、そんなリアリムにロックオンして何とかして婚約者にしたい王子。  婚約者候補から逃れるために、偽りの恋人役を知り合いの騎士にお願いすることにしたのだけど…なんとこの騎士も一筋縄ではいかなかった!  おとぼけ転生娘と、麗しい王子様の恋愛ラブコメディー…のはず。  イラストはベアしゅう様に描いていただきました。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

追放された宮廷錬金術師、彼女が抜けた穴は誰にも埋められない~今更戻ってくれと言われても、隣国の王子様と婚約決まってたのでもう遅い~

まいめろ
ファンタジー
錬金術師のウィンリー・トレートは宮廷錬金術師として仕えていたが、王子の婚約者が錬金術師として大成したので、必要ないとして解雇されてしまった。孤児出身であるウィンリーとしては悲しい結末である。 しかし、隣国の王太子殿下によりウィンリーは救済されることになる。以前からウィンリーの実力を知っていた 王太子殿下の計らいで隣国へと招かれ、彼女はその能力を存分に振るうのだった。 そして、その成果はやがて王太子殿下との婚約話にまで発展することに。 さて、ウィンリーを解雇した王国はどうなったかというと……彼女の抜けた穴はとても補填出来ていなかった。 だからといって、戻って来てくれと言われてももう遅い……覆水盆にかえらず。

処理中です...