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9.怒涛の夏休み

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【陸斗side】

 大学は既に長い夏休みに入っていて、しばらく暇を持て余していた。

 就活も終わり卒論も教授の指導のもと着手し始めたから、早くも大学生活の終わりが見え始めている。

 一年の頃から必死こいて単位を取った甲斐もあり、必要な単位は残すところ後期必修の卒研だけで、夏休みが明ければ大学に通うのも週二回程度になる。

 もうすぐでうるさい女共に囲まれる日々からやっと解放されるかと思うと、気分が良かった。

 変に目立ちたくなかいからと外面良く過ごしてたのが裏目に出て、これまでの大学生活は散々だった。

 俺の見た目と外面に騙された、いつでも香水くさい似たような見た目の量産型アホ女が毎日毎日まとわりついてきて、正直だるかった。

 なんで大学って、大量生産したような見た目の女ばかりなんだろう。

 そう思いながら過ごす日々は苦痛だったけど、それももうすぐで終わるかと思うと清々する。

 大学に入って唯一楽しかったことといえば、アルバイトだろうか。

 これまでやっていたコンビニバイトを辞めて、今年の6月から新たに始めた家庭教師のバイトが、俺のターニングポイントのようにも思える。

 そこで出会ったのが、いままで関わることのなかったタイプの女の子、杉浦茉菜だった。

 その子はこう言っちゃなんだが、ものすごくバカだった。

 黒髪のショートヘアが似合う、丸い目をしたかわいい子。

 所見では、正直担当になれてラッキーくらいには思ってた。

 こんなかわいい年下の子と知り合う機会なんてそうそうない。

 小柄で華奢だしモテるんじゃないかと思った。彼氏もいるんだろうなと。

 けれど、黙っていれば賢そうなのに、口を開いたらとんでもなかった。アホの子だった。

 彼女の学力は明らかに足りていないのに、ここら辺で一番の進学校に入学できてしまったと聞いたときには心底驚いた。

 だけど、自分の学力に見合わない高校に入った理由はなんにせよ、努力はできるタイプなんだと知って安心した。

 きっと教える甲斐があるだろうなと、そう思った。

 まあ入学はできたもののやっぱり授業についていけず、家庭教師を頼ることにしたようだったけれど。

 母親に対する彼女の言動と学力を合算してみても、この子には外面を良くする必要はないと判断したから、最初から素のままの自分をさらけ出した。

 この子にならいいかとすんなりそう思えたことには自分でも驚いたけど、そんな俺の態度に彼女はすごく不服そうで、俺を毛嫌いするような態度になぜか引っ掛かった。

 いままで女と言えば、俺の外見を見て媚びを売ってくるような、俺をアクセサリーとしてしか見ていないような、そんな奴ばっかりだった。

 付き合ってちょっと素を見せようものなら、思っていたのと違う、とあっさり振られることも多かった。

 だから俺も、見てくれがいい女を適当に傍に置いておいて、飽きたら捨てた。

 お互い様だと思った。

 杉浦茉菜はバカだったけど、根が正直で素直でいい子なのがわかる。

 勉強だってひたむきに頑張るし、実際成績も上がってる。

 俺に対するあの毛嫌いするような態度も、自分を繕ったりしないからできることなのだろうとわかる。

 それが俺に対する本心で、嘘がないことも。

 だからこそ杉浦茉菜が最初と打って変わって、俺に対する嫌悪が少しずつ減ってきているということもよくわかった。

 興味本位ではあったけど、そういう素の杉浦茉菜に俺が最初から惹かれていたのは事実だと思う。

 こんなことが周りに知られたら、ロリコンだなんて騒がれそうだから徹底的に隠し通す。

 ……けど、もしかしたら俺も杉浦茉菜と同じように、わかりやすく態度に出てたりするのかも、と思ったりもする。

 杉浦茉菜から話に聞いていた元カレが弟の悠斗だったことには驚いたけど、それはそれで俺には関係のないことだ。

 成人したいい大人が女子高生に惹かれるなんて、あってはならないことなのかもしれないとも当然ながらに思う。

 けれど、出会いは長い人生の中で瞬間的なもので、尊くもある。

 この日々が終わりを告げるまで、俺は俺でこの背徳的で心地よいこの感情を大事にしていきたいと思った。








【茉菜side】

 埋まっている予定といえば、勉強、勉強、勉強で、まだ夏休み三日目だというのに既に気が狂いそうになっていた。

「こんなの終わるわけなくない?」

 補習免除の代わりに学校から出された山のような課題が机の端に山積みになっているのを見るだけで、絶望感でいっぱいになって弱音が口から漏れてしまう。

 おまけに締め切った窓を飛び越えて聞こえてくる蝉のばかでかい鳴き声に、いい加減うんざりする。

「もう、うるっさーい!」

 思わず机を両手で思いっきり叩く。

 これじゃあ集中できるものもできやしない。

 クーラーが効いているから涼しいはずなのに、窓から入る日差しのせいで部屋はなぜか暑いし。

 いらいらはマックスだ。

 土日祝日と水曜を除く平日の十八時半から二十一時まで週四日、夏休み前と変わらず桐島さんからの個別指導もあるし、課題をやるだけで一日が終わっちゃうから、どうにも夏休みという気分になれずにいる。

 ……まあ、桐島さんに会えるのはちょっとだけ嬉しい。

 でもそれとこれとはやっぱり別で、勉強を教えてくれる時の桐島さんは真剣だし、あたしもこのままだと卒業できるかすら怪しいから真面目に取り組むんだけど。

 桐島さんからこの前もらったプリントには、何日までに課題プリント何枚終わらせるなど細かく指導計画が書かれていた。

 それがあまりにも綺麗な表でまとめられていて、あたしのためにこれを作ってくれたんだなと思うと少しだけ胸が音を立てた。

 そうは言っても量が量だからなかなかモチベーションが上がらなくて、机に向ってはスマホを見たり、だめだと思い直してもう一度机に向かってもなかなか問題を解く気になれずにいた。

 今日の十八時半までに終わらせなければいけない範囲まで、残すところ数学のプリント一枚なのに、一問目から躓いているせいで同じところから全然進まないのもいらいらの原因のひとつだったりする。

「……で? この一枚だけ終わらなかった、と」

「すみません……」

 気付けばあっという間に時間は過ぎて、桐島さんが来る時間になっていた。

 一問目はどう足掻いても解けなくてそこだけ飛ばしてやってはみたけど、解答を全部埋められなくて悔しすぎる。

 全部できたら褒めてもらえるかも、なんて浮ついた気持ちでやったから尚更だ。

 あたしに目線を向けることなく、今日までが期限だったプリントを手に取った桐島さんはそれらをペラペラとめくって確認していく。

 あたしに合わせて先生たちが作ってくれたプリントは基礎から応用まで様々でこれまでの復習が主だから、いままで桐島さんに教えてもらったことを思い出しながら自分で頑張って解いてみた。

 ちゃんとできていたか自信は持てないから、桐島さんが確認し終わるのをドキドキしながら待つしかない。

「まあ、及第点かな」


「……?」


 そう言った桐島さんは一息ついて、プリントを綺麗に束ねてからあたしに差し出した。

 きゅうだいてん、ってなんだ?

 意味が分からずぼけっとしていると、大きなため息を吐いた桐島さん。

「一応合格ってこと。それくらいわかれよ。つーか、辞書引けとは言わないから、わからないことはなんでも調べる癖付けろよな。スマホでもなんでも使っていいから」

「はーい……、って、一応合格? あたし意外と問題解けてた?」

「基礎問題はあらかた解けてた。あとは応用な」

 そう言った桐島さんは、あたしが間違えてたところの問題をピックアップして、わかりやすく解説をしていく。

「おまえはさあ、要領悪いだけだから、こうやって一から十まで順番にがっちり教えてやればちゃんとわかるんだよなあ。もったいねーから頑張れよ。パターンを覚えろ、パターンを」

 ひとり言のようにぶつぶつと言いながらも桐島さんの手はサラサラと動いていて、あたしはそれを目で追うのに必死だ。

「はい、んじゃ今の説明でおまえが解けなかったこれができるはずだから、やってみ」

 ずいっとあたしの目の前に出されたのは、あたしができなかった問題の数学プリントで、内心うげっと思う。

 だって、数学が一番苦手なんだもん。

 ……というか、全部赤点取るようなアホの極みのあたしが合格点だったなら、ご褒美ねだってもよくない?

 いいよね?

「……これ解けたらご褒美くれません?」

 なんて、絶対無理だってわかってるけど、茶目っ気たっぷりに言ってみた。

 だって、言わなきゃもらえるもんももらえないから、物は試しだ。

 まあ軽く流されて終わりだろうな。

 そう思ってたら、桐島さんは片方の眉を上げてこっちを見る。

「なに、なんか欲しいもんでもあんの」

 その言葉に、驚いて思わず目を見開いてしまった。

 「ん?」なんて小首をかしげながらあたしの顔を覗き込むように見てくる桐島さんから、咄嗟に顔をそむける。

「ちょっと! 顔が近いですってば!」

「あー悪い悪い」

 悪びれなく言う桐島さんに、怒ったふりをするあたし。

 自分でも顔が熱いのがわかるくらいだから、桐島さんにばれたらお子ちゃまだなって、きっとバカにされる。

 赤くなっているであろうほっぺを両手で隠しながらちらりと横目で桐島さんを見ると、机に頬杖をつきながらまだこっちを見ていた。

 その顔はなぜか嫌味な笑顔じゃなくて、なんていうか優しい笑顔だった。

 まるで愛おしいものを見つめるとき、みたいな……。

 なーんて、あたしの気のせいに決まっているけど。

 桐島さんはどんな表情をしていてもさまになるから卑怯だと思う。

 自分の気持ちに気付いたから、余計にそう思うのかも。

 そしてご褒美なんて言ってみたはいいものの、その内容が思いつかなくて逆に困ってしまった。

 どうせなら、桐島さんにもっと近づけるような、そんなご褒美をもらえるのが一番いいんだけど……。

「あっ! じゃあこのアプリのID交換してくださいっ!」

 そこで思いついたのがメッセージアプリの連絡先。

 だけど、「教師と生徒の個人の連絡先交換は禁止」と一刀両断されてしまった。

 悲しいけど、決まりなら仕方ない。

 ほんとに悲しいけど。

 じゃあ何ならいいんだと更に頭を抱えながら本気で悩み始めると、「そんなことで悩まないでまずは問題解けよ」なんて呆れた声が降ってきたから、あたしはしぶしぶと問題に取り掛かった。

「じゃあ、明日までに今日躓いたとこの復習だけしておいて」

「はあい……」

 桐島さんは荷物を鞄に詰めて帰り支度をしながらそう言った。

 問題は解けたけど結局ご褒美の話はうやむやになっちゃって、現在落胆中。

 そしてあっという間に終わりの時間も来てしまった。

 ひとりで勉強すると時間が過ぎるのが遅く感じるのに、桐島さんから教えてもらいながらやると時間が経つのがすごく早いから不思議だ。

 おかげで苦手な勉強もそこまで苦も無く、これまでやれて来れているわけだけど。

 こんなにも時間が過ぎるのが早いと、やっぱり寂しく思うのは、あたしが桐島さんに惹かれているからなんだろうな。

 だって、はじめの頃はそんなこと思わなかったし。

 そのとき、スカートのポケットに入れていたスマホが震えた。

 まだ荷物を整理している桐島さんをちらりと確認して、そっとスマホを取り出して確認するとミヤコちゃんから。

 そして、その内容を見てこれだ!と思った。

「じゃ、今日もお疲れさま……」

「ご褒美! 海連れてってください!」

 そう言って桐島さんが立ち上がったのと、あたしが言ったのはほぼ同時だった。

「……海ぃ~?」

 目を細めてちょっと嫌そうな表情をする桐島さんに、ミヤコちゃんからのメッセージを見せる。

『息抜きに出かけない? 海とか。家庭教師の人も誘ってみて。会ってみたいから』

「……だめですか?」

 スマホを握りしめた手に変な力が入って震える。

 遊びに誘うのって、こんなに緊張するものだったっけ。

 ドキドキしながら、桐島さんの返事を待った。

「俺、海って苦手なんだよな。暑いし海水ってべたべたするし」

 言いながら小さくため息をついた桐島さんに、思わず肩を落とす。

 いい案だと思ったけど、苦手なら仕方ない、よね。

「それならしょうがないですよね……。ミヤコちゃんにも断って、」

「プールならいいよ」

 あたしが言いかけたのを遮るように、桐島さんは代替案を提案してきた。

 まさかOKされると思ってもみなくて、飛び上がるほど嬉しいけどびっくりしてしまう。

 ……けれど、プールってこの辺だとどこにあるんだろう?

 海ならすぐ近くだけど、だからこそプールに行くなんて考え、あたしには考え付かなかったから。

「三駅先にあるんだよ。ちょっと穴場的なところ」

「そ、そうなんですね……!」

 あたしが知らないことを知ってる桐島さんに、嫌でも現実を突き付けられる。

 きっと、ほかの誰かと行ったことがあるんだろうなって。

 ……たとえば、彼女、とか。

「でも、女の子と遊びに行ったりして怒られたりしないですか? 彼女さん、とかに」

 自分から誘ったくせに、いざとなると弱気になってしまう。

 もごもごと聞き取りにくいだろう声で、あたしは探るように桐島さんにたずねる。

 だって、桐島さんに彼女がいるとしたらとんでもなく美人だろうし、あたしに勝ち目なんてない。

 彼女がいる人を好きになったことなんてないけど、そもそも人のものに手を出すような悪趣味なことはしたくない。

「彼女? いないから大丈夫。ていうかしばらくいない」

「ほんとですか……っ!」

 ……あれ。でもそうしたら、前に見た茶髪ウェーブの人はなんなんだろう。

「じゃあ、あの美人さんとはいったいどんな関係で……?」

 あたしが恐る恐るそう聞くと、桐島さんはいぶかし気な表情で首をひねった。

「誰のこと言ってんだおまえ」

「前に見ました。茶髪ウェーブの美人っぽい人と腕絡ませて歩いてたの」

 あたしが頬を膨らませながらそう言うと、桐島さんはピンときたようで「ああ」と一気に真顔になる。

「……んー、別になんでもないんだよな。ただの友達」

「へえー。桐島さんはただの友達と腕組んで歩くんですね」

 あたしがちくちくとした言葉でそう返すと、桐島さんはでっかいため息を吐く。

「いや、あれは俺が初手をミスっただけ」

「ふうん。外面がいいと色々大変なんですね」

 まあ、なんでもいいけどさ。

 そもそもあたしには桐島さんを咎める権利なんてない。

 こんなにイケメンなんだ。選びたい放題、遊びたい放題に決まってる。

「なに、妬いてんの?」

「ちがっ、そういうわけじゃ……っ!」

 からかうようにあたしを見て笑う桐島さんに、ドキッとする。

 取り繕うに平然を装うけど、それが桐島さんの目にどう映っているのかはわからない。

「おまえには素でいられんだけどなあ」

「え……?」

「いや、なんでもねーよ。まあ、本当に彼女じゃないし、いないから。それだけは知ってて」

 急に真剣な表情をした桐島さんは、あたしをまっすぐ見つめてそう言った。

 その視線とさっきの言葉の意味を考えてドキドキが増したけど、深く考えたら頭がパンクしそうだから、とりあえず彼女がいないことに内心ガッツポーズをしておく。

 桐島さんの言葉を信じることにして。

 彼女がいないという事実に思わず笑みがこぼれそうになったけど、気を引き締めて感情を抑え込んだ。

 こんなにかっこいいのに彼女いない方が不思議だけど、いまはいないだけであって過去にはいたんだろう。

 ……いやいや、過去のことを気にしていてもしょうがないよね!

 絶対彼女がいるんだろうと思って、いたら諦めなきゃ、なんて考えてた。

 だけど、とりあえず彼女がいなくてよかった。

 だからと言ってあたしが付き合えるわけじゃないんだけど、ひとまず安心する。

 ……喜んだり焦ったり嫉妬したり、なんだか感情がジェットコースターみたい。

「それで、プールは行く?」

「行ってみたいです!」

 こっちの様子をうかがうような問いかけに、こんなイケメンから誘われて断る女子がいるのなら見てみたい。

 もちろん間髪入れずに即答で返事をすると、「勢いよすぎだろ」なんて笑われた。

 そうと決まればミヤコちゃんにも連絡しなくちゃ!

 わくわくしながら急いでミヤコちゃんのトーク画面を開く。

 すると、スマホを持つあたしの手に桐島さんの大きな手のひらが重なった。

 その手のひらの熱さにびっくりして、反射的に手を引っ込めて桐島さんを見つめる。

「えっ、ななななんですか……っ!?」

「だけど、すぐじゃなくて課題全部終わったらな。そのご褒美」

 あたしのどもった声にまったく動じない桐島さんの言葉に叫ぶ。

「えー! あたし、あの難しい問題ちゃんと解いたのに!?」

 ってことは、夏休みが終わるギリギリまで、おでかけはおあずけってことだ。

 そんなこと言って、約束うやむやになって流れちゃうんじゃないの?

「あの程度で満足してんなよ。約束は守るから」

 そう言いながら桐島さんは笑って、あたしのぷにぷにほっぺをつねった。

 その桐島さんの破壊力といったらもう、なんて言ったらいいのかわからない。

 最初に比べたらかなりマシになってきたけど、とあたしを褒める桐島さんの声なんか、もったいないけど右から左に完全スルーだ。

 つねられて赤くなっているであろうほっぺたをいまだに弄ぶ桐島さんは、「ぷにぷにー」なんて言いながらのんきにまだ笑ってる。

 あたしの心臓がドコドコとありえない音で鳴っていることに気付きもしないで。

 切れ長の黒い瞳が愛おしむようにあたしを見つめるけど、それは桐島さんにはあたしが犬に見えてるからなんだろうな。

 名残惜しいけど気持ちを打ち明ける勇気なんてまだなくて、別の理由で赤くなった頬に気付かれる前にと桐島さんの手を払いのけた。

「……じゃあ、課題頑張るんで。約束ですよ、絶対」

「おう、絶対な」

 口約束だけど、それだけでも嬉しいものなんだな。

 そう思っている間に、桐島さんは帰っていった。

 ひとりになったあたしの部屋は、桐島さんがいなくなると急に静かになる。

 それを寂しいと思う日が来るなんて、最初の頃は想像すらしていなかった。

「そうだ! ミヤコちゃんに連絡っ!」

 隙間風が吹く心の隙間を埋めるように、さっきまでの興奮がさめないうちに、急いでスマホを取り出した。

 文字をタップするあたしの指先はなぜか少しだけ震えていて、さっき触れた固く骨ばった大きい桐島さんの手を思い出して、あたしはまた顔が熱くなるのを感じる。

 ピンクにまみれたこの部屋があたしの心情をそのまま表しているようで、桐島さんに気持ちがばれていないかななんて心配しながら、もっと桐島さんに見合うように大人っぽくお部屋を改造しようなんて心に決めた。

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