双子ぷろでゅーーす!!!

nagiyoooo

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天体観測

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 小さなハコの人口密度は一気に増加した。

 ライブハウスは駅の近くにあり、少し路地を入ったところに位置する。

 一階はピザ屋さんで、その上にライブハウスがある。

 よくもまあこれで苦情が来ないな、というほど建物は揺れていた。

 小さい場所で、大勢の人が同時に飛び跳ねるためそのまま床が抜けるんじゃないかと、その日はずっと心配していた。

 開場すると、チケットを持った学生たちが次々と入ってきた。

 受付もやはり生徒で、手作りのチケットの点線に合わせてハサミで切り続けていた。

 ライブ開始は午後5時からで、空は暗くなり始めていた。

 五時になると舞台に板谷が上がってきた。

「皆さん! 盛り上がってますかあ!!」

 大声でそう呼びかけると、それに呼応するように空間が揺れ、叫び声が聞こえた。

 舞台袖で見ていたが、ざっと100人はいるんじゃないか?

 客席には見慣れた顔もいくつか見える。

 それから五分ほど叫び合戦が繰り広げられた後、一組目のバンドが登場した。

 俺は自分の出演の準備のため、控室に板谷を引っ張って行った。

「兄さん、どうだった?」

 普段見ない、緊張した様子の景がそう聞いてきた。

「ああ、ざっと100人くらいいたかな」

「・・・・・」

「景、普段テレビとか舞台に出てるやつが何緊張してるんだよ」

 笑いながらそういうと、景は引きつった笑顔で「そうよね、あはは」、と不自然な笑い方をした。

「あれ、千代ちゃんは?」

 板谷がギターを肩にかけながら思い立ったように聞いた。

「あ、千代ちゃんは発声練習するから裏に行くって」

「千代のやつ、そういうとこ几帳面だよな。こんなのノリでいけばいいのに」

「たにかに~、千代ちゃんお仕事の時も規模の大きさに関係なく、いつも同じように準備するもんね。顔のストレッチとか。あれ見たときちょっと笑っちゃったよ」

「まあ、それが千代のいいところなんだよな~」

 俺もギターの調整をして、軽く弾いてみた。

 練習期間が一か月程しかなかったのに、自分の中では納得のいくクオリティーにはなっている。

 景のドラムも最初は、

「私、あの時は役を演じていたからドラムできたの。だから私にはできないわ」

 なんて駄々をこねていたが、板谷が

「じゃあその役でやっちゃおう!」

 というと、すっかりできるようになってしまった。

 一体どんな身体と脳をしてるんだろうか。

「そういえば!」

 板谷が突然声を上げ、バッグから何かを取り出した。

 そしてそれを俺に差し出した。

「ん、なんだこれ?」

「Tシャツだよ。日向君だけ違うわけにはいかないでしょ?」

 そういえば板谷と景と千代は同じシャツを着ている。

 俺は無言でそれを受け取り、袋から取り出した。

 黒い生地に、真ん中に四人の姿を模した絵が描かれている。

「いつの間にこんなの作ったんだ?」

「へへーん、最近日向君私に仕事全然振ってくれないから、間をみて作ったんだー」

「絵は私とお姉ちゃんで描いたんだよ!」 

 いつの間にか千代が戻ってきていた。

「そういえば最近なんか描いてんなーとは思ったけど、これだったのか」

「そう!」

 ゆったりとした感じで、三人揃って着ているのを見ると、なかなか様になっている。

 俺はシャツを脱いで、着ていた白いTシャツの上から着てみた。

「おおー! これで全員揃ったね!」

 板谷はスマホを取り出し、全員が移るように机の上にカメラを設置し、写真を撮った。

「じゃあ、本番頑張ろうね!」

「うん、頑張ろう!」

「頑張りましょう」

 三人は手を合わせて、俺の方を見た。

 なんやかんやで、こいつらもずいぶん楽しんでるな。

 俺もそっと手を置いた。

「楽しもうぜ」



 俺たちの一組前のバンドが終わるころ、係の人に呼ばれた。

 ギターを担いで狭い道を進んでいき、舞台袖まで来た。

 もう終盤だというのに、観客は最初の頃と変わらない盛り上がり方をしている。

 なにか怪しいクスリでも盛られたんじゃないかと思うほど熱狂していた。

「うわ~、結構いるね~」

 千代が舞台袖から客席を覗いて言った。

 景の表情はまだ硬いままだ。

「おい景、そろそろ始まるぞ」

 俺は小さい声で景にそう言った。

「わかってるわ」

 景は大きく深呼吸して、目を閉じた。

 そして数秒間沈黙した後、目を開けるとそれはもう、先ほどまでの景はいなく雰囲気ごと別人になっていた。

「相変わらずすげえな、てかむしろ怖い」

 そんな独り言を言っていると、司会役の生徒が俺たちを呼んだ。

「次は!校内でも大人気、日本でも大人気のあの双子! そしてその二人を支える兄! それにもう一人を加えたバンドです!」

「ぷっ、もう一人だって」

 思わず俺が吹き出すと、板谷が怒って舞台袖から司会者に「ちゃんと紹介しろー!」、とヤジを飛ばした。

「では、どうぞ!!」

 そんな板谷の声が届くはずもなく、俺たちは促されるがままに舞台に上がった。

 開場は暗くなり、歓声だけが鳴り響いた。

 俺たちは楽器の準備をし、千代がマイクの前に立ったところで、板谷が合図した。

 瞬間、まぶしいほど照明が照りつけ、無数の顔が俺たちを見ているのが確認できた。

 俺は手順通り、力ずよく腕を振り下ろした。

 鳴り響くギターの音、しびれるようなドラムのビート。

「今日は来てくれてありがとうございまーす!」

 千代がマイクを握って声を張り上げた。

「ううぉおおおおおおお!!」

 心なしか、先ほどまでより男の声が三倍ほど大きいのは気のせいか?

 千代はいつもと変わらない笑顔で、そのまま歌い始めた。

 俺たちは、バンプオブチキンの天体観測を演奏した。

 どういうわけか千代はこの歌をよく歌っていたし、景が以前出演したドラマにも、この歌が流れていた。

 という事でこの曲に決まったのだ。

 千代の歌声は透き通っていて、なおかつかわいらしい声質だった。

 みんながその歌声に魅了されている分、多少ミスをしても気づかれなかった。

 たった一か月だったけど、なかなかの完成度で盛り上がりも良い。

 何しろ景も千代も板谷も、楽しそうだ。

 俺は自分でも気づかないうちに、笑顔で演奏していた。

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