優しい闇に抱かれて

霧のむこう側の世界

懐かしい夢をみた。
幼い少女の頃に男の子と
青々と茂る、広々とした
草原で秘密基地を作ったり
熟れて赤く色づいた木苺を
見つけて二人で食べた。
懐かしい…






夢にしては
色が付いた鮮明な夢。
おばあちゃんの住む
田舎とは、まったく
違う光景…。







私が本を読むのも
テレビを見るのも気に
入らない義母が最もらしい
理屈を付け、嫌がらせの
一貫として見せないから…




書籍やテレビの 
影響ではないと思う。







そして…たまに
聞こえる声…眠っている
時のほうが顕著だが…

最近では目が覚めた
日常生活を…している
ときにも私の意識を…
覚醒させるかの…如く
頻繁に…語りかけるように
聞こえるようになった。
怖くはない…






だって…
とても優しい…
懐かしい声…なのだから




「早く…おいで…」
「そこは…つらいだろう」
「君の居場所は…こちら側
    …なのだから」






自我の無い…
人形のような存在に
成り果てた…私の心は
喜怒哀楽のない…
生きた傀儡…。






娘の異常に
気が付いても…
知らぬ振りをする…
父親は、口喧しい義母の
ご機嫌とりの生贄に…
娘を差しだしたらしい。




最低の肉親だと思う…。







自我を無くし
生きた人形の耳に届く
微かな声が…ぎりぎりの
ところで私がまだ…
人間だと…教えてくれる。
だから…私は…まだ正気を
失わずに…生きている。






私は…いつ死んでも
おかしくはなかったから。






無意識に、ビルの屋上に
立ち…下を見下ろして…
ぼんやりと…眺めている
時があったから。






後もう少し…心に響く

彼方からの…
声の示す道筋を、
理解出来たら…
私は…自由になれる。