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第三章

3-1.

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さて、と。一日の仕事を終えた私は、お風呂に入ることにした。命の洗濯は必要ね。
服を脱いで浴室に入ると、私はシャワーを浴びる。この瞬間が最高よね。ああ、気持ちいい……。
「ふんふ~ん♪」
鼻歌交じりに体を洗っていると、不意にドアの開く音がした。え?誰!?︎
「お背中を流しましょう」
「きゃああっ!!」
思わず悲鳴を上げる。すると、入ってきた人物ーーエリザベートは、呆れたような声を出した。
「何を驚いておられるのです」
「だ、だって!どうしてあなたが入ってくるのよ!」
「お世話をするためですよ。私だけではありません。……入りなさい」
浴室のドアが開き、三人の少女が入ってきた。皆、全裸だ。
「この者が、アーティ様の入浴のお世話の当番です。私は指示係です」
「指示係のエリザベートまで、どうして裸なのよ」
「いつものことです。さあ、構わないので、いつものようにお世話をなさい」
「はーい」「はーい」「はーい」
三人の少女は、小さく頭を下げた。「「「よろしくお願いします。アーティ様」」」
と、ハモりながら。…………なんなの、これ。
私の心の声は届かなかったみたいで、少女たちは石けんを泡立てて、私の体を洗いはじめた。……手のひらで。
「ひゃっ、え?え?なんで手のひら」
「このほうが石けんが馴染むのです。いつもと同じではありませんか、アーティ様」
そうなの?アーティったら、こんなことやってるの?というかそもそも、これは必要なことなのかしら。疑問に思うが、彼女たちの手つきは慣れていて無駄がない。
私は諦めて、されるがままになった。
全身をくまなく洗われた後、私は湯船に浸かった。そして、三人の少女に、髪を乾かされ、マッサージを受け、服を着せられ、化粧を施され、髪を結われ、最後に香水を吹きかけられた。理解に苦しんだのは、その間というもの、少女は最後まで全裸でいたことだけど。でも、三人とも若いしお肌がつるつるしていて、うらやましいなあとちょっとだけ思った。「終わりました」
「ありがとう。……それで?これで何が終わったの?」
「明日も同じ時間に参ります。それでは失礼いたします」
「ちょっ、待ちなさい!質問には答えてくれないわけ!?︎」
「また明日」
エリザベートがそう言うと、三人の少女たちは揃って一礼して、浴室から去っていった。
「アーティはいつもこうなの?」
「左様です。少女の素肌が、いたくお気に入りなのです」
「変態ね」
「私もそう思いますが、なにせアーティ様は有能ですので。それに、リリィ様もまんざらではなかったのでは?」
「やめてよー。一緒にしないで」
「リリィ様も有能な方だということは、今日一日で理解いたしました。そういう方は、どこかでハメをはずす時間を持たないと、壊れてしまいますよ」
「わたしは本来ゆるふわキャラなのよ。だから前提が変わっちゃったの」
「有能にならざるを得ない、と」
「ちょっと違うけれど、アーティと入れ替わった以上は、アーティと同じだけの仕事はこなしてみせるわ。ついでに荒事もね」
「頼もしい限りです」
そんな会話をしながら服を着替え(その間、ずっとエリザベートに見られていたってのもどうかと思うんだけど)、食事をとると、ようやくひとりの時間がとれた。ベッドの上で、ごろりと寝転ぶ。
「はぁ~。疲れた~」
でも、なんだか楽しかったな。
「リリィ様、起きていらっしゃいますか」
「はい、何かしら」
んー?嫌な予感がするなあと思いながら、扉の向こうから聞こえてきた声に応えて、私は立ち上がった。
「どうぞ」
「夜分遅くに申し訳ございません。少しお時間をよろしいかと」
「ええ、いいわよ」
ドアを開けると、そこには、予想通り、三人の少女の姿があった。
「あのさあ、あなたたち。もう用事は済んだんじゃないの?」
「はい。ですが、毎夜のお相手を……」
「待って待って、今日は……えっと、そうだ!ちょっと疲れているから、遠慮しておくわ。あなたたちは自分の部屋で眠りなさい。また今度ね」
「そうですか……」
三人の少女は不服そうではあったが、すんなりと去っていった。
アーティったら!
信じられない!信じられない!夜の相手って、そういうことよね?よく分からないけれど。それって、つまり……。
「やめてー!」
思わず叫んだ。するとすぐに、エリザベートがやってきた。
「リリィ様、いかがなされましたか」
「なんでもないのよ。気にしないでちょうだい」
慌てて取り繕う。
「そうですか。ですが、もしなにかあれば、いつでもお呼びください。私は、リリィ様のお味方ですから」
「ありがとう」
エリザベートは一礼して、去っていった。
「ふう」
大きく息を吐いて、もう一度ベッドに飛び込んだ。
「もう、ほんとうに、アーティったら」
その日は、なかなか眠れなかった。私ったら、まるで子供だ。
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