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6 黒く、妖しい言葉に

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 「はぁ、疲れました。まさかここまでやるとは」
 自室のベッドに倒れこむ兼拍。
 現在時刻は午後六時。既にここ宛に送った荷物は届き荷物の整理は終わった。ついさっき。
 アサギの授業的なものは荷物が届くまで本当に続き荷物が届いた時には逃げ出すように三人揃って部屋へ閉じ籠った。
 アサギが教えたことは多すぎてほとんど覚えていない。
 荷物の整理が終わったときには疲れが溜まりベッドにダイブしていた。
 「ね、眠い」
 コクンコクンと頭が下がったり目が閉じかけたりと睡魔が襲う。
 しかしそれを止める救世主が現れた。
 コンコンッと鳴る音。それは自室のドアから聞こえたノックの音だった。
 ビクッと音に反応する体。しかし自分の神経の反応は鈍い。
 「は、はい」
 のそのそと起き上がり急いでドアを開ける。
 「終わったか?」
 ドアの後ろで待っていたのはアサギだった。
 「あ、はい。終わりました。で、どうしたんです?」
 何故か深刻そうな表情で来たアサギ。腕を組ながら考えていた。
 恐らく相談に来たらしい。
 私ができることの範囲での相談ならいいですが、と弱気になるがその相談が以外よりも驚きだった。
 「俺さ、金無いっていったじゃん?プラスでさぁ。冷蔵庫もカラッポなんだよね。どーしよ?」
 最初は何を言っているのかわからなかった。
 「…………………はあ」
 ため息のような声。呆れた様子の表情。
 「で、私にどうしろと?」
 アサギを下から睨み付ける。
 「いや、別にどうしてほしいとかじゃないんだけど…………………夜ご飯抜きでいい?」
 ジトーと目を向けるその目にはもはや生きた生物をみるめではない。
 そんな目には合わせまいとガッツリ逸らすアサギ。
 「………はぁ、何を言ったところで変わりませんからね。二人は何て言ったんですか?」
 「問題無いって」
 先に兼拍より聞いていたようでこの時点で兼拍の許可をいただければという状況になっていたようだ。
 「その代わりってのはなんだけど、風呂は沸かしてあるから入ってきていいよ」
 それだけ言い残し、アサギは一階へと向かってしまった。
 疲れていた兼拍は考えるより先に風呂に入る準備をしていた。後から考えてみてもさっさと風呂に入りすぐにでも寝たかった。
 今日はいつになく疲れたと感じていた。恐らく、いや確実にアサギのせいだと確信しているが。
 第七師団を適当に見て回ったときに思ったが風呂がかなり大きくとても一人で入るように出来ていないような感じだった。
 初めての大浴槽にワクワクしながら風呂場へと向かった。
 
 春の夜は冷えていた。夜空を見上げるアサギ。小さい頃はこんな余裕もなかったので自分に可笑しくなる。
 第七師団支部の外。丘の坂に寝転がっていた。芝生がアサギの眠気を誘う。
 「数年、か早いもんだな」
 ひとり言。
 その声は誰にも届くことなく闇夜へと消えていく。リーン、リーンと鳴く虫だけしか聞こえない。町や村すら近くにないこの場所。
 「随分と優しくなったものだな」
 自分とは違う声。その声の主の方へ視線を向けるとあの猫がノソノソと近づいていた。
 「何しに来たんだよ、真薪またたぎ
 その猫のような奴の名前。本当は猫ではない。むしろ動物ではなく意志疎通の可能なモンスターである。しかしひょんなことからこうして今は一緒に暮らしていた。
 「あの三人は何の真似だ?」
 「真似って、別に何も考えてないけど気が付いたらって感じだな」
 適当。もの凄く適当なまとめ方にあの三人なら「どういうことだ」と噛みついてきたことだろう。今この場に居なくて助かったと思い直すアサギ。
 真薪と呼ばれた猫型のモンスターはアサギの隣に座った。
 アサギと同じように夜空を見上げた。そしてこんな事を呟いた。
 「もうメシが無いんだが?」
 何で真薪こいつも同じ事を言うのか、と思いながら思い切り目を逸らす。
 何も言えない。
 明日は金稼がなくちゃなぁ、とか考えるも明日にはめんどくさっ、てなっているのが落ちだった。だが、今回は自分だけではない。
 だから、
 「さてと、やらなくちゃな」
 ゆっくりと寝ていた体を起こす。また同じようにゆっくりと立ち上がる。
 「支部は頼んだ、真薪」
 「ほう?明日の晩ごはんは二倍ということか。任せろ」
 ぐっ、と可愛らしい肉球でグッドサイン。舌をペロリとだし、その美味しいであろう二倍の晩ごはんを想像する。
 「………………まぁ、いいけど、さ」
 自業自得のために出る出費なので文句は言えないがここまで食欲丸出しのモンスターが近くにいると少しゾッとする。
 あの三人喰われないだろうな、とあり得るかもしれない事態に備え早めに帰ることを心の中で誓う。
 


 支部の内部。
 三人とも風呂から上がりリビングで寛いでいいとアサギから言われていたのでソファーに座り疲れた体を癒す。
 空腹に耐えきれず誰もがくぅ~、とお腹を鳴らす。
 冷蔵庫を開けさせてもらい中を見るがあるのは生卵ひとつ。
 逆になぜひとつだけ残ったか疑問になるがそっと冷蔵庫のドアを閉めた。触れてはいけない気がすると。
 空腹から逃れるため気分転換に周りを探って見るも特に何もない。
 「アサギ君はどこに行ったのかな?」
 風呂から上がったと言うもののアサギの姿を全く見なくなった。そう感じていたのは宮越だけではなかった。
 「意外と先に寝てたりして」
 冗談っぽく笑う茅世弥。アサギの行動の読めなさはこの三人より知っている兼拍は「ありそうですね」と苦笑いで答える。
 そうやって他愛もない話を数十分ほどした。
 互いが互いに聞きたかったことなど内容は一切尽きなかった。しかしふと思った。
 「本当に寝ているのかな?」
 心配になりだしたのは宮越。すぐ森も近いためモンスターの可能性も考えているようだ。言わば行方不明、と。
 その可能性を薄々感じていた茅世弥と兼拍。何も言えなくなりシーンとした、ほぼ無音状態のなる。
 が、それを待っていたかのようにガチャリ、と玄関が開いた音が聞こえた。
 自然と音の方に目を向ける。アサギという確信はないがよくわからない所にあるこの支部を他の人が入ってこれるとは思いもしない。自然とアサギが帰宅した、と認識する。
 「お帰りなさい、あさ……………ぎ………君?」
 言葉を失っていく茅世弥。
 何故ならその正体が…

 猫だからだ。

 「ん?アサギなら出掛けたぞ」
 その言葉を最後に沈黙が訪れる。誰も動きはしない。静まりかえる部屋に時計の針が動く音だけが響いた。
 動きを再開したのは時計の針がまた動いたと同時。
 「「「ね、猫が………しゃべった」」」
 三人同時に驚愕。見事に三人ハモった。その驚きように猫、もとい真薪は、
 「む、その反応はアサギの奴め。話してないな」
 こちらもこちらで驚いていた。
 しばらく考えるような素振りを見せ、三人に一歩近く。
 ビクッと体を震わし目を見開いて真薪を凝視する。
 かなり真薪は警戒されている。
 動くことの出来ない三人。動けば余計刺激を与え何かをしかねないので動けない真薪。固着状態が続く。
 「ただいま~」
 そんなことも知らずに無責任で空気の読めないアサギが帰宅。
 その声に三人と一匹?はリビングと廊下を繋げるドアに目を向ける。
 その後すぐに開いた。
 「……………何してんの?」
 まるでアサギから見ると珍獣が人を驚かしている、そしてその珍獣が人という存在を初めて見た、という謎のコンセプトの場面を見させられているような気がした。
 「おい、アサギ。私の説明をしていないとはどういうことだ?」
 起こられるアサギの手にはスマホのような機器を、そしてアサギには少し傷がついていた。
 そんなアサギが「あぁ、そうか」とてをうちながら一人納得したような表情になった。
 「そうだよな。三人はこいつと初対面だもんな」
 ヘラヘラと笑いながら固まった状況を理解。
 説明へと取りかかる。


 「真薪コイツとは昔からの仲でさ、モンスターのいわゆる妖怪、とか言うものの類いなんだよ。信頼というか、まぁ仲間?だから大丈夫だよ」
 ソファーに座り落ち着きを取り戻して三人にしっかり説明する。敵ではないと。
 それを知った三人はホッと一息をついた。しかしモンスターという言葉からどこか引っ掛かる、といった表情をしていた。
 そしてこんなにも大事なことを言い忘れていたアサギへの怒りだろうか、三人、一匹を含め青筋を浮かべる。
 「………………さ、明日も忙しいんだ。寝ろ」
 シッシッと追い出される三人。しぶしぶといった表情でリビングを後にする。
 完全に逃げたアサギ。最後に真薪もペイッとつまみ出され廊下へ転がる。
 「あのガキめ。今度痛い目を…………そういえばお前らはアサギと組んだらしいな」
 寝ようと階段を登っていた三人を止める。首だけ振り向かせその場で話を聞いた。
 「あいつはああ見えてかなりだ。それでいてあいつは人の力を持っている分だけ引き出す力を持っている。あいつの話を聞いて行動すれば、な」
 そんな事を言い、廊下の暗い方へと消えていった。
 最後の最後に姿が完全に三人から見えなくなってから「まぁ、妖怪の戯言と脳の中に止めておくといいさ」と去り際に言い残していった。
 三人は顔を見合せ互いに?を浮かべていた。

 三人はこれを後に理解する事になる。
 
 これもまた妖怪のだと真薪は思うのだった。
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