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第一章 勇者かと思いきや魔王でした

#2 魔王に昇格

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 あれから数日。悪魔、いや魔王軍に転生してから速くも数日がたってしまった。

 勉強は通常の世界、元の世界よりも楽ではかどった。
 魔法やこの世界の法律、人間たちについてなど興味が持てるからか転生したからか覚えは速かった。

 (はぁ、やれやれここまで人間と仲が悪いとは)

 勉強していくにつれわかるのは仲の悪さだった。毎回戦争状態。こんな中で元人間の転生者なんてばれれば親からも殺されかねない。

 勉強も無事ノルマをこなしここまで生き残れたが生き方を選ばなくてはならないようだ。

 (勇者に会いたかったなぁ…………)

 せめて自分がなれないのならと考えたがそんな望みも叶いそうにない。

 異世界にまで来て微妙な人生を送ることを想像してしまう。

 『明日からお前には優秀な助手をつける。人類滅亡に貢献してくれ』

 昨日父に言われた事を思い出した。
 
 助手といわれても滅ぼす気にはなれない。何より元人間である。もはや見張りに近い。
 
 心のなかでそんな事を考えているとタイミングよくドアが開く。

 「失礼いたします、エルメナード・フォカロス様。わたくしは次期魔王に支える者、アリーナと申します」

 開くドアと同時に聞こえてくる声。声からして女のようだ。
 その女のアリーナという者の話は続く。

 「次期魔王は貴方様であり、そのサポート、手伝いを命じられ参上つかまつりました。以後、お見知りおきを……………あ、ちなみに私はです」

 「……………………え、あ、うん」

 「最初は堅苦しい奴だなぁ」とか他人事だったが、最後の一文で「こいつやベーな」に変わった。

 場の状況が読めなくなり、静まりかえるこの場はとても居づらかった。

 アリーナ本人はいい仕事したとでも思っているのか安堵と嬉しさからか笑顔だった。

 (助手とかいうからあの魔王やろう、正直びくびくしながら待ってたらとんでもねー奴押し付けてきたじゃねーか)

 もはや魔王ですらあのやろうと化した。
 そんな魔王は現在城の最上階、自室にてゲームnowという写真と一言と共にSNSに夢中だ。

 そりゃあのやろうにもなる。エルメナードもとい吉原は知らないが。

 ふざけんなと言いたいところだが面倒ごとが人間の時から嫌いだったので取り敢えずアリーナを下がらせた。

 下げられたアリーナは勢いよく閉めたドアの音の後に、鼻歌を歌いながら去っていった。

 あいつやベーな

 その一言に尽きる次期魔王であった。
 


 程なくして様子を見に来た魔王。この時に魔王の手にゲームコントローラーが握られていた為に自室でくつろいでいることを知る。
 しかし、それよりも重要な事を言いたいようだ。

 「我が息子よ、事態は深刻な状況にある」

 深刻な顔をする魔王、兼父。片手にはゲームコントローラー。

 「何事ですか?」

 外の状況、この部屋の外の事など大概は知らないエルメナード〔吉原〕にとっては予想など出来ない。

 そんな息子に伝える事とは何事かと聞く耳をたてる。

 「驚かずに聞いてくれ」

 そう言う魔王の片手にはゲームコントローラー。

 「………わかりました。それで、深刻とはいったい?」

 正直、片手に持ったゲームコントローラーの存在感が強すぎて集中出来ない。

 しかし聞かざるをえない。父直々のお言葉なのだから。

 「なんと……なんと人間族が増え、とうとう我が安泰の地に踏み入れようとしているのだ」

 コントローラーを握る手に力が入っていく。

 あのコントローラー大丈夫かな

 「しかし我が城は落ちん。ここ数年で築き上げた城を突破できるとは思えん。だが、危険には変わりはない」

 ミシミシと悲鳴をあげ始めるコントローラー。

 「それは、まずいですね」

 コントローラーも。

 「そうだ。そこで、我が息子であるお前に人間族の代表とも言える〝勇者〟を亡き者へとしてほしい」

 つまり、〝殺せ〟と。

 絶対嫌です

 「承知しました」

 嫌なんて言える訳がない。逆にこっちが殺される。
 死んだばっかのもあるがゲームコントローラーを必死に握る魔王に殺されるなんて一生、いや来世辺りまで黒歴史だ。

 そんな事では死ねないとしぶしぶでも承知する他ない。

 潔い答えが返ってくると魔王はご機嫌になったようでヒートアップする。

 「ふっ、確かに我が城まで辿り着き、上から『よくぞここまで来た!さぁ私の城を攻略できるかな?』と言いたいが正直、ね?」

 (あーその言葉聞いたことある気がする)

 それは生前、クラスで不登校気味な奴がいて少し仲が良かったため彼の家までプリントなど届けているとき、インターホンを押すと必ず、

 『フハハハハハ、よくぞ来た。ゲームをするために引きこもった我を呼び出すことは出来るかな?』

 というセリフだ。しまいに、

 『引きこもりで培った居留守と暇をもて余して出来たトラップは最強だ!』

 とかほざいていた。無視して突撃たしが攻略とやらに一時間近くかかってしまったのを覚えている。そしてもう忘れたい。

 そんなくそみたいな記憶。

 思い出していると魔王は真剣に聞いてくれていると勘違いしたのか更に続ける。

 「もし、来てしまったら正直、勝てるかはわからない」

 どうやら現在の魔王である父はビビっているらしい。

 「そんな訳で、今からは、エルメナード・フォカロス、お前を魔王とする!」

 唐突な魔王の言い草に、

 嫌です!とは言えず、

 「承知しました」

 しか、言えなかったのだった。
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