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第一章 王国動乱篇
第十七話 術力②
しおりを挟む「そうだ、最後に聞きたかったことがある。この前魔術戦で使った、あのよくわからん魔術は何だったんだ」
「あー、あれですか。風の最上位魔術のー、【幻風】ですー」
「ほう」
「まおーさまみたいにー、魔術そのものを消されてしまうとーどうしようも無いんですがー、風の塊を操作してるのでー、魔法陣さえ隠しちゃえばー、どこから何が来るのかー分からないんですよねー。使い勝手はー、結構いいんですよー」
あの妙な圧力は、質量を持ったと錯覚するほど高密度な風の塊……という事か? 見えないというのは、なるほど有効だ。形状が分からない以上、風の通り道を分かるように雨を降らしたり、身の回りを固めるたり、相応の対策を取らねばいけない。それが無ければ、一方的に詰られるだけになる。
「これは、私には考え付かなかった。やはり人間の工夫の仕方だけは、弱者特有のモノなのだろう。着眼点が面白い」
私が考えごとに夢中になっているとき、多数の魔術反応が起こる。
目を向けてみれば、先ほどの魔術を消したライラが、今度は数多の魔法陣を背後に展開していた。
その魔法陣は色ごとに並んでおり、四大魔術だろうと考えられる。
「これがー、全ての四大魔術ですー。各属性六つずつ、計二十四。基本的に人間が使う魔術はこの中のどれかになってますー。それでー、さっき見せた【幻風】にある列がー、他の属性の最上位魔術ですー。効果はー、えっとー、まあ見てわからない部分はいずれー」
こうしてみると圧巻だ。数だけを見れば大したものではない。私が扱える魔術は無数に存在するからだ。
しかし、この魔法陣の構成。これは中々考えられていると言える。
確かに拙い部分は多々見られる。私やライラなら多分、今からでも書き換えて、自分に合ったより良い魔術構成に出来るだろう。
つまりこれはそういう事だ。人間が扱える範囲で、なお且つ扱いやすい様に、工夫に工夫を重ねた努力の成果だ。
魔術において、どの工程が難しいのか。それを理解したうえで構成を考えたに違いない。
【炎熱弾】は、形作り、放つだけ。その横にある魔術は、それを継続的に放ち続ける、「維持」の部分が追加されている。
更にその横は――――これは「座標指定」か。手元や、身体の周囲ではなく、自らの望む位置に魔術を発生させるもの。
はは。誰かは知らないが、これを考えた者は、随分と頭が切れる人間だ。
この魔術体系が完成した……いや、広まったのはだいぶ前だという。であれば、当人はとっくに死んでしまっているのだろう。本来なら。
「なあライラ」
「なんですー?」
すまんな、人間。私は少々短気だったのかもしれない。
「私と一緒に来ないか?」
だいぶ昔のこととはいえ、このレベルを扱い理解していた人間がいたという事だ。それが本当に人間かは定かではないが、人間に益をもたらそうと考えている、稀有な存在。人間ではないかもしれない、妙な存在。
さて、らしくなってきたぞ。人間の味方をする存在というのは、基本的に人間の敵である私の、敵というわけだ。そうと決まったわけではないが、まあそう思っておくに越したことはないだろう。
誘いを受けたライラは驚くこともなく、平然とした表情のまま告げた。
「いいですよー、私ここで鍛錬しかしてませんでしたしー」
よし。いや、よしではない。何してるんだお前。役割とかないのか。国防とか。
「いざとなれば、スラヴィアがどうにかしてくれますよー。使い捨ての転移用魔道具持ってますしー」
「いいのか、それ」
こうしてライラが旅の仲間に加わった。物凄く軽かったが、本当に大丈夫か?
少し心配になってきた。七欲の彼らの事は信用しているが、いくらなんでも関与しなさ過ぎな様な。
…………そうだな、まあいいか。何かあれば、その時に考えればいい。
確かに私はこの国のトップではあるが、私がいなければ崩れてしまうような国であれば、とっくに滅んでいるだろう。自分達の身は自分達で守る、それくらい出来なければ話にならない。
「じゃあ、行くか。とりあえず、サクッと迷宮まで」
「りょーかいでーす」
「スラヴィアに何言われても知らねえぞ……」
決まれば即行動。グラトリアに見送られながら訓練場を後にした私たちは、王都の方面に向かって出発した。
後日、グラトリアは制御係の仕事を全うできなかったという事で、スラヴィアに叱られたらしい。どんまい。
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