贖罪の救世主

水野アヤト

文字の大きさ
上 下
328 / 841
第十九話 甞めるなよ

しおりを挟む
「ごっ、ごめんなさい・・・・・・」

 二人のメイドが侵入者を処理した、同時刻。

「ばっ・・・・・ばかな!?」
「ひい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・・!」

 城内の別の場所では、一人のメイド少女と五人の襲撃者が戦闘状態となっていた。
 しかし、ここでの戦いは既に決着している。
 作戦行動中、一人のメイドが立ち塞がったため、迅速に障害を取り除こうと動いた、この襲撃者達。どう見ても、内気で臆病そうな、ただのメイドにしか見えない事もあり、彼らは少しだけ油断してしまった。
 その油断が命取りであるとも知らずに・・・・・・。

「動けん・・・・・!」
「我々が、こんな小娘に後れを取るなど・・・・・!」

 メイドを殺そうとした彼ら五人は、全員その場で動かなくなっていた。まるで凍り付いてしまったかのように、腕一本も動かせない。
 彼女を殺そうと接近した彼らは、彼女の数歩手前で何も出来なくなった。動きを封じられてしまったのである。彼女が仕掛けた、ワイヤートラップによって・・・・・・・。

「ううっ、静かにしていて下さい。あんまり騒がれると、陛下が起きてしまいます・・・・・・」

 内気で弱気な感じの、このメイド。本当にこのメイドが、彼らをワイヤーで捕まえたと言うのか、疑いたくもなる。
 だが、彼らを捕まえたこのワイヤーは、紛れもなく彼女が仕掛けたものだ。その証拠に、彼女の両手の指には、よく見ると微かに、細い蜘蛛の糸のようなものが見える。
 このワイヤーは彼女の武器。ワイヤーが仕掛けられたこの場所は、彼女の領域だ。何も知らずに一度踏み込めば、ワイヤーは蜘蛛の糸のように、獲物の身体に巻き付いて動きを封じてしまう。
 目には非常に捉えにくい、細く丈夫な鋼のワイヤー。彼らはこれに捕まった。
 そして、彼らの命は、彼女の思いのままとなる。

「静かにして欲しいので・・・・・・、これで終わりにします」

 メイドは右手の人差し指を、少しだけ動かした。
 彼女の両手には、ワイヤーを操るための道具が装着されており、仕掛けられていたワイヤーは、彼女が指を動かすだけで、凶器と化す。
 少し指を動かしただけで、ワイヤーに拘束された五人は、次の瞬間、体中を引き裂かれた。頭も、腕も、胸も、足も、綺麗に切断され、五人は一瞬にして、ばらばらの肉片と化した。城の床に散らばった、侵入者達の肉片と、床を真っ赤に染め上げる、五人分の出血。
 たった一人のメイドによって、潜入と暗殺に長けた五人は、簡単に殺されてしまったのである。

「あっ!ゆっ、床を汚してしまいました!お掃除しないとメイド長に怒られる・・・・・・」

 このメイドは、人を殺してしまった事よりも、城内の床を汚してしまった事の方が、自分の中ではよっぽど大問題なのである。床をこのままにしておいては、後でメイド長の逆鱗に触れてしまう。それが恐ろしくて仕方ないのである。
 
「ううっ、お掃除しないといけないけど・・・・・・、他の侵入者を警戒しないと・・・・・。あうあうあうあう・・・・・・」

 どっちを優先するべきか、それが問題だった。頭を抱えて悩みに悩む、ワイヤー使いのこのメイド。
 彼女の名はアマリリス。どんな仕組みなのか誰も知らない、鋼のワイヤーを使って人を殺す、見かけに反して恐ろしいメイドである。

「どうしよう・・・・絶対怒られちゃう・・・・・・・」

 この後待ち受けるであろう、メイド長の説教に怯えるアマリリス。
 結局彼女が選択したのは、掃除ではなく、侵入者への警戒だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)

朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。 「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」 生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。 十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。 そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。 魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。 ※『小説家になろう』でも掲載しています。

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

ラストダンジョンをクリアしたら異世界転移! バグもそのままのゲームの世界は僕に優しいようだ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はランカ。 女の子と言われてしまう程可愛い少年。 アルステードオンラインというVRゲームにはまってラストダンジョンをクリア。 仲間たちはみんな現実世界に帰るけれど、僕は嫌いな現実には帰りたくなかった。 そんな時、アルステードオンラインの神、アルステードが僕の前に現れた 願っても叶わない異世界転移をすることになるとは思わなかったな~

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!? そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!? 農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!? 10個も願いがかなえられるらしい! だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ 異世界なら何でもありでしょ? ならのんびり生きたいな 小説家になろう!にも掲載しています 何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします

盗人令嬢にご注意あそばせ〜『盗用』スキルを乱用させていただきます!

星見肴
ファンタジー
 7歳のスキル発現の儀式で『盗用』というスキルを得たエマ・エルフィールド。その日から彼女の生活は一変する。  侯爵令嬢ではなく使用人に、人間から奴隷に。盗んでもいない物を盗んだと濡れ衣を着せられ、いつしか『盗人令嬢』と呼ばれるように。  数年、そんな生活を送ってきたエマだったが、妹のアリアに階段から突き落とされて前世・狩津舞だった頃の記憶を取り戻す。  スキルで家の人間達から他人のスキルを奪えると知ったエマは、次々とスキルを奪い取る。  そして、実の父親がエマの殺害を企てていることを知り、家を出て行くことを決意する。  もちろん、全てを奪った連中にざまぁしてやります!  カルト集団だろうが邪竜だろうが関係なし! 盗人令嬢のスキルチートで全て奪ってやります! 完結

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...