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第十三話 救世主
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「ユリーシア!!」
全力で城の中を走り、真っ直ぐに向かったその部屋は、彼の全てが始まった場所。
扉を乱暴に開け放ち、少女の名を叫ぶ。
辿り着いたのは少女の寝室。そこに居たのは、数人のメイドたちとメイド長ウルスラ、そして宰相のリリカ。
ウルスラは立ち尽くし、メイドたちは床に膝をつき、声も殺さず泣いている。彼女たちの視線の先には、寝室のベッド。その上には、一人の少女が眠っていた。
「リック・・・・・」
「リリカ・・・・・」
彼のいない間、少女を傍で支え続けたのはリリカだった。
リックが帰るまで、彼女が少女を守り続けていた。
リリカはベッドの上の少女を見つめ、視線を離さない。部屋に入ったリックへ振り返らず、彼女は少女を見つめ続ける。
「ユリーシア・・・・は・・・・・?」
「・・・・・・」
「なんとか、言ってくれよ・・・・・・っ!」
何も答えようとはしない。
ベッドの上で眠りについているはずの少女は、微笑みを浮かべている。楽しい夢を見ているのだろうかと思うほど、それは幸せそうな微笑みだった。彼女のそんな微笑みは、リックでさえも初めて見る。
別れた時は、苦しい体調を表に出さず、優しく微笑みを浮かべて送り出してくれた。ずっと彼女は、心も体も苦しめられ続けていた。
今の彼女は違う。眠っている彼女からは、苦しみ堪えているのを感じない。全てから解放されたような、穏やかな表情を浮かべている。
「参謀長・・・・・」
「メイド長・・・・・。ユリーシアは・・・・寝てるだけなんですよね・・・・・?」
ウルスラに救いを求めてしまう。
リックはユリーシアを見て、全てを悟った。何が起こったのか、悟ったからこそ救いを求める。
「陛下は・・・・・、もう二度と、御目覚めになる事はありません」
「やめて・・・・・くれ・・・・・」
「女王陛下は、卒去なされました・・・・・」
ヴァスティナ帝国女王、ユリーシア・ヴァスティナ。
帝国を統べ、その若さで国と民を守り続けた少女は、全てから解放された。
これでユリーシアは、自分の身を削る事も、重すぎる責任に苦しむ事もない。やっと彼女は、己を苦しめる何もかもから解放されたのだ。
微笑みを浮かべて、永遠の眠りについた少女。
解放された彼女の事想うと、これで良かったのだと思える。だが彼女は、死ぬにはまだ早過ぎた。
何もしてあげられなかった。彼女にしてあげられたのは、彼女のために戦う事だけ。彼女を幸せにする事はできなかった。
そしてリックは、自分を置いて逝ってしまった少女の事を・・・・・・。
「なんでだよ・・・・・。君はどうして・・・・・」
力なく、彼女が眠るベッドに近付いていく。
永遠の眠りについた少女の傍で、膝をついてその手を取った。
冷たくなった少女の手。白く長い髪と、美しい姿。透き通るような白い肌からは、温かさが失われ、息をする音は聞こえない。
信じたくない。
メシアもユリーシアも、彼をおいて死んでしまった。
「俺を・・・・おいて逝かないでくれよ・・・・」
少女の手を握りしめ、少女との約束の全てを思い出す。
この部屋で交わした、大切な二人の約束。最後に言葉を交わした時にした、必ずここへまた戻ってくるという、最後の約束。あの時彼女は言った、「待っています」とそう言った。
「俺は・・・・ちゃんと戻って来た・・・・・」
少女は何も答えない。
「だから・・・・。だから目を覚ましてくれよ・・・・・・っ!!」
残酷だ。
彼は、この世で最も愛する、かけがえのない存在を二人とも失った。
誰も彼を救えない。彼、長門宗一郎には最早救いはない。
宗一郎は、何もかもを失った。生きる意味すら、失われてしまった。
「助けられなかった・・・・・。・・・・・・ごめん、ユリーシア」
これ以上は、何も言葉が出てこない。
ただ彼は、彼女の傍で泣いた。傍に寄り添い、失われた少女の命を想い、傍を離れず涙を流し続けたのである。少女の若過ぎる死を悼み、彼女を救う事のできなかった自分を呪う。
長門宗一郎の希望と光は、永遠に失われてしまった。
この世界に迷い込み、人生に絶望していた彼を救った、女王ユリーシアと騎士団長メシア。
二人は宗一郎にとっての救世主だった。そして二人は彼を愛し、死を迎えるその時まで、彼に感謝し続けた。
死の直前も、二人は彼を恨む事はなかった。
何故なら彼女たちにとって、宗一郎は希望の光を与えてくれた、最愛の救世主だったのだから・・・・・・。
全力で城の中を走り、真っ直ぐに向かったその部屋は、彼の全てが始まった場所。
扉を乱暴に開け放ち、少女の名を叫ぶ。
辿り着いたのは少女の寝室。そこに居たのは、数人のメイドたちとメイド長ウルスラ、そして宰相のリリカ。
ウルスラは立ち尽くし、メイドたちは床に膝をつき、声も殺さず泣いている。彼女たちの視線の先には、寝室のベッド。その上には、一人の少女が眠っていた。
「リック・・・・・」
「リリカ・・・・・」
彼のいない間、少女を傍で支え続けたのはリリカだった。
リックが帰るまで、彼女が少女を守り続けていた。
リリカはベッドの上の少女を見つめ、視線を離さない。部屋に入ったリックへ振り返らず、彼女は少女を見つめ続ける。
「ユリーシア・・・・は・・・・・?」
「・・・・・・」
「なんとか、言ってくれよ・・・・・・っ!」
何も答えようとはしない。
ベッドの上で眠りについているはずの少女は、微笑みを浮かべている。楽しい夢を見ているのだろうかと思うほど、それは幸せそうな微笑みだった。彼女のそんな微笑みは、リックでさえも初めて見る。
別れた時は、苦しい体調を表に出さず、優しく微笑みを浮かべて送り出してくれた。ずっと彼女は、心も体も苦しめられ続けていた。
今の彼女は違う。眠っている彼女からは、苦しみ堪えているのを感じない。全てから解放されたような、穏やかな表情を浮かべている。
「参謀長・・・・・」
「メイド長・・・・・。ユリーシアは・・・・寝てるだけなんですよね・・・・・?」
ウルスラに救いを求めてしまう。
リックはユリーシアを見て、全てを悟った。何が起こったのか、悟ったからこそ救いを求める。
「陛下は・・・・・、もう二度と、御目覚めになる事はありません」
「やめて・・・・・くれ・・・・・」
「女王陛下は、卒去なされました・・・・・」
ヴァスティナ帝国女王、ユリーシア・ヴァスティナ。
帝国を統べ、その若さで国と民を守り続けた少女は、全てから解放された。
これでユリーシアは、自分の身を削る事も、重すぎる責任に苦しむ事もない。やっと彼女は、己を苦しめる何もかもから解放されたのだ。
微笑みを浮かべて、永遠の眠りについた少女。
解放された彼女の事想うと、これで良かったのだと思える。だが彼女は、死ぬにはまだ早過ぎた。
何もしてあげられなかった。彼女にしてあげられたのは、彼女のために戦う事だけ。彼女を幸せにする事はできなかった。
そしてリックは、自分を置いて逝ってしまった少女の事を・・・・・・。
「なんでだよ・・・・・。君はどうして・・・・・」
力なく、彼女が眠るベッドに近付いていく。
永遠の眠りについた少女の傍で、膝をついてその手を取った。
冷たくなった少女の手。白く長い髪と、美しい姿。透き通るような白い肌からは、温かさが失われ、息をする音は聞こえない。
信じたくない。
メシアもユリーシアも、彼をおいて死んでしまった。
「俺を・・・・おいて逝かないでくれよ・・・・」
少女の手を握りしめ、少女との約束の全てを思い出す。
この部屋で交わした、大切な二人の約束。最後に言葉を交わした時にした、必ずここへまた戻ってくるという、最後の約束。あの時彼女は言った、「待っています」とそう言った。
「俺は・・・・ちゃんと戻って来た・・・・・」
少女は何も答えない。
「だから・・・・。だから目を覚ましてくれよ・・・・・・っ!!」
残酷だ。
彼は、この世で最も愛する、かけがえのない存在を二人とも失った。
誰も彼を救えない。彼、長門宗一郎には最早救いはない。
宗一郎は、何もかもを失った。生きる意味すら、失われてしまった。
「助けられなかった・・・・・。・・・・・・ごめん、ユリーシア」
これ以上は、何も言葉が出てこない。
ただ彼は、彼女の傍で泣いた。傍に寄り添い、失われた少女の命を想い、傍を離れず涙を流し続けたのである。少女の若過ぎる死を悼み、彼女を救う事のできなかった自分を呪う。
長門宗一郎の希望と光は、永遠に失われてしまった。
この世界に迷い込み、人生に絶望していた彼を救った、女王ユリーシアと騎士団長メシア。
二人は宗一郎にとっての救世主だった。そして二人は彼を愛し、死を迎えるその時まで、彼に感謝し続けた。
死の直前も、二人は彼を恨む事はなかった。
何故なら彼女たちにとって、宗一郎は希望の光を与えてくれた、最愛の救世主だったのだから・・・・・・。
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