273 / 841
第十三話 救世主
18
しおりを挟む
見た事のある部屋。本当に、何年振りかに見た、私の部屋の風景。
「!!」
ベッドから飛び起きる。辺りを見渡す。
最後に見た時からほとんど変わっていない。私の部屋の風景。
「どうして・・・・見えるの・・・・・?」
目はもう見えないはず。では、今見えているこの部屋の風景は?
私の眼は、ずっと光を失ったままのはず。それなのにどうして私は、見えているのだろう・・・・・。
「どうかしましたか、陛下」
「リック様・・・・・・?」
私の寝ていたベッドの傍には、大切なあの人の姿。
顔を見たのはこれが初めて。それでも、声で貴方だとわかります。初めて見る、大切な貴方の姿。想像していた通りの、歳が五つ離れた男の人。
でも、今この人は、帝国を守るために戦地にいるはず。どうしてここに・・・・・・?
「リック様、いつお戻りになったのですか?」
「いつ?何言ってるんですか陛下、俺はずっと傍にいましたよ」
不思議そうな顔をして、私を見つめている。
ずっと傍にいた。そんなはずはない。
「あっ、もしかして寝惚けてますね?」
「・・・・・・寝惚けてなどいません。それよりも、どうして私の目が・・・・・・」
目だけではなく、体の調子もいい。
熱もないし、苦しくもない。一体、どうして・・・・・・?
「陛下。いや、ユリーシア。俺は君との約束を守ったんだ」
「えっ・・・・」
「もう、何も心配する事はない。ユリーシア、君は自由になったんだから」
約束。リック様と交わした、あの約束。
約束を守ったと言う事は、私の願いを、貴方が叶えてくれたと言う事。
「私の体は・・・・・・」
「治療した。腕のいい医者を苦労して探してきたんだ。もうユリーシアは、何の不自由もない」
「本当に・・・・本当に貴方は、私との約束を?」
「ああ本当さ。俺は君との約束を守ったよ」
これは夢?それとも、私の力が見せた未来?
現実であって欲しい。でも、これはきっと・・・・・。
「さあ行こう。君はやっと自由なれたんだから」
私の手を引いていく。
きっと手を引かれたこの先には、悲しい事も苦悩する事もない、安らかな世界が待っているのでしょう。
ですが、私にはまだ、やるべき事が残っています。
「心配ありません、陛下」
「メシア・・・・?」
気が付けば目の前に、私に忠誠を誓った騎士の姿。
最後に彼女を見た時と、同じ姿。違うのは、その表情。
出会った時の寡黙さがなく、微笑みを私に向けている。
「陛下は十分に責務を果たしました。その責務の重みから、ようやく解放される時が来たのです」
「ですが私は、彼を残していくわけにはいきません・・・・・・。私は彼のために、生き続けなければならないのです」
きっと彼は、私がいなければ壊れてしまう。
だから私は、たとえどんなに苦しくとも、生き続けなければならない。メシア、それは貴女もわかっているはずです。
「リックは弱い男です。確かに、私たちが傍にいなくては、容易く壊れてしまう」
「そうです。だからこそ私たちは――――」
「何も心配はありません。リックの傍には、あの者たちが付いています」
「!!」
そうでしたね。私と初めて出会った時とは違う。
私が傍を離れれば、きっと彼は絶望してしまう。私を存在意義として生きている彼は、生きる意味を失う事になる。私と彼が、出会ったばかりの頃はそうでした。
でも今は違う。彼の傍には、彼を想い、彼を支える者たちがいる。
たとえ私がいなくなろうとも、きっと・・・・・・。
「陛下」
「ユリーシア」
私を呼ぶ声。二人は微笑んでいる。
もう自由になってもよいのですか。この呪縛から、解放される時が訪れたのですか。
私は、後を託してもよいのですか・・・・・。
「君は責任を果たした。後の事は、俺たちに任せてくれればいい」
ああ、そう言う事なのですね。
未来を見通す私の魔法。だから私に、あの未来を見せたのですね。
「・・・・・・・・」
女王になる事を選んだあの日から、どんな事に対しても、涙を流すのをやめた。そうしなければならない立場でした。女王として、涙を見せてはならない。常に気高くなければなりませんでした。
ですが、もういいのですね。頬を伝う雫。今まで抑えてきた感情が溢れて、涙がとまらない。
私の人生。後悔もあれば、思い残す事もありました。
それでも私は、精一杯生きました。辛く苦しい人生でしたが、不幸などではなかった。
そう思えるのは、貴方のおかげです。リック様・・・・・・。
「リック様。いえ、宗一郎様」
「はい」
私は貴方を利用しました。許されるべき事でありません。
そして貴方もまた、私を生きる目的とした。私たちは同じでした。
貴方の生きる意味になれて、本当に良かった。他者に迷惑をかけるだけの私が、誰かの助けになれた事。生きていて良かったと、心からそう思えます。
「ありがとう・・・・・・」
宗一郎様。私の救世主。
どうか貴方の未来に、光があらん事を・・・・・・。
「!!」
ベッドから飛び起きる。辺りを見渡す。
最後に見た時からほとんど変わっていない。私の部屋の風景。
「どうして・・・・見えるの・・・・・?」
目はもう見えないはず。では、今見えているこの部屋の風景は?
私の眼は、ずっと光を失ったままのはず。それなのにどうして私は、見えているのだろう・・・・・。
「どうかしましたか、陛下」
「リック様・・・・・・?」
私の寝ていたベッドの傍には、大切なあの人の姿。
顔を見たのはこれが初めて。それでも、声で貴方だとわかります。初めて見る、大切な貴方の姿。想像していた通りの、歳が五つ離れた男の人。
でも、今この人は、帝国を守るために戦地にいるはず。どうしてここに・・・・・・?
「リック様、いつお戻りになったのですか?」
「いつ?何言ってるんですか陛下、俺はずっと傍にいましたよ」
不思議そうな顔をして、私を見つめている。
ずっと傍にいた。そんなはずはない。
「あっ、もしかして寝惚けてますね?」
「・・・・・・寝惚けてなどいません。それよりも、どうして私の目が・・・・・・」
目だけではなく、体の調子もいい。
熱もないし、苦しくもない。一体、どうして・・・・・・?
「陛下。いや、ユリーシア。俺は君との約束を守ったんだ」
「えっ・・・・」
「もう、何も心配する事はない。ユリーシア、君は自由になったんだから」
約束。リック様と交わした、あの約束。
約束を守ったと言う事は、私の願いを、貴方が叶えてくれたと言う事。
「私の体は・・・・・・」
「治療した。腕のいい医者を苦労して探してきたんだ。もうユリーシアは、何の不自由もない」
「本当に・・・・本当に貴方は、私との約束を?」
「ああ本当さ。俺は君との約束を守ったよ」
これは夢?それとも、私の力が見せた未来?
現実であって欲しい。でも、これはきっと・・・・・。
「さあ行こう。君はやっと自由なれたんだから」
私の手を引いていく。
きっと手を引かれたこの先には、悲しい事も苦悩する事もない、安らかな世界が待っているのでしょう。
ですが、私にはまだ、やるべき事が残っています。
「心配ありません、陛下」
「メシア・・・・?」
気が付けば目の前に、私に忠誠を誓った騎士の姿。
最後に彼女を見た時と、同じ姿。違うのは、その表情。
出会った時の寡黙さがなく、微笑みを私に向けている。
「陛下は十分に責務を果たしました。その責務の重みから、ようやく解放される時が来たのです」
「ですが私は、彼を残していくわけにはいきません・・・・・・。私は彼のために、生き続けなければならないのです」
きっと彼は、私がいなければ壊れてしまう。
だから私は、たとえどんなに苦しくとも、生き続けなければならない。メシア、それは貴女もわかっているはずです。
「リックは弱い男です。確かに、私たちが傍にいなくては、容易く壊れてしまう」
「そうです。だからこそ私たちは――――」
「何も心配はありません。リックの傍には、あの者たちが付いています」
「!!」
そうでしたね。私と初めて出会った時とは違う。
私が傍を離れれば、きっと彼は絶望してしまう。私を存在意義として生きている彼は、生きる意味を失う事になる。私と彼が、出会ったばかりの頃はそうでした。
でも今は違う。彼の傍には、彼を想い、彼を支える者たちがいる。
たとえ私がいなくなろうとも、きっと・・・・・・。
「陛下」
「ユリーシア」
私を呼ぶ声。二人は微笑んでいる。
もう自由になってもよいのですか。この呪縛から、解放される時が訪れたのですか。
私は、後を託してもよいのですか・・・・・。
「君は責任を果たした。後の事は、俺たちに任せてくれればいい」
ああ、そう言う事なのですね。
未来を見通す私の魔法。だから私に、あの未来を見せたのですね。
「・・・・・・・・」
女王になる事を選んだあの日から、どんな事に対しても、涙を流すのをやめた。そうしなければならない立場でした。女王として、涙を見せてはならない。常に気高くなければなりませんでした。
ですが、もういいのですね。頬を伝う雫。今まで抑えてきた感情が溢れて、涙がとまらない。
私の人生。後悔もあれば、思い残す事もありました。
それでも私は、精一杯生きました。辛く苦しい人生でしたが、不幸などではなかった。
そう思えるのは、貴方のおかげです。リック様・・・・・・。
「リック様。いえ、宗一郎様」
「はい」
私は貴方を利用しました。許されるべき事でありません。
そして貴方もまた、私を生きる目的とした。私たちは同じでした。
貴方の生きる意味になれて、本当に良かった。他者に迷惑をかけるだけの私が、誰かの助けになれた事。生きていて良かったと、心からそう思えます。
「ありがとう・・・・・・」
宗一郎様。私の救世主。
どうか貴方の未来に、光があらん事を・・・・・・。
0
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
魔物をお手入れしたら懐かれました -もふプニ大好き異世界スローライフ-
うっちー(羽智 遊紀)
ファンタジー
3巻で完結となっております!
息子から「お父さん。散髪する主人公を書いて」との提案(無茶ぶり)から始まった本作品が書籍化されて嬉しい限りです!
あらすじ:
宝生和也(ほうしょうかずや)はペットショップに居た犬を助けて死んでしまう。そして、創造神であるエイネに特殊能力を与えられ、異世界へと旅立った。
彼に与えられたのは生き物に合わせて性能を変える「万能グルーミング」だった。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
13番目の神様
きついマン
ファンタジー
主人公、彩人は23歳の男性。
彩人は会社から帰る途中で、通り魔に刺され死亡。
なぜか意識がある彩人は、目を開けると異世界だった!!
彩人を待ち受ける物語。それは、修羅か、悪鬼か、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる