贖罪の救世主

水野アヤト

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第十三話 救世主 

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 見た事のある部屋。本当に、何年振りかに見た、私の部屋の風景。

「!!」

 ベッドから飛び起きる。辺りを見渡す。
 最後に見た時からほとんど変わっていない。私の部屋の風景。

「どうして・・・・見えるの・・・・・?」

 目はもう見えないはず。では、今見えているこの部屋の風景は?
 私の眼は、ずっと光を失ったままのはず。それなのにどうして私は、見えているのだろう・・・・・。

「どうかしましたか、陛下」
「リック様・・・・・・?」

 私の寝ていたベッドの傍には、大切なあの人の姿。
 顔を見たのはこれが初めて。それでも、声で貴方だとわかります。初めて見る、大切な貴方の姿。想像していた通りの、歳が五つ離れた男の人。
 でも、今この人は、帝国を守るために戦地にいるはず。どうしてここに・・・・・・?

「リック様、いつお戻りになったのですか?」
「いつ?何言ってるんですか陛下、俺はずっと傍にいましたよ」

 不思議そうな顔をして、私を見つめている。
 ずっと傍にいた。そんなはずはない。

「あっ、もしかして寝惚けてますね?」
「・・・・・・寝惚けてなどいません。それよりも、どうして私の目が・・・・・・」

 目だけではなく、体の調子もいい。
 熱もないし、苦しくもない。一体、どうして・・・・・・?

「陛下。いや、ユリーシア。俺は君との約束を守ったんだ」
「えっ・・・・」
「もう、何も心配する事はない。ユリーシア、君は自由になったんだから」

 約束。リック様と交わした、あの約束。
 約束を守ったと言う事は、私の願いを、貴方が叶えてくれたと言う事。

「私の体は・・・・・・」
「治療した。腕のいい医者を苦労して探してきたんだ。もうユリーシアは、何の不自由もない」
「本当に・・・・本当に貴方は、私との約束を?」
「ああ本当さ。俺は君との約束を守ったよ」

 これは夢?それとも、私の力が見せた未来?
 現実であって欲しい。でも、これはきっと・・・・・。

「さあ行こう。君はやっと自由なれたんだから」

 私の手を引いていく。
 きっと手を引かれたこの先には、悲しい事も苦悩する事もない、安らかな世界が待っているのでしょう。
 ですが、私にはまだ、やるべき事が残っています。

「心配ありません、陛下」
「メシア・・・・?」

 気が付けば目の前に、私に忠誠を誓った騎士の姿。
 最後に彼女を見た時と、同じ姿。違うのは、その表情。
 出会った時の寡黙さがなく、微笑みを私に向けている。

「陛下は十分に責務を果たしました。その責務の重みから、ようやく解放される時が来たのです」
「ですが私は、彼を残していくわけにはいきません・・・・・・。私は彼のために、生き続けなければならないのです」

 きっと彼は、私がいなければ壊れてしまう。
 だから私は、たとえどんなに苦しくとも、生き続けなければならない。メシア、それは貴女もわかっているはずです。

「リックは弱い男です。確かに、私たちが傍にいなくては、容易く壊れてしまう」
「そうです。だからこそ私たちは――――」
「何も心配はありません。リックの傍には、あの者たちが付いています」
「!!」

 そうでしたね。私と初めて出会った時とは違う。
 私が傍を離れれば、きっと彼は絶望してしまう。私を存在意義として生きている彼は、生きる意味を失う事になる。私と彼が、出会ったばかりの頃はそうでした。
 でも今は違う。彼の傍には、彼を想い、彼を支える者たちがいる。
 たとえ私がいなくなろうとも、きっと・・・・・・。

「陛下」
「ユリーシア」

 私を呼ぶ声。二人は微笑んでいる。
 もう自由になってもよいのですか。この呪縛から、解放される時が訪れたのですか。
 私は、後を託してもよいのですか・・・・・。
 
「君は責任を果たした。後の事は、俺たちに任せてくれればいい」

 ああ、そう言う事なのですね。
未来を見通す私の魔法。だから私に、あの未来を見せたのですね。

「・・・・・・・・」

 女王になる事を選んだあの日から、どんな事に対しても、涙を流すのをやめた。そうしなければならない立場でした。女王として、涙を見せてはならない。常に気高くなければなりませんでした。
 ですが、もういいのですね。頬を伝う雫。今まで抑えてきた感情が溢れて、涙がとまらない。
 私の人生。後悔もあれば、思い残す事もありました。
 それでも私は、精一杯生きました。辛く苦しい人生でしたが、不幸などではなかった。
 そう思えるのは、貴方のおかげです。リック様・・・・・・。

「リック様。いえ、宗一郎様」
「はい」

 私は貴方を利用しました。許されるべき事でありません。
 そして貴方もまた、私を生きる目的とした。私たちは同じでした。
 貴方の生きる意味になれて、本当に良かった。他者に迷惑をかけるだけの私が、誰かの助けになれた事。生きていて良かったと、心からそう思えます。

「ありがとう・・・・・・」

 宗一郎様。私の救世主。
 どうか貴方の未来に、光があらん事を・・・・・・。
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