180 / 841
第九話 悪魔の兵器
4
しおりを挟む
気を失う前の事は、何とか思い出せた。
殴られた後頭部が痛み、体中の至るところが、痛みに悲鳴を上げている。エギルに斬られた傷や、擦り傷と切り傷も多い。傷は治療されていない、そのままの状態だ。
あの時、戦場で一人の兵士が、私を生け捕りにしろと叫んでいた。何の目的があったのかはわからない。恐らく、帝国軍の情報を得るためか、カラミティルナ隊の一人を殺した者を、普通に殺すだけでは駄目だと考えての事だろう。
だから私は、こんな場所で、縄で縛られている。気を失った私は、ジエーデル軍の捕虜となってしまったらしい。
縄は丈夫で、しっかりと結ばれている。逃げ出す事は出来そうにない。
「お目覚めかな?」
私が捕らわれている、敵軍のこの天幕の中に、数人の男たちが入って来た。
「この女兵士か。魔法もなしで、カラミティルナの一人を殺したというのは」
「はい将軍。兵たちの話によれば、相当な実力者のようです。捕まえるのも苦労したと聞きました」
「ふむ、帝国軍は猛者が多いな。魔法に頼ったカラミティルナ隊よりも、実力がありそうだ」
将軍。このジエーデル軍の指揮を執っているのは、将軍である名将ドレビン。
今、私の眼前にいるのは、敵軍の最高指揮官であるというのか。ここでこの男を討ち取れば、連合軍の勝利であるというのに、身動きができない以上、私には何もできない。
精々できる事は、帝国の情報を漏らさないよう、口を閉じている事だけだ。
「教えて貰おうか。帝国軍が使用した例の武器、あれは何だ?」
「・・・・・」
「死体を調べ、話も聞いた。大方、大砲を小型化した兵器なのだろう。ならば、弾にも限りがあるのだろう?」
名将と呼ばれるだけはある。帝国軍が使用している武器の正体を、もう突き止めているようだ。
驚きはしたが、表情に出すわけにはいかない。私が反応すれば、帝国の軍備の秘密が露見してしまう。その可能性がある以上、何を聞かれても反応してはいけない。
「やはり何も話さないか。仕方ない、後は任せる」
「お任せ下さい将軍。明日の朝までには、全て吐かせてご覧に入れます」
名将ドレビンだけが天幕を後にした。
残った者たちは、天幕の中で何やら動きまわり、様々な道具を用意している。鉄製の工具の様なものに、薬品の数々。すぐにわかった。この男たちは、私を拷問する気なのだと・・・・・・。
「おっ、こいつ怯えてやがる」
「・・・・・・!!」
自分でも気付かなかった。言われて初めて、表情が強張っているのがわかる。
拷問されるとわかり、あの時の記憶が蘇った。誰の助けも来ず、男たちに凌辱され、何もかもを汚された、あの時の忌まわしい記憶。
あの時と同じ事が、私を襲おうとしている。誰の助けも来ない。将軍が居るという事は、ここは敵軍陣地の中心だ。敵軍の本陣に、一兵士を助けようとやって来る者など、いるはずはない。
「拷問された経験があるのかもな。さっきまでだんまりだった癖に、急に反応したぞ」
「こりゃあ楽そうだ。すぐに洗いざらい吐いちまうんじゃないのか?」
「それじゃあ面白くない。せっかく器具を用意したんだから、楽しませて貰わないとな」
男たちは六人。全員拷問担当なのだろう。慣れた手つきで用意しているし、間違いない。
記憶が蘇り、恐怖が私を支配していく。体の震えが止まらず、息が苦しい。またあの時のように、弄られ汚され、絶望の中へと落とされるのか。
それでも、部下たちのためにとった行動を、後悔はしていない。私が犠牲になる事で、彼らの命を守る事ができた。
あの時とは違う。何もかも守れず、希望すら見えなかった、あの時とは・・・・・・。
部下たちは私を嫌っていた。私がいなくなった事で、今頃は喜んでいるだろう。後は、隙を見てこの者たちから刃物を奪い、自ら命を絶てば、情報を引き出されずに済む。
「よーし、手始めに服を脱がすぞ」
「俺に任せろ」
「服は破くなよ。帝国軍の軍服なら、工作員が潜入するのに使えるかもしれん」
「わかってるって。おい女、大人しく----」
「!?」
恐い。男が私の服を脱がしていく。
戦場では問題ないのだ。でも今は、男に触れられる事が、たまらなく恐ろしい。あの時以来、私は男が恐い。抵抗したいのに、縄で縛られていて身動きができない。
「相当恐がってるぞ。もしかして、男が苦手なんじゃないのか?」
「前に拷問された恐怖が忘れられないとかだろ。よくいるんだよな、そう言う奴」
男たちに取り囲まれ、容赦なく服を脱がされていく。
男たちは笑みを浮かべていた。悪巧みを考える、下衆な笑みだ。あの時の野盗の男たちと同じ、忘れたくとも忘れられない笑み。
(参謀長・・・私はもう・・・・・・)
絶望しかない。もう、私には死ぬ以外、この地獄から助かる道はない。
それでも、あの人の事を考えてしまう。あの時私を助け、帝国で再会したあの人を。一緒に街で過ごした、忘れたくない幸福な時間を。
願わくば、最後にもう一度・・・・・・。
「とりあえず、爪を二枚ぐらい剥がすか」
「最初は鞭だろ。外の奴らにも聞こえるように、大きな悲鳴上げさせようぜ」
男たちは拷問器具を握っている。彼らの浮かべる笑みが、恐ろしい。
これから再び、私にとっての地獄が始まろうとしている。
(嫌・・・・・っ!!誰か・・・・助けて・・・・・!)
殴られた後頭部が痛み、体中の至るところが、痛みに悲鳴を上げている。エギルに斬られた傷や、擦り傷と切り傷も多い。傷は治療されていない、そのままの状態だ。
あの時、戦場で一人の兵士が、私を生け捕りにしろと叫んでいた。何の目的があったのかはわからない。恐らく、帝国軍の情報を得るためか、カラミティルナ隊の一人を殺した者を、普通に殺すだけでは駄目だと考えての事だろう。
だから私は、こんな場所で、縄で縛られている。気を失った私は、ジエーデル軍の捕虜となってしまったらしい。
縄は丈夫で、しっかりと結ばれている。逃げ出す事は出来そうにない。
「お目覚めかな?」
私が捕らわれている、敵軍のこの天幕の中に、数人の男たちが入って来た。
「この女兵士か。魔法もなしで、カラミティルナの一人を殺したというのは」
「はい将軍。兵たちの話によれば、相当な実力者のようです。捕まえるのも苦労したと聞きました」
「ふむ、帝国軍は猛者が多いな。魔法に頼ったカラミティルナ隊よりも、実力がありそうだ」
将軍。このジエーデル軍の指揮を執っているのは、将軍である名将ドレビン。
今、私の眼前にいるのは、敵軍の最高指揮官であるというのか。ここでこの男を討ち取れば、連合軍の勝利であるというのに、身動きができない以上、私には何もできない。
精々できる事は、帝国の情報を漏らさないよう、口を閉じている事だけだ。
「教えて貰おうか。帝国軍が使用した例の武器、あれは何だ?」
「・・・・・」
「死体を調べ、話も聞いた。大方、大砲を小型化した兵器なのだろう。ならば、弾にも限りがあるのだろう?」
名将と呼ばれるだけはある。帝国軍が使用している武器の正体を、もう突き止めているようだ。
驚きはしたが、表情に出すわけにはいかない。私が反応すれば、帝国の軍備の秘密が露見してしまう。その可能性がある以上、何を聞かれても反応してはいけない。
「やはり何も話さないか。仕方ない、後は任せる」
「お任せ下さい将軍。明日の朝までには、全て吐かせてご覧に入れます」
名将ドレビンだけが天幕を後にした。
残った者たちは、天幕の中で何やら動きまわり、様々な道具を用意している。鉄製の工具の様なものに、薬品の数々。すぐにわかった。この男たちは、私を拷問する気なのだと・・・・・・。
「おっ、こいつ怯えてやがる」
「・・・・・・!!」
自分でも気付かなかった。言われて初めて、表情が強張っているのがわかる。
拷問されるとわかり、あの時の記憶が蘇った。誰の助けも来ず、男たちに凌辱され、何もかもを汚された、あの時の忌まわしい記憶。
あの時と同じ事が、私を襲おうとしている。誰の助けも来ない。将軍が居るという事は、ここは敵軍陣地の中心だ。敵軍の本陣に、一兵士を助けようとやって来る者など、いるはずはない。
「拷問された経験があるのかもな。さっきまでだんまりだった癖に、急に反応したぞ」
「こりゃあ楽そうだ。すぐに洗いざらい吐いちまうんじゃないのか?」
「それじゃあ面白くない。せっかく器具を用意したんだから、楽しませて貰わないとな」
男たちは六人。全員拷問担当なのだろう。慣れた手つきで用意しているし、間違いない。
記憶が蘇り、恐怖が私を支配していく。体の震えが止まらず、息が苦しい。またあの時のように、弄られ汚され、絶望の中へと落とされるのか。
それでも、部下たちのためにとった行動を、後悔はしていない。私が犠牲になる事で、彼らの命を守る事ができた。
あの時とは違う。何もかも守れず、希望すら見えなかった、あの時とは・・・・・・。
部下たちは私を嫌っていた。私がいなくなった事で、今頃は喜んでいるだろう。後は、隙を見てこの者たちから刃物を奪い、自ら命を絶てば、情報を引き出されずに済む。
「よーし、手始めに服を脱がすぞ」
「俺に任せろ」
「服は破くなよ。帝国軍の軍服なら、工作員が潜入するのに使えるかもしれん」
「わかってるって。おい女、大人しく----」
「!?」
恐い。男が私の服を脱がしていく。
戦場では問題ないのだ。でも今は、男に触れられる事が、たまらなく恐ろしい。あの時以来、私は男が恐い。抵抗したいのに、縄で縛られていて身動きができない。
「相当恐がってるぞ。もしかして、男が苦手なんじゃないのか?」
「前に拷問された恐怖が忘れられないとかだろ。よくいるんだよな、そう言う奴」
男たちに取り囲まれ、容赦なく服を脱がされていく。
男たちは笑みを浮かべていた。悪巧みを考える、下衆な笑みだ。あの時の野盗の男たちと同じ、忘れたくとも忘れられない笑み。
(参謀長・・・私はもう・・・・・・)
絶望しかない。もう、私には死ぬ以外、この地獄から助かる道はない。
それでも、あの人の事を考えてしまう。あの時私を助け、帝国で再会したあの人を。一緒に街で過ごした、忘れたくない幸福な時間を。
願わくば、最後にもう一度・・・・・・。
「とりあえず、爪を二枚ぐらい剥がすか」
「最初は鞭だろ。外の奴らにも聞こえるように、大きな悲鳴上げさせようぜ」
男たちは拷問器具を握っている。彼らの浮かべる笑みが、恐ろしい。
これから再び、私にとっての地獄が始まろうとしている。
(嫌・・・・・っ!!誰か・・・・助けて・・・・・!)
0
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
魔物をお手入れしたら懐かれました -もふプニ大好き異世界スローライフ-
うっちー(羽智 遊紀)
ファンタジー
3巻で完結となっております!
息子から「お父さん。散髪する主人公を書いて」との提案(無茶ぶり)から始まった本作品が書籍化されて嬉しい限りです!
あらすじ:
宝生和也(ほうしょうかずや)はペットショップに居た犬を助けて死んでしまう。そして、創造神であるエイネに特殊能力を与えられ、異世界へと旅立った。
彼に与えられたのは生き物に合わせて性能を変える「万能グルーミング」だった。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
最強の聖女は恋を知らない
三ツ矢
ファンタジー
救世主として異世界に召喚されたので、チートに頼らずコツコツとステ上げをしてきたマヤ。しかし、国を救うためには運命の相手候補との愛を育まなければならないとか聞いてません!運命の相手候補たちは四人の美少年。腹黒王子に冷徹眼鏡、卑屈な獣人と狡猾な後輩。性格も好感度も最低状態。残された期限は一年!?四人のイケメンたちに愛されながらも、マヤは国を、世界を、大切な人を守るため異世界を奔走する。
この物語は、いずれ最強の聖女となる倉木真弥が本当の恋に落ちるまでの物語である。
小説家になろうにの作品を改稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる