171 / 841
第八話 ヴァスティナ連合軍
11
しおりを挟む
リックたちが帝国を出る日。参謀長執務室で、リックとメイファは、二人きりで話をした。
「メイファ、お前は留守番だ」
「嫌です、私も行きます」
帝国軍参謀長専属メイドのメイファ。これから戦地へと向かうリックは、彼女の身を案じて、留守番しているよう命令した。戦場では危険が多いため、女王を守る事で手一杯な彼は、メイファの身まで守り切れる自信がない。
よって、留守番していろと何度も命令しているのだが、彼女は頑として命令を聞かず、結局出撃の当日も、こうして話をしているのだ。
「私が行かなければ、誰がご主人様に紅茶を淹れるのですか?」
「紅茶は我慢できる」
「誰が毎朝ご主人様を起こすのですか?」
「・・・・・・自分で起きれる」
「誰がご主人様の変態行為を阻止できるのですか?」
「うっ・・・・・・」
専属メイドである彼女は、主人であるリックに付いて行く気満々で、身支度を整えて、必要なものを収めた鞄まで用意している。いつもの彼女らしくない。何かに突き動かされているような、らしくない彼女の態度。
「そんなに一緒に行きたいのか?戦場だぞ」
「はい。だって私は、ご主人様の専属メイドなのですから」
決意を帯びた少女の瞳。
少女が戦場へと付いて来たがる、理由は何か。
「陛下が戦場に出るからか?」
「!!」
「お前が陛下を避けてるって話は聞いてる。でも何でだ?陛下を避けてるお前が、どうして陛下と共に行こうとする」
メシア直伝、人間観察読心術。まだまだ修行中であり、彼女の様に、完璧な読唇術を行なえるわけではないが、少女の胸の内にあるものを見抜いて見せた。
イヴからの話で、メイファの気になる点を聞いていたリック。彼女が女王と宰相に出会わないよう、常に避けているという話を覚えていた。そこから考え、女王陛下の存在が関係あるのではないのかと、何となく思っただけである。
出会わないようにしている相手に、自ら近付く真似をするというのは、全くもって矛盾している話だ。彼女の目的とは何か。少なくとも帝国にとって、害のあるものではないだろうとは思う。
「陛下の身を心配しているのか?」
「・・・・・・・」
「答えたくないならそれでいい。安心しろ、陛下の護衛にはメシア団長がいる。メイド長だっているんだぞ、陛下の身なら心配いらないさ」
「ご主人様、その言葉はそのままお返します」
「うっ・・・・・・」
「陛下の身を異常に心配なさっているのはご主人様です。メシア団長のおかげで随分とマシになったようですけど、いい加減ウザいのでやめて下さい」
専属メイドの厳しい言葉に、全く返す言葉がない。
相も変わらず、いつも通り主人とメイドの立場が逆で、自身のメイドに言われるがままである。それでもリックは、彼女が戦場に行こうとするのを、良しとしない。
「ともかくだ!絶対連れて行かないからな。わかってくれよ、俺はお前を失いたくないんだ」
「私はただのメイドです。別にメイドが一人戦場で死んでも、ご主人様の率いる軍隊に何ら影響は-----」
「待った、それ以上言ったら怒るぞ」
怒るぞと言いながら、もう怒っている。
初めてだった。初めてリックはメイファに怒りを見せた。これには彼女も驚き、言葉が出ない。
リックが怒りを見せた理由は、彼女が自分の命を粗末に扱おうとしているからだ。そして、自分の命を、価値のないものと言ったのもまた、彼の怒りの理由だった。
「ただのメイドであろうと、死んだら悲しいんだよ。だから頼む、留守番していてくれ」
少女に頭を下げて、従軍しないよう願う。
頑として聞き入れなかった彼女も、主人の怒りと必死の願いを受け、ようやく諦めたようだ。
「・・・・・・わかりました。ご主人様の命令に従います」
「ふう、やっと諦めてくれたか」
「その代わり、一つだけ願いを聞いてくれませんか?」
従軍を諦めた彼女は、真剣な眼差しのままリックを見つめる。
不安を抱える少女は、彼に願いを託す。この男ならば、必ず守り通してくれると。そして、この男自身も、必ず無事で帰ってくると信じて。
「どうか死なないで下さい。私は、ご主人様の無事の帰還を待っていますから」
「わかった。必ずここに戻って来るよ」
「メイファ、お前は留守番だ」
「嫌です、私も行きます」
帝国軍参謀長専属メイドのメイファ。これから戦地へと向かうリックは、彼女の身を案じて、留守番しているよう命令した。戦場では危険が多いため、女王を守る事で手一杯な彼は、メイファの身まで守り切れる自信がない。
よって、留守番していろと何度も命令しているのだが、彼女は頑として命令を聞かず、結局出撃の当日も、こうして話をしているのだ。
「私が行かなければ、誰がご主人様に紅茶を淹れるのですか?」
「紅茶は我慢できる」
「誰が毎朝ご主人様を起こすのですか?」
「・・・・・・自分で起きれる」
「誰がご主人様の変態行為を阻止できるのですか?」
「うっ・・・・・・」
専属メイドである彼女は、主人であるリックに付いて行く気満々で、身支度を整えて、必要なものを収めた鞄まで用意している。いつもの彼女らしくない。何かに突き動かされているような、らしくない彼女の態度。
「そんなに一緒に行きたいのか?戦場だぞ」
「はい。だって私は、ご主人様の専属メイドなのですから」
決意を帯びた少女の瞳。
少女が戦場へと付いて来たがる、理由は何か。
「陛下が戦場に出るからか?」
「!!」
「お前が陛下を避けてるって話は聞いてる。でも何でだ?陛下を避けてるお前が、どうして陛下と共に行こうとする」
メシア直伝、人間観察読心術。まだまだ修行中であり、彼女の様に、完璧な読唇術を行なえるわけではないが、少女の胸の内にあるものを見抜いて見せた。
イヴからの話で、メイファの気になる点を聞いていたリック。彼女が女王と宰相に出会わないよう、常に避けているという話を覚えていた。そこから考え、女王陛下の存在が関係あるのではないのかと、何となく思っただけである。
出会わないようにしている相手に、自ら近付く真似をするというのは、全くもって矛盾している話だ。彼女の目的とは何か。少なくとも帝国にとって、害のあるものではないだろうとは思う。
「陛下の身を心配しているのか?」
「・・・・・・・」
「答えたくないならそれでいい。安心しろ、陛下の護衛にはメシア団長がいる。メイド長だっているんだぞ、陛下の身なら心配いらないさ」
「ご主人様、その言葉はそのままお返します」
「うっ・・・・・・」
「陛下の身を異常に心配なさっているのはご主人様です。メシア団長のおかげで随分とマシになったようですけど、いい加減ウザいのでやめて下さい」
専属メイドの厳しい言葉に、全く返す言葉がない。
相も変わらず、いつも通り主人とメイドの立場が逆で、自身のメイドに言われるがままである。それでもリックは、彼女が戦場に行こうとするのを、良しとしない。
「ともかくだ!絶対連れて行かないからな。わかってくれよ、俺はお前を失いたくないんだ」
「私はただのメイドです。別にメイドが一人戦場で死んでも、ご主人様の率いる軍隊に何ら影響は-----」
「待った、それ以上言ったら怒るぞ」
怒るぞと言いながら、もう怒っている。
初めてだった。初めてリックはメイファに怒りを見せた。これには彼女も驚き、言葉が出ない。
リックが怒りを見せた理由は、彼女が自分の命を粗末に扱おうとしているからだ。そして、自分の命を、価値のないものと言ったのもまた、彼の怒りの理由だった。
「ただのメイドであろうと、死んだら悲しいんだよ。だから頼む、留守番していてくれ」
少女に頭を下げて、従軍しないよう願う。
頑として聞き入れなかった彼女も、主人の怒りと必死の願いを受け、ようやく諦めたようだ。
「・・・・・・わかりました。ご主人様の命令に従います」
「ふう、やっと諦めてくれたか」
「その代わり、一つだけ願いを聞いてくれませんか?」
従軍を諦めた彼女は、真剣な眼差しのままリックを見つめる。
不安を抱える少女は、彼に願いを託す。この男ならば、必ず守り通してくれると。そして、この男自身も、必ず無事で帰ってくると信じて。
「どうか死なないで下さい。私は、ご主人様の無事の帰還を待っていますから」
「わかった。必ずここに戻って来るよ」
0
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
ただしい異世界の歩き方!
空見 大
ファンタジー
人生の内長い時間を病床の上で過ごした男、田中翔が心から望んでいたのは自由な世界。
未踏の秘境、未だ食べたことのない食べ物、感じたことのない感覚に見たことのない景色。
未だ知らないと書いて未知の世界を全身で感じることこそが翔の夢だった。
だがその願いも虚しくついにその命の終わりを迎えた翔は、神から新たな世界へと旅立つ権利を与えられる。
翔が向かった先の世界は全てが起こりうる可能性の世界。
そこには多種多様な生物や環境が存在しており、地球ではもはや全て踏破されてしまった未知が溢れかえっていた。
何者にも縛られない自由な世界を前にして、翔は夢に見た世界を生きていくのだった。
一章終了まで毎日20時台更新予定
読み方はただしい異世界(せかい)の歩き方です
魔物をお手入れしたら懐かれました -もふプニ大好き異世界スローライフ-
うっちー(羽智 遊紀)
ファンタジー
3巻で完結となっております!
息子から「お父さん。散髪する主人公を書いて」との提案(無茶ぶり)から始まった本作品が書籍化されて嬉しい限りです!
あらすじ:
宝生和也(ほうしょうかずや)はペットショップに居た犬を助けて死んでしまう。そして、創造神であるエイネに特殊能力を与えられ、異世界へと旅立った。
彼に与えられたのは生き物に合わせて性能を変える「万能グルーミング」だった。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる