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第三十九話 戦場の支配者たち
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「エミリオ!おーい、エミリオ!」
「おや、リック?もう前線から戻って来たのかい?」
車輌に乗せられて連行されたリックは、後方で帝国国防軍本隊と合流し、本隊を指揮していた人物を見つけ、手を振って声をかけた。
名前を呼ばれた人物は、長髪と眼鏡をかけた姿が特徴的な、整った顔立ちの美形である。彼の名は、エミリオ・メンフィス。帝国国防軍参謀本部の参謀総長である。
「戻って来たって言うか、強制的に戻らされた」
「ふふっ、彼女に見つかって戻されたわけだね」
「あいつほんと恐いんだよ。どこ行っても付いてくるし」
「君が本隊から姿を消した後、彼女は君を血眼になって探していたよ。みんな彼女を恐がって、君が何処に行ったかすぐに吐かされていたよ」
二人の会話に出てくる彼女とは、勿論ヴィヴィアンヌの事である。リックを護衛する親衛隊隊長である彼女は、常に彼を警護し、特に戦場ではほとんど彼の傍を離れない。少しでもリックが姿を消そうものなら、親衛隊総出で捜索を行なうくらい、彼を守ろうとする意志が強いのだ。
鉄の意志を持ち、リックに絶対の忠誠を誓い、彼に命を捧げた最強の兵士。それが「番犬」の異名持つ、ヴィヴィアンヌという少女の今の生き方だ。
「俺を守ってくれるのは嬉しいんだけど、もう少し肩の力抜いて欲しいんだよな。なんて言うか、もっと自分の時間を大切にして欲しい」
「それは無理だね。だって彼女、自分の時間は全て君の傍にいる時間なんだから」
「ヴィヴィアンヌは今まで幸せに生きられなかった。だからあいつには、もっと人生を楽しく自由に生きて欲しい。女の子なんだしさ、休日はレイナとかと街に遊びに行ったりすればいいんだ」
自分の身の安全よりも、護衛役のヴィヴィアンヌの心配をするリック。悩む彼の顔を見て、エミリオは少し吹き出して笑った。
「なっ、なんだよ。俺おかしいこと言ったか?」
「いや、すまない。なんだか君が彼女の父親みたいに見えてしまってね」
「俺はあんな娘をもった覚えはないぞ。まあ、もしも娘を持つならあれくらい美少女だと嬉しいな。絶対嫁には出さないけど」
「自分を殺しかけた相手でも、そうやって大切に思えるところが君の良いところさ。君の優しいところ、私は好きだよ」
「おいこら!反応に困る発言をするな!」
揶揄われたと思ったリックは怒り、エミリオは赤面する彼を見てまた笑う。二人の様子は、仲の良い友達同士の様であった。立場の差はあれど、二人は仲間という深い絆で結ばれている。互いに心を許せる仲間であり、絆があるからこそ、こうして冗談を言い合えるのだ。
「見つけましたわ!!ここにいましたのね!」
そんな二人のもとに、声を荒げて現れた女性が一人。二人が振り返ると、そこには彼らがよく知っている人物の姿があった。
彼女が何か怒っている様子であったため、一体何事かとリックが尋ねようとする。
「どうしたミュセイラ?そんなに怒ると白髪増えるぞ」
「誰のせいで怒ってると思ってるんですの!?後の部隊の指揮を全部私に押し付けて、レイナさん達と勝手に前線に向かいましたわよね!?」
「ああ、その事か」
「反応が軽すぎですわ!!すまないとかごめんとか、そういう謝罪の言葉はないんですの!?」
「なんで謝る必要がある?お仕事大好き人間のお前に仕事をやったんだから、寧ろ感謝して欲しいくらいだ」
「貴方って人はどうしてそう屑で下衆なんですの!?私をなんだと思っているんですのよ!」
「うーん⋯⋯⋯、歩く騒音参謀?」
「張っ倒しますわよ!!」
容赦ないリックの発言の数々に、独特のお嬢様言葉を使いながら怒鳴る彼女の名は、ミュセイラ・ヴァルトハイム。帝国国防軍参謀本部所属の参謀であり、エミリオが最も信頼する参謀である。
リックとミュセイラの喧嘩は帝国軍の名物であり、どんな戦場でも似たような事が起こる。いつも通りな二人の様子に呆れながらも、エミリオは二人の喧嘩に割って入り、ミュセイラの方へと顔を向けて口を開く。
「いつもの喧嘩はそこまで。ところでミュセイラ、砲撃部隊の準備はどこまで進んでいるんだい?」
「部隊の配置はほぼ完了しましたので、もう間もなく準備が終わりますわ」
「わかった。部隊の砲撃目標は――――――――」
「目標は、第一戦闘団と戦闘中の敵主力。既に命令済みですわ」
「流石だ。君の的確な指揮のお陰で、私は大分楽が出来ているよ」
歩く騒音参謀などとリックに馬鹿にされているが、エミリオの作戦の意図を読んで、既に命令を飛ばしているミュセイラは、間違いなく優秀な参謀である。ヴァスティナ帝国はエミリオとミュセイラのお陰で、これまでどんな困難な戦争も勝利してきた。今回も今までと同じように、軍師としての二人の力が存分に発揮されようとしている。
「私の作戦通り、流れは順調に同盟軍に傾いている。我々が左翼を助ければ、右翼側を助けようとあの二国も必ず動く」
「偵察隊からの報告によると、先に到着したのは例の戦闘旅団だそうです」
「やはりそうか。噂の皇女の力を拝見するいい機会だね」
今現在までの状況は、全てエミリオの予測通り動いている。グラーフ同盟軍の戦略も、ボーゼアス義勇軍の奇襲作戦も、集結していない二国の軍隊がどのような動きを見せるのかも、何もかも彼の予測通りであった。
強いて予想外の事があったとするならば、それは勝手に飛び出したリックの帰りが早かった事くらいだ。
「リック。今回も私は、君に勝利を約束しよう」
「頼もしいなエミリオ。お前のそういう頼れるところ、俺は好きだ」
「よしてくれ、私にそっちの気はないよ」
「そうですわよ参謀長⋯⋯⋯⋯、じゃなかった将軍。気持ち悪いですわ、変態」
「軽くあしらわられた、だと!?」
「さあリック、茶番は一旦終わりにしよう。ミュセイラも、あまり彼を罵倒しないでやってくれ」
先ほどの仕返しが効果なく、一人ショックを受けるリック。
簡単に流したが、実はエミリオは内心、頼れるところが好きだと言われた事は、純粋に嬉しかった。その心は口には出さず、彼は笑みを浮かべ、勝利を約束した自分の主へと宣言する。
「リック、帝国国防軍は必ず私が勝利させる。私が用意した最高の舞台、存分に楽しんでくれ」
これまで、圧倒的不利な戦争を勝利に導き続けた、奇跡の軍師。
帝国の新たな参謀長となったエミリオの、史上空前の舞台はまだ始まったばかりだ。
「おや、リック?もう前線から戻って来たのかい?」
車輌に乗せられて連行されたリックは、後方で帝国国防軍本隊と合流し、本隊を指揮していた人物を見つけ、手を振って声をかけた。
名前を呼ばれた人物は、長髪と眼鏡をかけた姿が特徴的な、整った顔立ちの美形である。彼の名は、エミリオ・メンフィス。帝国国防軍参謀本部の参謀総長である。
「戻って来たって言うか、強制的に戻らされた」
「ふふっ、彼女に見つかって戻されたわけだね」
「あいつほんと恐いんだよ。どこ行っても付いてくるし」
「君が本隊から姿を消した後、彼女は君を血眼になって探していたよ。みんな彼女を恐がって、君が何処に行ったかすぐに吐かされていたよ」
二人の会話に出てくる彼女とは、勿論ヴィヴィアンヌの事である。リックを護衛する親衛隊隊長である彼女は、常に彼を警護し、特に戦場ではほとんど彼の傍を離れない。少しでもリックが姿を消そうものなら、親衛隊総出で捜索を行なうくらい、彼を守ろうとする意志が強いのだ。
鉄の意志を持ち、リックに絶対の忠誠を誓い、彼に命を捧げた最強の兵士。それが「番犬」の異名持つ、ヴィヴィアンヌという少女の今の生き方だ。
「俺を守ってくれるのは嬉しいんだけど、もう少し肩の力抜いて欲しいんだよな。なんて言うか、もっと自分の時間を大切にして欲しい」
「それは無理だね。だって彼女、自分の時間は全て君の傍にいる時間なんだから」
「ヴィヴィアンヌは今まで幸せに生きられなかった。だからあいつには、もっと人生を楽しく自由に生きて欲しい。女の子なんだしさ、休日はレイナとかと街に遊びに行ったりすればいいんだ」
自分の身の安全よりも、護衛役のヴィヴィアンヌの心配をするリック。悩む彼の顔を見て、エミリオは少し吹き出して笑った。
「なっ、なんだよ。俺おかしいこと言ったか?」
「いや、すまない。なんだか君が彼女の父親みたいに見えてしまってね」
「俺はあんな娘をもった覚えはないぞ。まあ、もしも娘を持つならあれくらい美少女だと嬉しいな。絶対嫁には出さないけど」
「自分を殺しかけた相手でも、そうやって大切に思えるところが君の良いところさ。君の優しいところ、私は好きだよ」
「おいこら!反応に困る発言をするな!」
揶揄われたと思ったリックは怒り、エミリオは赤面する彼を見てまた笑う。二人の様子は、仲の良い友達同士の様であった。立場の差はあれど、二人は仲間という深い絆で結ばれている。互いに心を許せる仲間であり、絆があるからこそ、こうして冗談を言い合えるのだ。
「見つけましたわ!!ここにいましたのね!」
そんな二人のもとに、声を荒げて現れた女性が一人。二人が振り返ると、そこには彼らがよく知っている人物の姿があった。
彼女が何か怒っている様子であったため、一体何事かとリックが尋ねようとする。
「どうしたミュセイラ?そんなに怒ると白髪増えるぞ」
「誰のせいで怒ってると思ってるんですの!?後の部隊の指揮を全部私に押し付けて、レイナさん達と勝手に前線に向かいましたわよね!?」
「ああ、その事か」
「反応が軽すぎですわ!!すまないとかごめんとか、そういう謝罪の言葉はないんですの!?」
「なんで謝る必要がある?お仕事大好き人間のお前に仕事をやったんだから、寧ろ感謝して欲しいくらいだ」
「貴方って人はどうしてそう屑で下衆なんですの!?私をなんだと思っているんですのよ!」
「うーん⋯⋯⋯、歩く騒音参謀?」
「張っ倒しますわよ!!」
容赦ないリックの発言の数々に、独特のお嬢様言葉を使いながら怒鳴る彼女の名は、ミュセイラ・ヴァルトハイム。帝国国防軍参謀本部所属の参謀であり、エミリオが最も信頼する参謀である。
リックとミュセイラの喧嘩は帝国軍の名物であり、どんな戦場でも似たような事が起こる。いつも通りな二人の様子に呆れながらも、エミリオは二人の喧嘩に割って入り、ミュセイラの方へと顔を向けて口を開く。
「いつもの喧嘩はそこまで。ところでミュセイラ、砲撃部隊の準備はどこまで進んでいるんだい?」
「部隊の配置はほぼ完了しましたので、もう間もなく準備が終わりますわ」
「わかった。部隊の砲撃目標は――――――――」
「目標は、第一戦闘団と戦闘中の敵主力。既に命令済みですわ」
「流石だ。君の的確な指揮のお陰で、私は大分楽が出来ているよ」
歩く騒音参謀などとリックに馬鹿にされているが、エミリオの作戦の意図を読んで、既に命令を飛ばしているミュセイラは、間違いなく優秀な参謀である。ヴァスティナ帝国はエミリオとミュセイラのお陰で、これまでどんな困難な戦争も勝利してきた。今回も今までと同じように、軍師としての二人の力が存分に発揮されようとしている。
「私の作戦通り、流れは順調に同盟軍に傾いている。我々が左翼を助ければ、右翼側を助けようとあの二国も必ず動く」
「偵察隊からの報告によると、先に到着したのは例の戦闘旅団だそうです」
「やはりそうか。噂の皇女の力を拝見するいい機会だね」
今現在までの状況は、全てエミリオの予測通り動いている。グラーフ同盟軍の戦略も、ボーゼアス義勇軍の奇襲作戦も、集結していない二国の軍隊がどのような動きを見せるのかも、何もかも彼の予測通りであった。
強いて予想外の事があったとするならば、それは勝手に飛び出したリックの帰りが早かった事くらいだ。
「リック。今回も私は、君に勝利を約束しよう」
「頼もしいなエミリオ。お前のそういう頼れるところ、俺は好きだ」
「よしてくれ、私にそっちの気はないよ」
「そうですわよ参謀長⋯⋯⋯⋯、じゃなかった将軍。気持ち悪いですわ、変態」
「軽くあしらわられた、だと!?」
「さあリック、茶番は一旦終わりにしよう。ミュセイラも、あまり彼を罵倒しないでやってくれ」
先ほどの仕返しが効果なく、一人ショックを受けるリック。
簡単に流したが、実はエミリオは内心、頼れるところが好きだと言われた事は、純粋に嬉しかった。その心は口には出さず、彼は笑みを浮かべ、勝利を約束した自分の主へと宣言する。
「リック、帝国国防軍は必ず私が勝利させる。私が用意した最高の舞台、存分に楽しんでくれ」
これまで、圧倒的不利な戦争を勝利に導き続けた、奇跡の軍師。
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