贖罪の救世主

水野アヤト

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第五話 愛に祝福を  前編

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 一方その頃、リックたちのいないヴァスティナ帝国では、荷物をまとめ、荷車に乗った二人が帝国を出発しようとしていた。

「では、リックの事を頼むよ」
「言われるまでもない」

 軍師エミリオは槍士レイナに、とある物資を託した。その物資が、リックの助けになると考えた、彼の独断である。
 荷車にはシャランドラも乗っている。物資と二人を乗せたこの荷車は、シャランドラ試作の、ある発明が搭載されており、彼女は調整や制御も含めて、同行するのだ。

「準備完了や!いつでも出れるで」
「・・・・・・本当に大丈夫なんだろうな」
「まかしてくれやレイナっち!この試作魔法動力機関があれば、チャルコなんて速攻着けるで!」

 荷車には、まだ試作段階の魔法動力機関が搭載されている。この動力機関が荷車の車輪を回し、馬などの牽引なしで、前に進めると言うわけだ。
 レイナには、この動力機関の仕組みなどは全くわからない。しかし、シャランドラの事はよく知っている。
 彼女のとんでも発明品が、如何に信用できないのかも・・・・・・。

(不安だ・・・・・・。私は無事に辿り着けるのだろうか)

 自分の主人のもとへと、すぐにでも馳せ参じたいレイナ。だが、彼女の発明品に頼って、無事に辿り着けるのかが、不安で仕方ないのである。

「よかったよ、まだ出発していなかったんだね」
「リリカ様!?一体どうしたと言うのですか」

 レイナが不安を感じていると、二人の乗る荷車を目指し、小走りに一人の女性が向かって来た。自称かつ事実の、美人で自由な旅人リリカである。荷車に辿り着き、何の断りもなく、その中へと彼女は乗り込んだ。

「どうしたんですかリリカさん?まるで、何かから逃げている様に見えますが」
「察しがいいねエミリオ。あれが宰相にばれてしまったのさ」
「まさか、全部ですか?」
「宰相がゴリオンに詰め寄って、全部吐かせたようだ。やはりホルスタインヘルガーでは駄目だったね」
「わかりきってた事やんか!あれでばれん方がおかしいで!」

 どうやら、盗み出したシュタインヘルガーの事が、被害者である宰相に知られてしまったようだ。
 宰相の怒りから逃げようと、帝国を発つ二人に、彼女は同行しようとしている。

「それと、私の護衛としてあの子も連れて行く」
「あの子?」

 リリカともう一人、レイナよりも少し歳が上であろう女性が、荷車まで走ってくる。帝国軍の制服に身を包み、腰には一本の剣を差していた。

「逃げる途中で出会ってね。可愛かったから連れてきてしまったよ」
「可愛かったからって・・・・・、そんな理由で」

 騎士団長のメシアとは違う、日々の鍛錬によって日に焼けた肌。身長も女性にしては高く、服の上からでも、鍛えられているこ事がわかる、体格の良さ。

(この女性・・・・どこかで・・・・)

 レイナはこの女性を知っている。だが思い出せない。
 どこかで見た事があるのは、間違いないのだが・・・・・・。

「ほら皆、早く出発しよう。ぐずぐずしていると、怒りに燃えた宰相が来てしまう」
「了解や姉御!ほな、魔法動力機関起動!!」

 凄まじい騒音だった。シャランドラが荷車に取り付けられているレバーを引くと、空気が激しく震動し、聞いた事のない、爆音の様な激しい音が鳴り響く。
 ぎゃりぎゃりと激しい機械音が聞こえ、荷車自体も小刻みに震動している。
 この動力機関を搭載し、荷物も積まなければならない関係上、この荷車は、通常よりも大型に設計されたものだ。元々は、魔法動力機関の試運転用に作られ、数日後には試験運用をするはずであった。
 しかし、エミリオがリックへの支援物資を送ると提案したため、それを聞いたシャランドラは、動力機関のテストには最適だと考え、この荷車を用意した。
 こうして今回、試験運用も兼ねての、物資輸送の旅が計画された。そしてこの瞬間、シャランドラが技術の粋を結集して設計した魔法動力機関は、今まさに起動したのである。

「よっしゃあああああ!!こいつは絶対いけるで!」
「・・・・・不安だ」

 リリカが護衛として連れてきた女性も、急いで荷車へと乗り込む。寡黙な女性らしく、特に言葉を発しない。
 全員が荷車に乗り込むと、エミリオが歩み寄ってきた。

「皆さん、彼の事をよろしくお願いします」
「ふふ、任されたよ。では行こうか諸君、出発だよ!」
「ほいきた、機関最大!全速前進や!!」

 荷車は、凄まじい騒音を上げて動き出した。
 目指すはチャルコ国。シャランドラ恐怖の発明品に乗る旅が、レイナの不安もお構いなしに、始まってしまった
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