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第四話 リクトビア・フローレンス
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あれから一週間が経過した。
今日はヴァスティナ城謁見の間にて、帝国内の主要な人間たちが集められている。
女王であるユリーシアをはじめ、騎士団長メシアに宰相マストール、参謀長であるリックとその配下の者たちも加え、リリカの姿もある。多くの者がこの場に招集され、これから始まる儀式を、固唾を呑んで見守っていた。
リックは例の事件での怪我が、まだ完治していないため、何でも作れてしまうシャランドラ試作の、木製車椅子に座っている。そして、車椅子を押しているのは、彼を傷つけた張本人である、イヴであった。
あれからイヴは、一時的に拘束されはしたが、目覚めたリックによって、直ぐに解放された。イヴはその罪を、参謀長命令で全て許され、今は、怪我で日常生活に不便があるリックの、世話役となっている。車椅子を押しているのも、そのためだ。
片足と両腕に包帯が巻かれている、重傷であったリックが、この場の主役である。この場で行なわれようとしているのは、正式に女王の宣言のもと、リックを帝国軍参謀長に任命する儀式であるのだ。
今までは、様々な事情で正式な任命はされずにいた。正式に任命されずとも、参謀長として軍をまとめてはいたが、今回は、正式に任命を決意した女王により、この場が設けられたのである。
正式に任命されなかったのは、多くの反対意見があったためである。女王を嫌う貴族たちや、文官などの者たちが、リックを参謀長と認めるのに反対していたため、正式に任命することができずにいた。
しかし、決心した女王ユリーシアは任命を断行。騎士団長メシアの助けもあり、この場を無理やり作り出したのである。
「貴方を正式にヴァスティナ帝国軍参謀長に任命致します。これからも帝国のため、力を貸して下さいますか?」
「はい。女王陛下と帝国のため、この身を捧げます」
謁見の間の椅子より離れ、車椅子に座るリックへと歩き出したユリーシア。メシアに手を引かれながら、目の見えない体で、ゆっくりと歩みを進める。そんな彼女の腕には、一冊の絵本が抱えられていた。
リックの目の前まで来たユリーシアは、その本を彼へと手渡す。受け取ったリックは、本の題名を読んだ。
「戦妃リクトビア。これが・・・・・」
「以前差し上げると言った絵本です。王妃の一生が、そこに記されています」
この場でこの本を渡したのには意味がある。絵本「戦妃リクトビア」に、彼女は願いを込めている。
「もう一つ、貴方に差し上げたいものがあります」
「参謀長任命にこの絵本。まだ何か頂けるのですか?」
「名前です。威厳ある素晴らしい名前を差し上げたいのです」
彼女は彼に、自分が最も相応しいと思う名前を付けようとしている。尊敬する彼女のように、強く気高い存在であって欲しいという、願いを込めて・・・・・・。
「これより貴方を、ヴァスティナ帝国軍参謀長リクトビア・フローレンスと名付けます」
これには宰相マストールをはじめとした文官たちが、これ以上ない程の衝撃を受けてしまった。救国の英雄とは言え、元々は流れ者のリックに、国の初代王妃の名前を付けるというのだ。尋常なことではない。
当然マストールたちは反対だった。
「陛下!?いくら何でも------」
「これは、女王である私の絶対の決定です。反対は許しません」
初めてであった。初めて彼女は、自らの権力で、自らの我儘を通したのだ。
これには、彼女を昔から知るマストールも、仕える文官たちも、何も言えなくなってしまった。余りにも彼女の発言が、予想だにしなかったものであったためだ。
「陛下、この名前は貴女の尊敬する人物の名前のはずです。そんな偉大な人物の名前を・・・・・・」
「良いのです。貴方はリクトビア王妃と同じなのですから」
「えっ?」
「貴方は慈愛に満ちています。イヴさんも、この場にいる貴方の仲間たちも大切にし、多くの信頼を集めていますね。それは戦士であったリクトビア王妃と同じなのです。常に強く気高く、愛する仲間たちと共にある。私は貴方に、王妃と同じであって欲しいのです」
この名前には、己の大切な存在であるリックに、憧れのリクトビアの様な存在でいて欲しいと願い、偉大な王妃リクトビアに、彼を守って欲しいという願いも込められている。彼の歩む道に、どんな苦境が待っていようとも、救いが必ずあるように。
何もできず、ただ彼に縋るしかできなかった自分が、彼のために、少しでも力を与えられるようにと。
「・・・・・陛下に頂いたこの名前、大切にします」
「私はこの場で宣言します。これよりフローレンス参謀長と私は、帝国の未来のために歩みます。この国にかつての力を取り戻させ、愛する我が国を守る力を手に入れる。先のオーデル王国のように、この国を侵略しようとする国に対して、私は彼と共に戦います!そして、女王である私の決定に異を唱えることは、それが誰であろうと許さないことを、ここに宣言します!」
小さく華奢な体で声を張り上げ、彼女はこの場の全ての者に宣言した。これこそが、彼女の決心である。
もう誰にも彼女は止められない。彼女は女王となり初めて、絶対の決定を下したのだ。
度肝を抜かれた全ての者たち。そしてリックは・・・・・・。
「必ず・・・、必ず陛下に応えてみせます。それが俺の務めですから」
この日、正式にヴァスティナ帝国軍参謀長が任命された。
任命された男の名は、リクトビア・フローレンス。帝国初代王妃と同じ名を持つ、女王ユリーシアに絶対の忠誠を誓う男。それがこの大陸へと迷い込んだ、今の彼の存在となった。
「ところでリック様」
「はい?」
「自分の性癖を皆の前で堂々と宣言するのは、参謀長としてどうかと私は思います」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい、仰る通りです」
今日はヴァスティナ城謁見の間にて、帝国内の主要な人間たちが集められている。
女王であるユリーシアをはじめ、騎士団長メシアに宰相マストール、参謀長であるリックとその配下の者たちも加え、リリカの姿もある。多くの者がこの場に招集され、これから始まる儀式を、固唾を呑んで見守っていた。
リックは例の事件での怪我が、まだ完治していないため、何でも作れてしまうシャランドラ試作の、木製車椅子に座っている。そして、車椅子を押しているのは、彼を傷つけた張本人である、イヴであった。
あれからイヴは、一時的に拘束されはしたが、目覚めたリックによって、直ぐに解放された。イヴはその罪を、参謀長命令で全て許され、今は、怪我で日常生活に不便があるリックの、世話役となっている。車椅子を押しているのも、そのためだ。
片足と両腕に包帯が巻かれている、重傷であったリックが、この場の主役である。この場で行なわれようとしているのは、正式に女王の宣言のもと、リックを帝国軍参謀長に任命する儀式であるのだ。
今までは、様々な事情で正式な任命はされずにいた。正式に任命されずとも、参謀長として軍をまとめてはいたが、今回は、正式に任命を決意した女王により、この場が設けられたのである。
正式に任命されなかったのは、多くの反対意見があったためである。女王を嫌う貴族たちや、文官などの者たちが、リックを参謀長と認めるのに反対していたため、正式に任命することができずにいた。
しかし、決心した女王ユリーシアは任命を断行。騎士団長メシアの助けもあり、この場を無理やり作り出したのである。
「貴方を正式にヴァスティナ帝国軍参謀長に任命致します。これからも帝国のため、力を貸して下さいますか?」
「はい。女王陛下と帝国のため、この身を捧げます」
謁見の間の椅子より離れ、車椅子に座るリックへと歩き出したユリーシア。メシアに手を引かれながら、目の見えない体で、ゆっくりと歩みを進める。そんな彼女の腕には、一冊の絵本が抱えられていた。
リックの目の前まで来たユリーシアは、その本を彼へと手渡す。受け取ったリックは、本の題名を読んだ。
「戦妃リクトビア。これが・・・・・」
「以前差し上げると言った絵本です。王妃の一生が、そこに記されています」
この場でこの本を渡したのには意味がある。絵本「戦妃リクトビア」に、彼女は願いを込めている。
「もう一つ、貴方に差し上げたいものがあります」
「参謀長任命にこの絵本。まだ何か頂けるのですか?」
「名前です。威厳ある素晴らしい名前を差し上げたいのです」
彼女は彼に、自分が最も相応しいと思う名前を付けようとしている。尊敬する彼女のように、強く気高い存在であって欲しいという、願いを込めて・・・・・・。
「これより貴方を、ヴァスティナ帝国軍参謀長リクトビア・フローレンスと名付けます」
これには宰相マストールをはじめとした文官たちが、これ以上ない程の衝撃を受けてしまった。救国の英雄とは言え、元々は流れ者のリックに、国の初代王妃の名前を付けるというのだ。尋常なことではない。
当然マストールたちは反対だった。
「陛下!?いくら何でも------」
「これは、女王である私の絶対の決定です。反対は許しません」
初めてであった。初めて彼女は、自らの権力で、自らの我儘を通したのだ。
これには、彼女を昔から知るマストールも、仕える文官たちも、何も言えなくなってしまった。余りにも彼女の発言が、予想だにしなかったものであったためだ。
「陛下、この名前は貴女の尊敬する人物の名前のはずです。そんな偉大な人物の名前を・・・・・・」
「良いのです。貴方はリクトビア王妃と同じなのですから」
「えっ?」
「貴方は慈愛に満ちています。イヴさんも、この場にいる貴方の仲間たちも大切にし、多くの信頼を集めていますね。それは戦士であったリクトビア王妃と同じなのです。常に強く気高く、愛する仲間たちと共にある。私は貴方に、王妃と同じであって欲しいのです」
この名前には、己の大切な存在であるリックに、憧れのリクトビアの様な存在でいて欲しいと願い、偉大な王妃リクトビアに、彼を守って欲しいという願いも込められている。彼の歩む道に、どんな苦境が待っていようとも、救いが必ずあるように。
何もできず、ただ彼に縋るしかできなかった自分が、彼のために、少しでも力を与えられるようにと。
「・・・・・陛下に頂いたこの名前、大切にします」
「私はこの場で宣言します。これよりフローレンス参謀長と私は、帝国の未来のために歩みます。この国にかつての力を取り戻させ、愛する我が国を守る力を手に入れる。先のオーデル王国のように、この国を侵略しようとする国に対して、私は彼と共に戦います!そして、女王である私の決定に異を唱えることは、それが誰であろうと許さないことを、ここに宣言します!」
小さく華奢な体で声を張り上げ、彼女はこの場の全ての者に宣言した。これこそが、彼女の決心である。
もう誰にも彼女は止められない。彼女は女王となり初めて、絶対の決定を下したのだ。
度肝を抜かれた全ての者たち。そしてリックは・・・・・・。
「必ず・・・、必ず陛下に応えてみせます。それが俺の務めですから」
この日、正式にヴァスティナ帝国軍参謀長が任命された。
任命された男の名は、リクトビア・フローレンス。帝国初代王妃と同じ名を持つ、女王ユリーシアに絶対の忠誠を誓う男。それがこの大陸へと迷い込んだ、今の彼の存在となった。
「ところでリック様」
「はい?」
「自分の性癖を皆の前で堂々と宣言するのは、参謀長としてどうかと私は思います」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい、仰る通りです」
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