贖罪の救世主

水野アヤト

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第三話 集う力

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 それから、一週間以上の時が流れた。
 シャランドラを筆頭に、隠れ里の人々が、帝国に移住するのは順調に進み、全ての銃器類や設計図、彼女の発明品に至るまでが、迅速に輸送された。女王ユリーシアは里の人々に全面協力し、何の問題もなく事は進んだのである。
 巨大な暴食竜の死骸については、シャランドラが研究材料にしたいと言い、ゴリオンや帝国軍兵士の力を借り、何とか解体して、必要な部位を持ち帰った。
 ちなみに、解体するまでに日にちが経ち、肉が腐り始めていたため、レイナが楽しみにしていた、竜の焼き肉は食べられずに終わる。言葉にできない程の、残念な表情を見せたレイナを、リックとリリカが苦労して慰める、なんてこともあった。

「皆揃ったな」

 今、集まった仲間たちの前に立ち、これから言葉を伝えようとしているのは、彼らの主である、参謀長リックである。
 集まっているのは、リックの両腕である槍士レイナと剣士クリス。発明家シャランドラに鉄壁剛腕のゴリオン。リックの頭脳である軍師エミリオ。精鋭戦闘集団のヘルベルトたち鉄血部隊。
 そして、自称であり事実の美女リリカ。
 ここにいるのは、彼が手に入れた力である。このローミリア大陸で、最後まで戦い抜くための、彼の力であるのだ。

「聞いてると思うが、色々なことがようやく一段落した。これからシャランドラを中心に、軍の新兵器開発が始まる。喜べお前たち、もうすぐ新しい玩具が手に入るぞ」

 新しい玩具。それはシャランドラや里の人々、帝国の技術者が取り掛かり始めた、新型銃器のことである。
 里で使われていたものよりも、軍用に特化し、性能を向上させて、生産性も上げるのだ。
 その強力な銃火器を、ここにいる者たちや、帝国軍全体に行き渡らせることが、リックの軍備増強計画である。

「エミリオ、帝国の軍備以外の状況報告をしてくれ」
「わかったよリック。私が調べた限りでは、今のところ大きな問題はない。ただ、将来的には女王を嫌う、周辺貴族たちが君の障害となる」
「そうか・・・・・・。なら、近いうちに始末しないとな」

 リックとエミリオは、互いに良い信頼関係を築いていた。
 今後の帝国の未来を、丸一日かけて話し合い、今では親友の様な間柄である。
 軍師エミリオの考えや意見は、リックにとって重要で信頼できるものだ。彼はまさに、リックの頭脳である。

「ふふっ、リックは気が早いね」
「私もそう思います。利用価値がある内は使わないと」
「リリカとエミリオは反対か。よし、わかった」
「聞いたかいお二人さん?俺たちが軍師殿のことを反対した時には、聞く耳持たずのくせに、リリカ姉さんと軍師殿の意見はあっさり聞いてる」
「まったくだぜ」
「仕方ありません」

 エミリオを自分の部下にした時のことを思い出し、苦笑するリック。言い訳は出来そうにない。

「まあ、それは措いといてだ。シャランドラ、ゴリオン用の装備開発はどうなってる?」
「無理やり話題変えたで・・・・・・。えーと、ゴリオンの装備完成にはまだ時間かかるで。どんなもんかは、完成してからのお楽しみや」
「ありがとうなんだな」

 巨体ゴリオンは、その巨大さ故に、丁度良い武器や防具がない。このままでは丸腰の状態になってしまうため、発明家シャランドラに頼んで、彼専用装備の開発をさせているのだ。
 予定では、巨大で凶悪な武器が出来上がるはずである。

「リック、準備は整ったか?」

 リックたちの前に、銀髪褐色肌の騎士団長メシアが現れた。
 この場に彼女が現れたのには、理由がある。完全武装の彼女と、彼女の愛馬である大型馬。完全武装といっても、メシアは軽めの防具に剣と盾を装備した、戦いへと赴く、いつもの格好である。
 そう、これから戦いが始まろうとしているのだ。
 そして、彼女は同じく指揮官であるリックを、ここまで呼びに来た。

「こっちは大丈夫です。騎士団と軍はどうですか?」
「問題ない。いつでも出られる」

 その言葉を聞き、自分の信頼する部下たちを見まわすリック。
 皆が準備万端やる気十分。無論、リック自身もだ。

「ははっ、なら行きますか。出撃するぞお前たち!狩りに行く時間だ!」
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