贖罪の救世主

水野アヤト

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第三話 集う力

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「うう、体中が痛い・・・・・」
「自業自得ですぜ隊長」

 戦いが終わり、ゴリオンの下敷きとなったリックは、その後急いでレイナたちに救出され、現在は怪我の治療を受けている。治療と言っても、擦り傷程度の怪我しかしてはいない。あの巨体に押しつぶされたというのに、なんと骨折すらしていないのだ。

「竜にやられた時もそうだけどよ、お前ほんとに丈夫だよな」
「無事だからよかったですが・・・・・・。リック様が押しつぶされてしまった時は、心臓が止まるかと思いました」
「すまないなレイナ、いつも心配かけて」
「あんた、大丈夫だか?すまなかっただよ」

 自業自得の結果ではあるのだが、リックを押しつぶしてしまったことに、罪悪感を抱いているゴリオンは、彼の怪我を心配している。
 いきなり、自分と戦えと言ってきた相手に対しても、それが自業自得であったとしても、このゴリオンと言う男は、他人を気遣う心優しい男なのだ。

「心配するな。俺、こう見えても結構丈夫なんだよ。それよりお前に怪我はないか?」
「オラは平気なんだな」
「それはよかった。なあゴリオン、俺の部下になる気はないか?」

 驚くゴリオンとは対照的に、笑みを浮かべて返答を待つリック。
 今回の戦いで、リックはこの鉄壁とも言える力を実感した。レイナとクリス、ヘルベルトらの鉄血部隊と同じように、気に入ってしまったのだ。
 この男を部下にしたい。そう強く願っている。
 しかしゴリオンは兵士ではなく、別の仕事を貰いたいと考えている。この先、生きていくための仕事を探しているのだ。

「オラ、兵士には向いてないだよ。頭悪くて、のろまで、なにもできないだよ。みんなにそうやって言われただよ」
「はは、気にするな。お前を馬鹿にした奴らは見る目がない屑だったのさ。お前は本当に凄いよ」
「べた褒めやなリック。そんなにいいんか?」
「ああ、最高だ。だがゴリオン、一つだけお前に言っておくことがある」
「オラに、言っておくことだか?」
「お前の村の人間たちを焼き殺した張本人。それはたぶん、俺だ」

 ゴリオンが語った、村の仲間が戦争で焼け死んだと言う話。その話に心当たりがあるリックは、それが自分の仕業であると悟った。
 恐らく、ゴリオンたちを徴兵したのは、リックが策をもって叩き潰した、オーデル王国であるはずだ。業火戦争と呼ばれている、ヴァスティナ帝国とオーデル王国の戦争。帝国軍の指揮を執り、火計の策で王国軍を殲滅した張本人は、現帝国軍参謀長のリックなのだ。 
 そして、この戦争では一万人以上の王国軍兵士が、業火に巻き込まれてしまった。
 その戦死者の中に、徴兵された村の人々もいたのだろう。それ故に、焼き殺されたと聞かされたのだ。

「そうだっただか・・・・・。でも、戦争だから、村のみんなが死んだのは、しかたないだよ」
「仕方ないだって?」
「オラ、難しことはわからないだよ。でも、そうしないといけなかったんじゃないだか。だから、しかたがないんだな」
「ああ、仕方がなかった。女王を守るためには、あの策で敵を焼き殺すしか手はなかった」
「なら、オラは恨まないだよ。だから、気にする必要はないんだな」

 焼き殺した張本人だと告白した。ゴリオンが復讐のために、自分を襲う可能性があったにも関わらず、リックはこの場で告白した。
 黙っていても、問題はなかったはずだ。だがリックは、ゴリオンを気に入った。自分の気に入った相手に、この事実を隠したくないという、彼の純粋な気持ち。
 その気持ちを悟ったわけではないが、ゴリオンは彼に、気にする必要がないと言う。何故なら、村の人々の死は、戦争による死なのだ。
 戦争は犯罪ではない。そしてリックは、彼らを好き好んで虐殺したわけではないのだ。自分の守らなければならない者のために、あの戦争で勝利のためにと戦った。
 だからこそ、恨む必要はないし、気にすることもない。

「ははっ、はははははは。お前は頭悪くなんかないぞ。ますます気に入った!」
「ど、どうしただか。なにかオラ、おかしなこと言っただか」
「いやいや、俺が勝手にうけただけさ。決めたぞ、誰がなんと言おうとお前は今日から俺の部下だ!その力で俺の大切な仲間たちを守るんだ。これはお前にしかできないことだ!」
「仲間を、守るだか?」
「そうだ。お前の鉄壁の肉体と絶対の力さえあれば、帝国最強の盾になるぞ」
「本当にオラでいいんだか?オラは・・・・・」
「お前がいいんだよ。お前じゃなきゃだめなんだ」

 リックが率いる部下たちと同じように、ゴリオンもまた、目の前のこの男に魅せられてしまった。今までの人生で、ここまで自分の価値を考え、ここまで自分を欲してくれる人間はいなかった。
 彼もまた、リックに魅せられた一人になろうとしている。

「なるほど、あなたはそうやって仲間を集めているのですか」

 不意に、後ろから聞きなれない声が聞こえ、声のした方へ振り向くと、そこには見かけない顔の男が一人立っていた。
 男はリックと同じくらいの年齢で、綺麗な顔立ちをしている。長い髪と、掛けている眼鏡が特徴的で、頭の良さそうな人物だ。知的眼鏡男子と言ったところである。

「離れたところからずっと見ていましたよ。随分と無茶をしますね」
「無茶するのは悪い癖でね。それで、俺になにか用があるのか?」
「突然話しかけて申し訳ない。私はエミリオ・メンフィス。どうぞエミリオとお呼び下さい。帝国軍に雇って頂くために、この地に参りました」

 帝国軍入隊を希望する者たちが集まっていると、ヘルベルトはリックに話していたが、このエミリオと名乗る男もまた、帝国軍の一員になろうと現れたのだ。
 シャランドラ、ゴリオン、そして突然現れたエミリオという男。リックのもとに、新たなる力が集まっていく。
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