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第二話 狂犬の戦士たち
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三つ巴で殴り続ける。この戦いの間、一体どれだけの時が流れたのだろうか。
体中が擦り傷と痣だらけで、息を切らし、髪はぼさぼさで、とんでもなくボロボロである三人。三人とも体力は限界であり、立っているのがやっとという有り様だ。お互い、拳を握りしめて、相手を殴る体力も残っていない。
お互い相手に対して、何十発かの攻撃を打ち込んでいる。腹部を攻撃され、胃の中の物を嘔吐し、時には血反吐を吐いた。体も精神も限界なのだ。
だとしても、宗一は負けられない。勿論レイナもクリスも、同じ気持ちである。しかし、宗一と二人とでは、覚悟が違う。
「もう・・・・ぜえ、ぜえ、腕が上がらねぇ」
「はあ、はあ、はあ・・・・・・・・」
満身創痍な二人と同じく、足を一歩踏み出す体力もない宗一ではあるが、あの時と同じ覚悟と思いが、彼を突き動かす。
あの時とは、初陣となったオーデルとの戦いだ。あの戦いの時、彼を支えたものは、ユリーシアとメシアへの思いだった。同じ思いが、今も宗一を戦わせようとしている。
後数歩踏み出すことが出来れば、目の前の青年に、とどめの一撃を見舞うことができる。後少し足が動けば、完全にふらついている少女を倒すことができる。
足は言う事を聞かない。気持ちに反して、限界だと訴えているのだ。
腕も上がらない。疲れ切ってしまったためだ。
拳を握る力すら残っていないにもかかわらず、胸の奥底から、戦えと言う言葉が聞こえてくるのだ。
その言葉が、愛する者の顔を思い出させる。女王ユリーシアは十四歳でありながら、悲しい表情の多い少女だ。彼女には、心の底から笑って欲しい。それが宗一の願いの一つ。
ユリーシアのためには、ここで負けるわけにはいかない。絶対に。
何故なら、この決闘の勝利は彼女のためになる。宗一はそう信じているのだから。
(戦え・・・・。戦え、戦え、戦え。お前は彼女を悲しませたままにしておくのか!?・・・・違う!!)
気力を振り絞り、一歩を踏み出す。足は動いたが、腕は動かないままだ。
だが彼には、最後の武器がまだ残されている。
動けないクリスに少しずつ近付く。疲れ切ってしまい、相手を捉えることができていないクリスは、宗一の接近に気付いていない。
「根性があれば・・・・・・・大抵なんとかなる・・・・・・・・」
騎士団長にそう教えられた。彼女がいたから、彼女との修行があったからこそ、まだ立っていられたのだ。
「うおりゃあっ!!」
至近距離までクリスに接近し、青年の額目掛けて、最後の攻撃を放った。
拳はなくとも、固く重い一撃を繰り出せる。気合と根性を乗せ、雄叫びと共に頭を振りかぶり、目掛けた場所へと、一直線に振り落とす。
最後の攻撃とは、頭突きである。
鈍い音とともに頭同士が激突し、それがとどめてなって、クリスはその場に倒れた。ようやく一人倒すことができたのだ。だが、まだ終わっていない。
「はあっ!」
気力を振り絞ったのは宗一だけではない。同じように、最後の力を出したレイナが接近し、宗一へと拳の一撃を打ち込んだ。しかし、全くその拳には腰が入っていない。彼女も体力の限界を迎えている。故に軽い一撃なのだ。
最後の力を出しても尚、決めきれなかったレイナ。
「そっちから来てくれて、助かったよ・・・・・・・・」
「っ!?」
クリスと同じように、レイナにも頭突きを繰り出した。二度目の頭突きは、頭が割れるのではないかと思う程の激痛だ。痛みで気を失いそうになった宗一だが、先に倒れたのはレイナだった。
三つ巴の戦いを勝ち抜いたのは、長門宗一郎。決闘の乱入者は、宣言通りに勝利を勝ち取ったのだ。
「もう・・・・・・無理・・・・・・・」
勝利したことに安心し、仰向けにその場へ倒れ込んだ宗一の顔には、笑みが張り付いていた。最早、指一本すら動かせない。
今まで戦いに没頭していたために、全く気が付かなかったが、周りは昇り始めた朝日によって、徐々に明るくなっている。どうやら、夜通し三人で殴り合いを展開していたようだ。
「痛っ。・・・・・まさか、朝になっちまうとはな・・・・・」
「ははっ。・・・・・・宣言通り・・・・・俺の勝ちだ」
「参りました・・・・・。私たちの、負けです・・・・・」
激闘は終わった。勝利者である宗一が笑顔なのは当然だが、二人もまた表情は晴れやかだ。
全部を出し切って戦い、そして負けた。これほどまでに、熱く、激しく、限界まで戦った経験は、二人にはない。そのせいなのか、負けたにもかかわらず、とても気分がいいのだ。
宗一も気分がいい。二人とは全く違う理由ではあるが。勝ったことによって得た権利こそが、最高の気分の源である。
しかし、今はそんなことよりも・・・・・・・。
「「「・・・・・・・・」」」
気を失ったに等しく、猛烈な眠気に誘われ、ほぼ同時に深い眠りにつき始めた三人。夜通し殴り合えば当然のことなのだが、そもそも夜通し殴り合う事自体が、非常識で無謀だ。他人からすれば大馬鹿三人組だろう。良く言えば底なしの体力三人組かも知れない。
何かを忘れているような気がしてはいるが、関係ない。眠気の方が勝る。ある意味最大最強の敵は、猛烈に迫る眠気と言えるかも知れない。
眠り落ちていく意識の中で、最後に頭の中を過ぎったことは・・・・・・。
(あっ・・・・・・・・・・アジト探し・・・・・・・忘れて・・・・・・た・・・・・・)
思い出したのはレイナもクリスもだったが、眠気には勝つことができなかった。
体中が擦り傷と痣だらけで、息を切らし、髪はぼさぼさで、とんでもなくボロボロである三人。三人とも体力は限界であり、立っているのがやっとという有り様だ。お互い、拳を握りしめて、相手を殴る体力も残っていない。
お互い相手に対して、何十発かの攻撃を打ち込んでいる。腹部を攻撃され、胃の中の物を嘔吐し、時には血反吐を吐いた。体も精神も限界なのだ。
だとしても、宗一は負けられない。勿論レイナもクリスも、同じ気持ちである。しかし、宗一と二人とでは、覚悟が違う。
「もう・・・・ぜえ、ぜえ、腕が上がらねぇ」
「はあ、はあ、はあ・・・・・・・・」
満身創痍な二人と同じく、足を一歩踏み出す体力もない宗一ではあるが、あの時と同じ覚悟と思いが、彼を突き動かす。
あの時とは、初陣となったオーデルとの戦いだ。あの戦いの時、彼を支えたものは、ユリーシアとメシアへの思いだった。同じ思いが、今も宗一を戦わせようとしている。
後数歩踏み出すことが出来れば、目の前の青年に、とどめの一撃を見舞うことができる。後少し足が動けば、完全にふらついている少女を倒すことができる。
足は言う事を聞かない。気持ちに反して、限界だと訴えているのだ。
腕も上がらない。疲れ切ってしまったためだ。
拳を握る力すら残っていないにもかかわらず、胸の奥底から、戦えと言う言葉が聞こえてくるのだ。
その言葉が、愛する者の顔を思い出させる。女王ユリーシアは十四歳でありながら、悲しい表情の多い少女だ。彼女には、心の底から笑って欲しい。それが宗一の願いの一つ。
ユリーシアのためには、ここで負けるわけにはいかない。絶対に。
何故なら、この決闘の勝利は彼女のためになる。宗一はそう信じているのだから。
(戦え・・・・。戦え、戦え、戦え。お前は彼女を悲しませたままにしておくのか!?・・・・違う!!)
気力を振り絞り、一歩を踏み出す。足は動いたが、腕は動かないままだ。
だが彼には、最後の武器がまだ残されている。
動けないクリスに少しずつ近付く。疲れ切ってしまい、相手を捉えることができていないクリスは、宗一の接近に気付いていない。
「根性があれば・・・・・・・大抵なんとかなる・・・・・・・・」
騎士団長にそう教えられた。彼女がいたから、彼女との修行があったからこそ、まだ立っていられたのだ。
「うおりゃあっ!!」
至近距離までクリスに接近し、青年の額目掛けて、最後の攻撃を放った。
拳はなくとも、固く重い一撃を繰り出せる。気合と根性を乗せ、雄叫びと共に頭を振りかぶり、目掛けた場所へと、一直線に振り落とす。
最後の攻撃とは、頭突きである。
鈍い音とともに頭同士が激突し、それがとどめてなって、クリスはその場に倒れた。ようやく一人倒すことができたのだ。だが、まだ終わっていない。
「はあっ!」
気力を振り絞ったのは宗一だけではない。同じように、最後の力を出したレイナが接近し、宗一へと拳の一撃を打ち込んだ。しかし、全くその拳には腰が入っていない。彼女も体力の限界を迎えている。故に軽い一撃なのだ。
最後の力を出しても尚、決めきれなかったレイナ。
「そっちから来てくれて、助かったよ・・・・・・・・」
「っ!?」
クリスと同じように、レイナにも頭突きを繰り出した。二度目の頭突きは、頭が割れるのではないかと思う程の激痛だ。痛みで気を失いそうになった宗一だが、先に倒れたのはレイナだった。
三つ巴の戦いを勝ち抜いたのは、長門宗一郎。決闘の乱入者は、宣言通りに勝利を勝ち取ったのだ。
「もう・・・・・・無理・・・・・・・」
勝利したことに安心し、仰向けにその場へ倒れ込んだ宗一の顔には、笑みが張り付いていた。最早、指一本すら動かせない。
今まで戦いに没頭していたために、全く気が付かなかったが、周りは昇り始めた朝日によって、徐々に明るくなっている。どうやら、夜通し三人で殴り合いを展開していたようだ。
「痛っ。・・・・・まさか、朝になっちまうとはな・・・・・」
「ははっ。・・・・・・宣言通り・・・・・俺の勝ちだ」
「参りました・・・・・。私たちの、負けです・・・・・」
激闘は終わった。勝利者である宗一が笑顔なのは当然だが、二人もまた表情は晴れやかだ。
全部を出し切って戦い、そして負けた。これほどまでに、熱く、激しく、限界まで戦った経験は、二人にはない。そのせいなのか、負けたにもかかわらず、とても気分がいいのだ。
宗一も気分がいい。二人とは全く違う理由ではあるが。勝ったことによって得た権利こそが、最高の気分の源である。
しかし、今はそんなことよりも・・・・・・・。
「「「・・・・・・・・」」」
気を失ったに等しく、猛烈な眠気に誘われ、ほぼ同時に深い眠りにつき始めた三人。夜通し殴り合えば当然のことなのだが、そもそも夜通し殴り合う事自体が、非常識で無謀だ。他人からすれば大馬鹿三人組だろう。良く言えば底なしの体力三人組かも知れない。
何かを忘れているような気がしてはいるが、関係ない。眠気の方が勝る。ある意味最大最強の敵は、猛烈に迫る眠気と言えるかも知れない。
眠り落ちていく意識の中で、最後に頭の中を過ぎったことは・・・・・・。
(あっ・・・・・・・・・・アジト探し・・・・・・・忘れて・・・・・・た・・・・・・)
思い出したのはレイナもクリスもだったが、眠気には勝つことができなかった。
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