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第一話 初陣
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「ここが我々の国、ヴァスティナです」
馬に乗せられ、どれぐらいの時間が経ったのかわからないが、彼らの目指していた帝国に到着した。
目の前には大きく立派な城壁がそびえ立ち、城門が開いて、彼らと共にその中へと進んで行く。すると、何人かの鎧に身を包んだ兵士であろう人間たちが、こちらへと集まって来た。
集まって来た兵士であろう男たちは、三人に「どうだった?」などと言って、様々なことを聞き始める。
「オーデルの奴らは何処まで来てる?」
「そんなに遠くない。明日にはここまで来るはずだ」
「くそっ!もうどうしようもないのか」
会話の内容はわかる。帝国が滅亡に瀕している話だ。
聞いた話では、今現在ヴァスティナ帝国は、近隣の大国オーデル王国の侵略を受けているという。 オーデルの力は圧倒的で、ヴァスティナは成す術もなく、オーデルが帝国を蹂躙するのは時間の問題らしい。
この世界の情報を聞くだけのつもりが、国家存亡の危機に直面しているところに来てしまうとは・・・・・。
(情報が手に入ると思って街に来れたのは良いものの、・・・・・まいったなこりゃあ)
こんなところで戦いに巻き込まれて、死ぬのは御免である。明日にでも敵が来るならば、早く移動したいものだ。
「ところで、後ろの奴は何者だ?」
勿論自分のことだ。他の人々とまるで違う身なりをしているし、彼らからしたら、見ない顔の男であろう。周りから視線が集まり、自分が注目される。自身を取り巻く空気がピリピリしたものへと変わっていくのがわかる。警戒されているのだ。
「怪しいものじゃないですよ。通りすがりの旅人です」
「この方は、我々がオーデルの兵士に襲われていたところを助けてくださったのだ。色々あってここまで連れて来てしまったのだが・・・」
周りの兵士はそれに半分納得したようで、徐々に張りつめた空気が和らいでいく。今ここで面倒事になるのは避けられたようだ。無理もないだろう。今現在侵略されている国に、見知らぬ人間が来れば、敵の工作員か何かだと思われても、仕方ないことである。
(しかし、どうしたもんかな・・・・)
負け戦の迫る滅亡寸前の国に来てしまった現状、まだまだ死にたくないのでお暇したいが、今ここで逃げてしまうのは罪悪感に駆られる。だが、そんな罪悪感などより、我が身かわいさが勝る。
他者はそれを人でなしというが、そんな言葉が吐ける偽善者は何もわかっていない。人間として生を受け、この世に生きる限り、最終的に自分を優先させることが人間らしい姿だ。本当はわかっているはずなのに、それを誤魔化して、綺麗な言葉を並べ立て、それが正しくないことのように見せることは、愚かなことだと知っているはずなのに。
自己中心的なことこそ、人間である。自分の考えだ。
「偵察から戻ったか。待っていたぞ」
「騎士団長!!」
声の聞こえた方を向くと、そこには一人の女性が立っていた。
肌は褐色で歳は二十代位に見える。周りの男たちと変わらない背丈をしており、鉄製の胸当てなどの防具を着けているが、肌の露出は多い軽装な服装である。左手には盾を装備し、腰には剣を差しているところを見ると、この女性も兵士であることは間違いなさそうだ。驚いたのは、周りが彼女を騎士団長と呼んだことだ。
彼女がこちらに歩いてくるや否や、馬上の三人の男たちは急いで馬を下り始める。初めて馬に乗ったため、下りるのを三人に手伝ってもらいながら、自分も地に足をつけた。
「よく戻った。偵察ご苦労」
「はっ!」
「戻ってそうそうだが、陛下が直接話を聞きたいそうだ。王宮まで付いて来い」
背中まで伸びた銀髪を靡かせているこの女性が、彼らの上官であるのは反応を見てよくわかった。騎士団長というと、騎士の中で最も偉い階級のはずである。それが彼女のような女性だとは、俄かに信じられないが、ここはそういう世界なんだと無理やり納得した。
もう驚かないと思っていたが、それはこの世界では不可能そうだ。
「それとそこの旅人、貴様も付いて来い」
「えっ?!」
「念のため私が聴取する。お前たち、一緒に連れて来い」
彼女が振り返り歩き出すと、三人も続いて歩き出す。彼らに付いて来てくださいと言われ、あの女性の有無を言わせない決定に、逆らえないと感じたこともあり付いて行く。
もしかすれば、逃げ出すなら最後のチャンスかも知れないが、それをすれば、ここにいる面々に敵と見なされ、確実に殺られると感じて実行できなかった。
結局、相手の言うことを黙って聞くしか、今の自分には出来ないのだと理解した。
馬に乗せられ、どれぐらいの時間が経ったのかわからないが、彼らの目指していた帝国に到着した。
目の前には大きく立派な城壁がそびえ立ち、城門が開いて、彼らと共にその中へと進んで行く。すると、何人かの鎧に身を包んだ兵士であろう人間たちが、こちらへと集まって来た。
集まって来た兵士であろう男たちは、三人に「どうだった?」などと言って、様々なことを聞き始める。
「オーデルの奴らは何処まで来てる?」
「そんなに遠くない。明日にはここまで来るはずだ」
「くそっ!もうどうしようもないのか」
会話の内容はわかる。帝国が滅亡に瀕している話だ。
聞いた話では、今現在ヴァスティナ帝国は、近隣の大国オーデル王国の侵略を受けているという。 オーデルの力は圧倒的で、ヴァスティナは成す術もなく、オーデルが帝国を蹂躙するのは時間の問題らしい。
この世界の情報を聞くだけのつもりが、国家存亡の危機に直面しているところに来てしまうとは・・・・・。
(情報が手に入ると思って街に来れたのは良いものの、・・・・・まいったなこりゃあ)
こんなところで戦いに巻き込まれて、死ぬのは御免である。明日にでも敵が来るならば、早く移動したいものだ。
「ところで、後ろの奴は何者だ?」
勿論自分のことだ。他の人々とまるで違う身なりをしているし、彼らからしたら、見ない顔の男であろう。周りから視線が集まり、自分が注目される。自身を取り巻く空気がピリピリしたものへと変わっていくのがわかる。警戒されているのだ。
「怪しいものじゃないですよ。通りすがりの旅人です」
「この方は、我々がオーデルの兵士に襲われていたところを助けてくださったのだ。色々あってここまで連れて来てしまったのだが・・・」
周りの兵士はそれに半分納得したようで、徐々に張りつめた空気が和らいでいく。今ここで面倒事になるのは避けられたようだ。無理もないだろう。今現在侵略されている国に、見知らぬ人間が来れば、敵の工作員か何かだと思われても、仕方ないことである。
(しかし、どうしたもんかな・・・・)
負け戦の迫る滅亡寸前の国に来てしまった現状、まだまだ死にたくないのでお暇したいが、今ここで逃げてしまうのは罪悪感に駆られる。だが、そんな罪悪感などより、我が身かわいさが勝る。
他者はそれを人でなしというが、そんな言葉が吐ける偽善者は何もわかっていない。人間として生を受け、この世に生きる限り、最終的に自分を優先させることが人間らしい姿だ。本当はわかっているはずなのに、それを誤魔化して、綺麗な言葉を並べ立て、それが正しくないことのように見せることは、愚かなことだと知っているはずなのに。
自己中心的なことこそ、人間である。自分の考えだ。
「偵察から戻ったか。待っていたぞ」
「騎士団長!!」
声の聞こえた方を向くと、そこには一人の女性が立っていた。
肌は褐色で歳は二十代位に見える。周りの男たちと変わらない背丈をしており、鉄製の胸当てなどの防具を着けているが、肌の露出は多い軽装な服装である。左手には盾を装備し、腰には剣を差しているところを見ると、この女性も兵士であることは間違いなさそうだ。驚いたのは、周りが彼女を騎士団長と呼んだことだ。
彼女がこちらに歩いてくるや否や、馬上の三人の男たちは急いで馬を下り始める。初めて馬に乗ったため、下りるのを三人に手伝ってもらいながら、自分も地に足をつけた。
「よく戻った。偵察ご苦労」
「はっ!」
「戻ってそうそうだが、陛下が直接話を聞きたいそうだ。王宮まで付いて来い」
背中まで伸びた銀髪を靡かせているこの女性が、彼らの上官であるのは反応を見てよくわかった。騎士団長というと、騎士の中で最も偉い階級のはずである。それが彼女のような女性だとは、俄かに信じられないが、ここはそういう世界なんだと無理やり納得した。
もう驚かないと思っていたが、それはこの世界では不可能そうだ。
「それとそこの旅人、貴様も付いて来い」
「えっ?!」
「念のため私が聴取する。お前たち、一緒に連れて来い」
彼女が振り返り歩き出すと、三人も続いて歩き出す。彼らに付いて来てくださいと言われ、あの女性の有無を言わせない決定に、逆らえないと感じたこともあり付いて行く。
もしかすれば、逃げ出すなら最後のチャンスかも知れないが、それをすれば、ここにいる面々に敵と見なされ、確実に殺られると感じて実行できなかった。
結局、相手の言うことを黙って聞くしか、今の自分には出来ないのだと理解した。
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