贖罪の救世主

水野アヤト

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第三十一話 幕を引く銃声

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「・・・・・・・」

 帝国軍とアーレンツの戦力が激突している最前線。その最前線の中で、奇妙な沈黙を続けている戦場があった。
 周りが激しい戦闘を行なう中、両軍の精鋭が対峙している。アーレンツ側の精鋭は、情報局の特別処理実行部隊隊長、ミッターとゲオルグであった。二人は精鋭の部下達を率い、帝国の軍神と戦っている。
 帝国側の精鋭にして、帝国軍の軍神である存在。烈火の槍士レイナ・ミカヅキは、ミッターの使用した精神操作魔法によって、立ち尽くしたまま沈黙していた。
 
「そろそろ暴れてもいいはずなんだが、妙に静かだ・・・・・」
「旦那の魔法は決まっているはず。ずっと沈黙したままなのはおかしい・・・・・」

 レイナが魔法にかかって、既に五分以上が経過している。いつもならば、ミッターの魔法にかかった者は発狂し、暴走して自分の命を絶っている頃だ。それなのに彼女は、一言も発せず、身動きもせず、沈黙を貫いていた。
 不審に思ったミッターは、自身の魔法が彼女に効果がなかったのではと疑った。しかし、先程まで彼女は発狂し、狂い壊れている様子ではあった。よって、魔法が効いていなかったわけではない。ならば、この沈黙は何を意味するのか?

「そう言えば旦那。この娘、烈火式神槍術とかいう技を使っていました。この技の名、どこかで聞いた事があるような・・・・・」
「・・・・・!!」

 ゲオルグが口にした疑問。彼が口にした、「烈火式」という名の槍術。その単語が、ミッターの脳裏に衝撃を奔らせた。そして彼の頭の中で、この状況の理由の糸が繋がっていく。

(そうか、烈火式か!何故あの時気が付かなかったのだ!!)

 ミッターもゲオルグも、この技は知っている。ゲオルグはまだ忘れているが、ミッターは自分の記憶の片隅から、昔得た情報を呼び起こした。
 実際に技を見た事はない。使い手に会った事もない。だが彼は昔、ゲオルグと共にある情報資料を眼にした事があった。その資料の中に、「烈火式」という槍術が記載されていたのである。

(烈火式神槍術という事はこの娘、あの幻の村の人間なのか!?)

 昔、情報局が入手した、大陸の何処かにあるという、幻の村の存在に関する資料。偶然ミッターはゲオルグと共に、その資料を読んだ事があった。資料を読んだのはその一度だけ。故に忘れてしまっていたのだ。

(あの村の人間であると言うならば、対魔法戦を想定したあらゆる訓練を受けているはず!となれば、俺の魔法は・・・・・・!!)

 気が付けば、ミッターはナイフを構えて駆け出していた。驚くゲオルグは何事かと思い、思考が追い付かず動けずにいる。ミッターは他の者達に構わず、ただ真っ直ぐレイナのもとに向かっていき、彼女との距離を一気に詰めていった。

(烈火式を使われた時点で思い出すべきだった!!この失態、俺自身の手で片を付けさせてもらう!)

 レイナへと迫る、ミッターのナイフの刃。殺気を放つ彼の眼が、彼女を捉えて離さない。

「小娘!目覚める前に死ね!!」
「・・・・・・うるさい」

 その時、槍を握る彼女の手が、微かに動いた・・・・・・・。
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