512 / 841
第二十九話 アーレンツ攻防戦
21
しおりを挟む
同時刻、アーレンツ鋼鉄防護壁裏門にて。
「いくぞ野郎共っ!派手におっぱじめようぜ!!」
鋼鉄製の壁に守られたアーレンツ。その防護壁の裏門前に彼らの姿はあった。
鎧を身に纏う事もなく、腰に剣も差していない、装備を収納して持ち運ぶためのベストを身に纏う、屈強なる兵士達が、裏門の前に姿を見せていた。彼らの人数は六十人。彼らの後ろには、彼らとは違う軍服と装備を身に着ける、別の国の軍隊の姿もあった。
「よーし、狙いは防護壁の裏門だ。バンデスとの戦いで大暴れした、この兵器の力を見せてやるぜ!」
実戦慣れした空気を漂わす、ベストを身に着けた屈強な兵士達。彼らは鉄血部隊という名の、ヴァスティナ帝国軍で一番実戦経験が豊富な部隊であり、最強の愚連隊である。
部隊を率いているのは、鉄血部隊の部隊長ヘルベルト。戦場に飢えた戦闘狂達を率いる、鉄血部隊の指揮官だ。
ヘルベルトの命令を受けた十人の兵士達が、長く大きな鉄製の筒を担ぎ、その筒の先を防護壁の裏門へと一斉に向けた。筒の先は大きな穴が開いており、それを見て察するに、彼らが担いでいるのは砲の一種である。筒にはグリップのようなものが付いており、兵士達はそのグリップをしっかり握ると、同じく取り付けられている引き金に指をかけた。
「撃てっ!!」
ヘルベルトの号令を受けた十人の兵士達は、一斉に引き金を引いた。次の瞬間、筒の先端から発砲音と煙と共に、何かが高速で撃ち出されたのである。一斉射されたその物体は、ほぼ同時に鋼鉄防護壁の裏門に直撃し、激しい爆発を巻き起こした。
「初弾は全弾命中だ!どんどん撃ち込め!!」
彼らが使用した兵器は、バンデス国の反乱軍鎮圧時に攻城兵器として使用された、試作の携帯式対要塞破壊兵器である。つまり、バズーカ砲などとも呼ばれる事がある、無反動砲の事だ。
発明家シャランドラは、遂に歩兵が携帯する事の出来る、無反動までも完成させてしまった。最早彼女には、作り出せない兵器が存在しないのかもしれない。そう思わせる程、この無反動砲もまた、完成度の高いものであった。
この兵器の実戦テストは、既にバンデス国反乱軍鎮圧で済まされている。無反動砲の力で、要塞のような敵軍の砦の城壁を破壊したのだ。故に、破壊力は保証付きである。如何にアーレンツの鋼鉄防護壁が鉄壁を自負しようと、この無反動砲を前にしては、自慢の防護壁もそう長くは持たない。
「次弾装填よし!!」
「こいつであの門を鉄屑に変えてやるぜ!」
「撃てっ!!」
戦闘狂である彼ら鉄血部隊にとって、この兵器は恐怖の玩具と言えるだろう。彼らは用意した無反動砲の弾を使い切らんとする勢いで、次々と弾を発射する。
攻撃を受けている裏門のアーレンツ国防軍は、敵の奇襲攻撃と爆発によって混乱し、砲の攻撃を恐れて逃亡する兵士もいる。アーレンツ軍は現在も指揮系統を失っているため、そもそも士気が大幅に低下しているところに、この攻撃である。そのせいで、彼らの恐怖心は一層大きくなっていったのだ。
士気が低く、恐怖心に駆られている今のアーレンツ兵士達に、無反動砲攻撃に対しての有効な対処が執れるはずもない。防護壁の裏門は攻撃に晒され続け、遂に限界を迎えたのだった。
「部隊長!門が倒れますぜ!!」
無反動砲の連続一斉射によって、裏門は大きく凹み、門と壁を固定させていた固定具を引き千切りながら、音を立てて倒れていった。鋼鉄の門であったために、簡単に大穴が空くような事はなかったが、火薬の爆発による衝撃を受け続けたせいで、門自体が外からの衝撃に耐えきれなかったのだ。
「はっはははははははっ!!何が鉄壁の防護壁だよ!俺達にかかりゃあんなもん、その辺の石ころ砕くのと大差ねぇぜ!」
裏門の破壊に大笑いする鉄血部隊の面々達。そんな彼らと、あの鋼鉄の門を破壊した光景に、驚愕を隠せない者達がいる。それは、鉄血部隊の後ろに控える、他国の軍の兵士達であった。
彼らは、ジエーデル国軍警察の戦力であり、この戦いに勝利するための切り札である。彼らに裏門から奇襲攻撃を行なわせ、二方面からアーレンツへ侵攻する事こそが、帝国軍の真の目的だったのだ。
「ふふっ、報告通りの威力じゃないか、このバズーカ砲は」
「面白い玩具ですぜ姉御。奴らを皆殺しにするには丁度いい」
裏門の破壊に沸き立つ鉄血部隊。アーレンツという名の獲物に狙いを定め、瞳の奥をぎらつかせているヘルベルトに、一人の女性が話しかけた。その女性は、戦場には全く似つかわしくない、紅いドレスを身に纏い、長く美しい金髪を風に靡かせていた。彼女こそ、帝国軍とジエーデル軍の共同戦線を造り上げた張本人である。
「ジエーデルの軍警察があれを見て驚いている。私の力を見せつける上でも、これは丁度いい機会だよ」
「私の力って・・・・・。姉御、バズーカの力はシャランドラの奴のお陰ですぜ?」
「何を言っている。シャランドラもまた私のものなのだから、あの子が作った兵器の力もまた私のものに決まっているだろう?」
このとんでもない理論を口にする者こそ、帝国を裏で支配していると言われている、絶世の美女にして帝国宰相の、名をリリカという。帝国参謀長リクトビアが最も心を許し、大きな信頼を寄せている女性だ。
彼女には誰も逆らえない。帝国女王ですら、時に彼女には逆らえない。帝国最凶と呼ばれる彼女は、この戦争に勝つための切り札を用意し、この地にやって来たのである。全ては、彼女にとっても大切な存在であるリックを、必ず取り戻すために・・・・・・。
「さあ、舞台は整った。そろそろ行こうじゃないか」
「了解ですぜ。野郎共、アーレンツに殴り込むぞ!!」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」」」」
帝国宰相リリカは、殺しを得意とする恐ろしき兵士達を引き連れ、戦場にその姿を現したのである。
帝国最凶率いるその軍団の放つ異様な覇気は、まるで、彼女の怒りと殺意を表しているかのようであった。
「いくぞ野郎共っ!派手におっぱじめようぜ!!」
鋼鉄製の壁に守られたアーレンツ。その防護壁の裏門前に彼らの姿はあった。
鎧を身に纏う事もなく、腰に剣も差していない、装備を収納して持ち運ぶためのベストを身に纏う、屈強なる兵士達が、裏門の前に姿を見せていた。彼らの人数は六十人。彼らの後ろには、彼らとは違う軍服と装備を身に着ける、別の国の軍隊の姿もあった。
「よーし、狙いは防護壁の裏門だ。バンデスとの戦いで大暴れした、この兵器の力を見せてやるぜ!」
実戦慣れした空気を漂わす、ベストを身に着けた屈強な兵士達。彼らは鉄血部隊という名の、ヴァスティナ帝国軍で一番実戦経験が豊富な部隊であり、最強の愚連隊である。
部隊を率いているのは、鉄血部隊の部隊長ヘルベルト。戦場に飢えた戦闘狂達を率いる、鉄血部隊の指揮官だ。
ヘルベルトの命令を受けた十人の兵士達が、長く大きな鉄製の筒を担ぎ、その筒の先を防護壁の裏門へと一斉に向けた。筒の先は大きな穴が開いており、それを見て察するに、彼らが担いでいるのは砲の一種である。筒にはグリップのようなものが付いており、兵士達はそのグリップをしっかり握ると、同じく取り付けられている引き金に指をかけた。
「撃てっ!!」
ヘルベルトの号令を受けた十人の兵士達は、一斉に引き金を引いた。次の瞬間、筒の先端から発砲音と煙と共に、何かが高速で撃ち出されたのである。一斉射されたその物体は、ほぼ同時に鋼鉄防護壁の裏門に直撃し、激しい爆発を巻き起こした。
「初弾は全弾命中だ!どんどん撃ち込め!!」
彼らが使用した兵器は、バンデス国の反乱軍鎮圧時に攻城兵器として使用された、試作の携帯式対要塞破壊兵器である。つまり、バズーカ砲などとも呼ばれる事がある、無反動砲の事だ。
発明家シャランドラは、遂に歩兵が携帯する事の出来る、無反動までも完成させてしまった。最早彼女には、作り出せない兵器が存在しないのかもしれない。そう思わせる程、この無反動砲もまた、完成度の高いものであった。
この兵器の実戦テストは、既にバンデス国反乱軍鎮圧で済まされている。無反動砲の力で、要塞のような敵軍の砦の城壁を破壊したのだ。故に、破壊力は保証付きである。如何にアーレンツの鋼鉄防護壁が鉄壁を自負しようと、この無反動砲を前にしては、自慢の防護壁もそう長くは持たない。
「次弾装填よし!!」
「こいつであの門を鉄屑に変えてやるぜ!」
「撃てっ!!」
戦闘狂である彼ら鉄血部隊にとって、この兵器は恐怖の玩具と言えるだろう。彼らは用意した無反動砲の弾を使い切らんとする勢いで、次々と弾を発射する。
攻撃を受けている裏門のアーレンツ国防軍は、敵の奇襲攻撃と爆発によって混乱し、砲の攻撃を恐れて逃亡する兵士もいる。アーレンツ軍は現在も指揮系統を失っているため、そもそも士気が大幅に低下しているところに、この攻撃である。そのせいで、彼らの恐怖心は一層大きくなっていったのだ。
士気が低く、恐怖心に駆られている今のアーレンツ兵士達に、無反動砲攻撃に対しての有効な対処が執れるはずもない。防護壁の裏門は攻撃に晒され続け、遂に限界を迎えたのだった。
「部隊長!門が倒れますぜ!!」
無反動砲の連続一斉射によって、裏門は大きく凹み、門と壁を固定させていた固定具を引き千切りながら、音を立てて倒れていった。鋼鉄の門であったために、簡単に大穴が空くような事はなかったが、火薬の爆発による衝撃を受け続けたせいで、門自体が外からの衝撃に耐えきれなかったのだ。
「はっはははははははっ!!何が鉄壁の防護壁だよ!俺達にかかりゃあんなもん、その辺の石ころ砕くのと大差ねぇぜ!」
裏門の破壊に大笑いする鉄血部隊の面々達。そんな彼らと、あの鋼鉄の門を破壊した光景に、驚愕を隠せない者達がいる。それは、鉄血部隊の後ろに控える、他国の軍の兵士達であった。
彼らは、ジエーデル国軍警察の戦力であり、この戦いに勝利するための切り札である。彼らに裏門から奇襲攻撃を行なわせ、二方面からアーレンツへ侵攻する事こそが、帝国軍の真の目的だったのだ。
「ふふっ、報告通りの威力じゃないか、このバズーカ砲は」
「面白い玩具ですぜ姉御。奴らを皆殺しにするには丁度いい」
裏門の破壊に沸き立つ鉄血部隊。アーレンツという名の獲物に狙いを定め、瞳の奥をぎらつかせているヘルベルトに、一人の女性が話しかけた。その女性は、戦場には全く似つかわしくない、紅いドレスを身に纏い、長く美しい金髪を風に靡かせていた。彼女こそ、帝国軍とジエーデル軍の共同戦線を造り上げた張本人である。
「ジエーデルの軍警察があれを見て驚いている。私の力を見せつける上でも、これは丁度いい機会だよ」
「私の力って・・・・・。姉御、バズーカの力はシャランドラの奴のお陰ですぜ?」
「何を言っている。シャランドラもまた私のものなのだから、あの子が作った兵器の力もまた私のものに決まっているだろう?」
このとんでもない理論を口にする者こそ、帝国を裏で支配していると言われている、絶世の美女にして帝国宰相の、名をリリカという。帝国参謀長リクトビアが最も心を許し、大きな信頼を寄せている女性だ。
彼女には誰も逆らえない。帝国女王ですら、時に彼女には逆らえない。帝国最凶と呼ばれる彼女は、この戦争に勝つための切り札を用意し、この地にやって来たのである。全ては、彼女にとっても大切な存在であるリックを、必ず取り戻すために・・・・・・。
「さあ、舞台は整った。そろそろ行こうじゃないか」
「了解ですぜ。野郎共、アーレンツに殴り込むぞ!!」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」」」」
帝国宰相リリカは、殺しを得意とする恐ろしき兵士達を引き連れ、戦場にその姿を現したのである。
帝国最凶率いるその軍団の放つ異様な覇気は、まるで、彼女の怒りと殺意を表しているかのようであった。
0
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
魔物をお手入れしたら懐かれました -もふプニ大好き異世界スローライフ-
うっちー(羽智 遊紀)
ファンタジー
3巻で完結となっております!
息子から「お父さん。散髪する主人公を書いて」との提案(無茶ぶり)から始まった本作品が書籍化されて嬉しい限りです!
あらすじ:
宝生和也(ほうしょうかずや)はペットショップに居た犬を助けて死んでしまう。そして、創造神であるエイネに特殊能力を与えられ、異世界へと旅立った。
彼に与えられたのは生き物に合わせて性能を変える「万能グルーミング」だった。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
13番目の神様
きついマン
ファンタジー
主人公、彩人は23歳の男性。
彩人は会社から帰る途中で、通り魔に刺され死亡。
なぜか意識がある彩人は、目を開けると異世界だった!!
彩人を待ち受ける物語。それは、修羅か、悪鬼か、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる