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第二十九話 アーレンツ攻防戦
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「撃ちまくるんや!何もかも吹き飛ばしてやるんや!!」
アーレンツの正面防護壁から離れた地点に展開している、ヴァスティナ帝国軍。帝国軍の陣地が構築されたこの場所に、彼女の姿はあった。
眼鏡をかけた少女が一人、自分よりも年上であろう男達に、次々と命令を飛ばしていく。この少女は、この場で誰よりも大きな権限を与えられており、兵士達に命令を下す事の出来る、帝国軍の幹部の一人である。
彼女の名はシャランドラ。帝国軍兵器開発の最高責任者であり、今現在アーレンツを攻撃中である、大陸初の移動式遠距離攻撃兵器の生みの親である。
「アーレンツの奴らに容赦はいらんで!全員まとめて皆殺しにしたるんや!!」
彼女の眼に映るのは、慌しく動きまわる兵士達と、彼女指揮下の技術者達。そして、彼女が完成させた、大陸史上初の発明品である。
その兵器は、巨大な火砲を備えた、鋼鉄の乗り物であった。火砲も含めると、その全長は十メートルを超えている。鉄で覆われた車体は、鉄製の履帯を備えており、これによって無限軌道と呼ばれる移動が可能である。
備え付けられている砲は、榴弾砲と呼ばれる兵器であり、遠距離からの砲撃を可能としている。今現在アーレンツの街を攻撃しているのは、この榴弾砲であり、放たれた榴弾が街に着弾し、その爆風効果と破片で被害を拡大させているのだ。
この兵器は、ヴァスティナ帝国とジエーデル国が戦った、「南ローミリア決戦」時に使用された試作榴弾砲を完成させ、その戦争後に同じく完成させた、魔法動力機関内蔵の車体と合体させた、「自走砲」と呼ばれる帝国軍の新兵器である。
「シャランドラ殿!!弾着観測班の報告で、敵国の被害甚大!砲撃地点からは複数の黒煙が上がっているとの事です!!」
「よっしゃ!うちらの第一の仕事は敵施設の完全破壊や!この調子でどんどん砲撃加えるで!!」
「アーレンツの奴ら、今頃泡食ってますね。奴らは自走砲の存在を知らないはずですから」
「開発とかも極秘で進めとったんやから、知っとるわけないで。アーレンツ自慢の鋼鉄防護壁だかなんだか知らんけど、この自走砲がある限り、勝つのはうちらや」
現在、アーレンツに苛烈な砲撃を行なっている自走砲の数は、二十両である。ジエーデルから密かに受け取っていた鉱物資源を全て使い、彼女達はこの兵器を完成させるだけでなく、量産まで行ったのである。たった一両だけでも、この戦場では、存在するだけで戦局を左右する兵器と言えるのだが、それが二十両も存在するのだ。街中の建物を軽く破壊できる強力な榴弾砲が、二十基も存在するとあっては、敵からしたら堪ったものではないだろう。
帝国一の発明家シャランドラが、この日のために昼夜問わず作業し続け、やっとの思いで完成させたこの自走砲。彼女の夢の結晶である「魔法動力機関」は、機関内部で魔力を増幅させ、それを動力源として機械を動かす、画期的な発明品である。その発明品を、履帯を備えた鋼鉄製の車体に内蔵し、車体に乗り込んだ操縦者が、この鉄車を動かす事によって、重く巨大な榴弾砲を、簡単に戦場へ運ぶ事を可能にした。
シャランドラが心血を注いで完成させた自走砲は、彼女の夢が詰まった発明品である。そして今、この発明品は、沸き上がる彼女の怒りと殺意を纏い、彼女達の敵を皆殺しにするべく、その砲口を空へと向け、弾頭を放ち続ける。
「ええで、ええで!連中の悲鳴が聞こえてきそうや!!」
自走砲の発明者シャランドラは、この一方的な敵地への攻撃を、非常に楽しんでいる。邪悪な笑みを浮かべ、自分の生み出した兵器達を見る彼女の眼には、見た人間を恐怖させるほどの、憎しみの炎が燃え上がっていた。
彼女にとって自分の発明品は、自分の子供同然。愛おしくて仕方のない、愛してやまない存在。そんな彼女の子供達は今、彼女が激しい憎悪を燃やす敵国を、その恐るべき力で蹂躙しようとしている。生みの親として、それが彼女は嬉しくて仕方がないのだ。
今の彼女は、アーレンツの人間を人と見ていない。見るだけで腹が立つ、害虫くらいの存在としか考えてはいない。だからこそ、彼女は敵国の街を平気で攻撃できる。軍人も市民も関係なく、皆平等に殺す事しか、彼女は考えていない。
「うちの可愛い自走砲達!うちらからリックを奪った、あの国の全部をぶっ壊すまで撃ち続けるんやで!!」
自走砲の弾が討ち尽くされた時、果たしてどれだけの人間を殺す事ができたのか?それを知る事が、今の彼女の楽しみの一つであった。
帝国一の発明家にして、悪魔の兵器の生みの親シャランドラ。彼女が存在する限り、死人は増え続ける。彼女の存在こそ、この戦争を地獄へと変える狂気なのである・・・・・・。
アーレンツの正面防護壁から離れた地点に展開している、ヴァスティナ帝国軍。帝国軍の陣地が構築されたこの場所に、彼女の姿はあった。
眼鏡をかけた少女が一人、自分よりも年上であろう男達に、次々と命令を飛ばしていく。この少女は、この場で誰よりも大きな権限を与えられており、兵士達に命令を下す事の出来る、帝国軍の幹部の一人である。
彼女の名はシャランドラ。帝国軍兵器開発の最高責任者であり、今現在アーレンツを攻撃中である、大陸初の移動式遠距離攻撃兵器の生みの親である。
「アーレンツの奴らに容赦はいらんで!全員まとめて皆殺しにしたるんや!!」
彼女の眼に映るのは、慌しく動きまわる兵士達と、彼女指揮下の技術者達。そして、彼女が完成させた、大陸史上初の発明品である。
その兵器は、巨大な火砲を備えた、鋼鉄の乗り物であった。火砲も含めると、その全長は十メートルを超えている。鉄で覆われた車体は、鉄製の履帯を備えており、これによって無限軌道と呼ばれる移動が可能である。
備え付けられている砲は、榴弾砲と呼ばれる兵器であり、遠距離からの砲撃を可能としている。今現在アーレンツの街を攻撃しているのは、この榴弾砲であり、放たれた榴弾が街に着弾し、その爆風効果と破片で被害を拡大させているのだ。
この兵器は、ヴァスティナ帝国とジエーデル国が戦った、「南ローミリア決戦」時に使用された試作榴弾砲を完成させ、その戦争後に同じく完成させた、魔法動力機関内蔵の車体と合体させた、「自走砲」と呼ばれる帝国軍の新兵器である。
「シャランドラ殿!!弾着観測班の報告で、敵国の被害甚大!砲撃地点からは複数の黒煙が上がっているとの事です!!」
「よっしゃ!うちらの第一の仕事は敵施設の完全破壊や!この調子でどんどん砲撃加えるで!!」
「アーレンツの奴ら、今頃泡食ってますね。奴らは自走砲の存在を知らないはずですから」
「開発とかも極秘で進めとったんやから、知っとるわけないで。アーレンツ自慢の鋼鉄防護壁だかなんだか知らんけど、この自走砲がある限り、勝つのはうちらや」
現在、アーレンツに苛烈な砲撃を行なっている自走砲の数は、二十両である。ジエーデルから密かに受け取っていた鉱物資源を全て使い、彼女達はこの兵器を完成させるだけでなく、量産まで行ったのである。たった一両だけでも、この戦場では、存在するだけで戦局を左右する兵器と言えるのだが、それが二十両も存在するのだ。街中の建物を軽く破壊できる強力な榴弾砲が、二十基も存在するとあっては、敵からしたら堪ったものではないだろう。
帝国一の発明家シャランドラが、この日のために昼夜問わず作業し続け、やっとの思いで完成させたこの自走砲。彼女の夢の結晶である「魔法動力機関」は、機関内部で魔力を増幅させ、それを動力源として機械を動かす、画期的な発明品である。その発明品を、履帯を備えた鋼鉄製の車体に内蔵し、車体に乗り込んだ操縦者が、この鉄車を動かす事によって、重く巨大な榴弾砲を、簡単に戦場へ運ぶ事を可能にした。
シャランドラが心血を注いで完成させた自走砲は、彼女の夢が詰まった発明品である。そして今、この発明品は、沸き上がる彼女の怒りと殺意を纏い、彼女達の敵を皆殺しにするべく、その砲口を空へと向け、弾頭を放ち続ける。
「ええで、ええで!連中の悲鳴が聞こえてきそうや!!」
自走砲の発明者シャランドラは、この一方的な敵地への攻撃を、非常に楽しんでいる。邪悪な笑みを浮かべ、自分の生み出した兵器達を見る彼女の眼には、見た人間を恐怖させるほどの、憎しみの炎が燃え上がっていた。
彼女にとって自分の発明品は、自分の子供同然。愛おしくて仕方のない、愛してやまない存在。そんな彼女の子供達は今、彼女が激しい憎悪を燃やす敵国を、その恐るべき力で蹂躙しようとしている。生みの親として、それが彼女は嬉しくて仕方がないのだ。
今の彼女は、アーレンツの人間を人と見ていない。見るだけで腹が立つ、害虫くらいの存在としか考えてはいない。だからこそ、彼女は敵国の街を平気で攻撃できる。軍人も市民も関係なく、皆平等に殺す事しか、彼女は考えていない。
「うちの可愛い自走砲達!うちらからリックを奪った、あの国の全部をぶっ壊すまで撃ち続けるんやで!!」
自走砲の弾が討ち尽くされた時、果たしてどれだけの人間を殺す事ができたのか?それを知る事が、今の彼女の楽しみの一つであった。
帝国一の発明家にして、悪魔の兵器の生みの親シャランドラ。彼女が存在する限り、死人は増え続ける。彼女の存在こそ、この戦争を地獄へと変える狂気なのである・・・・・・。
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